第12話 愚か者と霊長類の戯れ

 艶やかな金髪を揺らしながら人影が海沿いの岩場を軽やかに跳ねる。


「ふんふんふーん」


 上機嫌に鼻唄を歌いながら進むその様は、ちょっとハードめなアウトドアレジャーを楽しんでいる雰囲気だ。現在殺し合いというイベントの真っ最中とは思えない何ともほのぼのとした光景だった。


「ふんふんふふーん」


 そうは言えども、やはり殺し合いの最中である。

 腰に引っ提げた武骨な柄と幅広で大きい刃物が収められている黒色の鞘を見て、観客も殺し合いだと思い出した様に一つ息を吐く。


「ふんふーん」


 岩場をぴょんぴょん進んで行くと、それなりに太い植物の蔓が進行を阻害していた。それを特注したモノの使い道が無く骨も裁断できる大鉈で切りつけ、進路を確保する。

 うっとりするほど鋭い斬れ味、鈍く煌めく刃、ズシリと来る重みに、「コレで人を斬ったらどんな素晴らしいモノが見えるんでしょうねぇ」と刃先を見つめながら嗤いながら零す女に、観客はこの後を想像して沸き立った。


「いやー、うん。思った通り此処はイイネ! 此処を中心にに動き回ろう」


 彼女――サイコパスリッパーが拠点として選んだのは、海蝕洞又は海食洞と呼ばれる波浪による侵食で海食崖に形成された洞窟。

 潮の満ち欠けや天候如何によっては完全な籠城が可能になるが、モノに寄ってはそのまま溺死するリスキーな場所である。足場も脆かったり滑りやすかったり、突如鉄砲水が噴き出したり、風が木霊して叫び声のように聞こえたり、天然のトラップがそこかしこにあったりする。


「山も捨て難いけどーやっぱり海よねー。あーコンクリートジャングルで詰め込まれたストレスが波の音で洗い流されていくー」


 殺し合いに来ているのに完全なレジャー気分。休暇に遠出して浮かれている人そのものだった。


「とりあえず資源はいっぱいあるしぃ此処を罠いっぱい素敵空間にしよー」


 雰囲気は外人さんが海蝕洞の中を探検するほんわか映像なのだが、作り出したトラップはなんでそんな天然素材だけで作れるの!? とギャラリーが困惑してしまうモノだった。


 その後もギャラリーたちは、天然の要塞が武装要塞に様変わりしていくのを呆気にとられながら眺めるしかなかった。


「こんな事もあろうかと勉強しておいてよかったー」


 現代に生きていて、罠作りをする機会を得る事はほぼ皆無に等しい。なのに⋯⋯こんな事まで想定しているサイコパスリッパーを見ていた観客一同「ねーよ」と一斉に突っ込んだ。




 ◆◆◆◆◆◆◆




「こちらギャンブラー、男が運び込まれた部屋を突き止めた」


『ナイスだ。一旦戻ってこい。最終確認を行う』


「了解」


 私はギャンブラー。

 公営のギャンブルから非合法なギャンブル、果ては裏のギャンブルに生命が掛け金なギャンブルなど、ギャンブルと名がつくものがあればそこへ赴き、脳汁をドバドバさせるのが生き甲斐な33歳。

 内臓は何個か代替品に変わっている。目も片方は義眼だったりもする。あと二個くらい内臓取られるも死ぬとか言われているけど、どうもやめられないの。困っちゃうわよね。


 そんな私、今ね、とっても内臓の危機なの。


 だってさぁ⋯⋯あの有名な地刃家の天才が、まさか初戦でフォックスと遭遇するとか予想外も良いとこだよコンチクショウ!!

 ちょーっと此処の参加券を勝ち取るのに金を使いすぎてー掛け金とかに必要なお金がさー、足りなくてさー、真っ黒寄りのグレーな所からお金借りてしまったんだよね。それがあのクソ狐の所為でパーよ。やってらんないわ。


 そんなわけで、今私に融資を持ち掛けてきたどっかで見たことあるババアの口車に乗って男の確保に奔走させられている真っ最中でありんす。この作戦が失敗しても死、露見しても死、成功以外ならどうせ死ぬならワンチャンお零れも貰えそうなコレに乗るしかないでしょってなってます。

 うん、誰か助けて。まだもっと生きて脳汁ドバドバ出したいの。脳味噌が脳汁に浸かる位。その果てに非業の死が待っていようがそれはそれでいいの。


「よく戻った、さぁ同志諸君!! 皆が殺し合いに夢中になっている間に男を手に入れて乱交しようではないか!!」


「「「「「オォォォォォ!!」」」」」


 敗者の集まりが吼える。私は冷静。温度差に耳がキーンてなるわ。まぁ、いいわ、やってやろうじゃない。大穴ベットピンズドヒャッハーがまたしたいのよ!!




 ◆◆◆◆◆◆◆




「わたしのーお腹ーのーにーくをーつままないでくださいーそれはー脂肪じゃありませんー太ってなんかーいませーんー」


 はい、と言う訳で捕まりました。

 現場の脳汁ギャンブラーです。お久しぶりです皆さん。

 今ちょっとたるんできたお腹を摘まれて左右に引っ張られています。脂肪じゃないよ、女の腹には夢と希望が詰まってるのよ!! 引っ張らないで! 揺らさないで! タプタプしないで!! 誰か助けて!!!

 捕まってこの方、ずーーーーーっと無言で夢と希望のマイポンポンをタプタプし腐りやがるんですよ。喋れやボケ!!


 あ、そうそう、捕まった連中は所詮、私のように気合いも根性も足りないただの賭けの敗者共なので、指の爪を剥がされた程度で首謀者や作戦をゲロゲロしちゃったらしいの。

 私まで拷問吏が回ってこなかったのはいいけど、ちょっとSッ気と百合の香りがするレスラーみたいなヤツが私の見張りに付いてさっきの状態になってるのさ。ははは、助けて。


「ねぇ貴女⋯⋯この縫合している所の糸、解いていい?」


 つい先日胃の半分を切り取られた時の縫合跡をべろべろ舐めまわしながらそんな事を言われて恐怖する。やっと口を開いたらコレとか何? コイツ怖ぁ⋯⋯


「⋯⋯⋯⋯」


 ドン引きしすぎて言葉が出てこない私を見て、にーっこりと笑った目の前のデカレスラー女。無言を肯定と見たのか、歯で縫合した部分ごと噛みちぎってきやがった。何よこのマジキチは!?


「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ゛!?!?」


 縫合糸ごと血肉を咀嚼しながらジィィィッと苦しむ様を観察しているレスラー女。

 過度なリアクションをすればもっと酷くなると直感した脳汁ギャンブラーは、持ち前のポーカーフェイススキルを全力で使って最初の噛み殺した悲鳴以外にレスラー女を楽しませなかった。


 どうやら、私は二分の一を外したようだ。


「つまんない」


 口の中のモノを嚥下した後、抜け落ちるようにニヤケ顔を真顔にしたレスラー女は傷口に指を突っ込んで中を掻き回し始める。

 同じ体内でもマ〇コに指を突っ込んで掻き回されるのとは訳が違う、形容し難い痛みだけが絶え間なく襲いかかる。


「あ゛ぁぁっ!!」


 耐えきれずに上げた悲鳴に満足したのか、レスラー女の顔に表情が戻る。


「おぉ! いい声で啼くじゃない⋯⋯ギャハ♪」


 そう言うとレスラー女は指を抜き、ウンウンと頷きながら部屋から出ていった。


「ハァッ⋯⋯ハァッ⋯⋯た、助かった、の?」


 まさか、こんな事をされるとは思ってもみなかった。今更だけどヤバいヤマに手を出してしまったと後悔するも、事態は好転もせずに暫く痛みに耐えていた。


 そんな脳汁ギャンブラーの元へ、絶望が帰還する。


「お ま た せ」


「ひっ⋯⋯」


 帰ってきたレスラー女が手にしていたモノは、バイブやピンクローターの入った箱だった。


「ま、まさか⋯⋯」


 怯える私にレスラー女はニチャッと嗤いながら語りかけた。


「好きでしょ? コレらの道具」


 マ〇コやケツに挿入れてくれるかなという淡い期待は抱くだけ損であった。


「イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!!!」


 血をローション代わりに使い電源を入れたピンクローターをどんどん体内に送り込まれ、その全てを入れ終わるとトドメとばかりに突起が付いたバイブが刺し込まれた。




 ◆◆◆◆◆◆◆




 コードネーム・ゴリラゴリラゴリラ


 仮令コードネームだとしても、人に付ける名前としては最低辺な部類だろう


 しかし、彼女はそれが似合った


 似合いすぎていた


 素手で大腿骨を圧し折り、頭部を鷲掴みにして人を投げ、頭突けば相手の頭蓋骨陥没、走るトラックと搗ち合ってトラックを損壊し、手錠や足枷の拘束すら自力で外し、目隠しをしても直感で攻撃を避け、毒も直感で避ける生き物。

 そんなコードネームが自然に定着するのは人が飯食って糞をするくらい当然な事であった。


「おーう、終わったぞォ」


 口と手を血で真っ赤に染めたゴリラゴリラゴリラが、処女メイドたちの控え室に戻ってきた。


「お疲れ様です。失礼ですが余りにも血で汚れすぎていますので、一度シャワーを浴びてきて下さい」


「ンだよ、そんくれェ許せや」


 ゴリラゴリラゴリラの対応をしたのは処女メイドの今季メイド部の長。

 メイドだけに身嗜みには一過言あるが、この目の前の霊長類にはそれが理解出来ない。


「⋯⋯貴女たち」


「「ハイ」」


 同室で休んでいた処女メイド二人は直ぐ様動き出して霊長類の両脇を拘束。


「だりぃからさァ⋯⋯」


「ダメです。貴女はただでさえ目立つんですから⋯⋯お客様方の目に着く可能性がある以上こちらに従って頂きます。大丈夫です、その二人が全て行いますので貴女はボーッとしていれば良いのです」


「へぇへぇわかりましたよ」


 一応この霊長類の今回の雇い主は処女メイド全体の長である。だが、正式に武力部隊運用の全権を委任されているのがメイド部長が現場トップなので、従わざるを得ない霊長類は素直に引き摺られて出ていった。


「では、ゴリラゴリラゴリラ様の身嗜みが整い次第、今事案にケリをつけに行きますので準備をよろしくお願いします。それと本部に連絡を取り、首謀者と協力者の社会的地位及びプライベートを徹底的に破壊する様、伝達をお願いします。以上」


 返事は無く、見事なカーテシーをキメてそれぞれ散っていく。メイドの仕上がり具合いに満足して一つ頷くとメイド部長も動き出す――



 組み立て式アイアン・メイデンが入った重そうなスーツケースを手に。




 ◆◆◆◆◆◆◆




「一つ砕いてはフェチの為ぇ」


 カンカンカンッと小気味良い音と最高に頭の悪い歌が何とも言えないマリアージュを醸している不気味な武装海蝕洞の一幕。


「二つ砕いては血とお肉ぅ」


 まだ、続いた。


「三つ砕いては内臓とぉ⋯⋯この続き知らね」


 そして唐突に終わる。


「よーしよし、これくらいでいいかなぁ」


 薄暗い海蝕洞の中でズラリと眼科に並ぶ海蝕洞産ナイフを満足そうに眺めて微笑む金髪美女。


「この破片もいい感じに撒菱になってくれるし一石二鳥だね♪ あーあ、あの病院のヤツらも参加してくれれば良かったのに⋯⋯でもいいや。いっぱい此処で憂さ晴らしするから。さてと、ご飯を調達しに行こー」


 満面の笑み→真顔→満面の笑みと表情がコロコロ変わるが、もう観客もそれに慣れ始めていた。猛者共である。


 小器用に砕いた石片を針のように加工し、隠し持ってきていた縫合糸へ付けて切った木の枝に装着。あっという間に原始的な釣竿が完成した。

 入念なボディチェックをもすり抜ける隠蔽技術もまた、彼女がサイコパスな所以だろう。流石に針やメスなどはバレて没収されたが⋯⋯それもまたいい目眩しになった。


「捌き甲斐もあるしマグロが食べたいなー。釣れるかなぁ♪ 釣れたらいいなぁ♪」


 釣れる訳が無いが、誰も突っ込みを入れる者はこの場には居ない。




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 ・人物紹介


 茶羽根ちゃばね あきら

 33歳 非処女 

 脳汁ギャンブラー 茶髪セミロング ちょいポチャ

 三度の飯より賭け事が好きなマジキチ 生命をベットするのはまだ早いと思っている

 死なないならオッケーで内臓も平気で賭けられる

 男との一夜権が掛かった賭けで勝ったが、初体験は思ってたんと違うとなり賭け事に余計にのめり込む

 体重の割に体型はポチャいのが悩みだが、減った体重は取られたり減ったりした内臓分

 ボボンポチャボン体型



 牛山うしやま あかね

 31歳 非処女

 コードネーム・ゴリラゴリラゴリラ 黒のベリーショート

 快楽主義者で刹那主義者でドSの暗殺者兼鉄砲玉兼SP

 金を貯めないのでかなりデカいヤマの後でも約三日後には依頼を求める

 楽しければ何でもいいし、つまらないなら壊せばいいと考えている為扱い難いが、結構任務には従順

 ステゴロ大好き、拷問も大好き

 ゴリラゴリラゴリラは止めてほしいと思っている

 レスラーと相撲の良いとこ取り体型



 蘇芳すおう あい

 年齢非公開 非処女

 処女メイド メイド部長 シニヨン

 御奉仕精神の塊で誰かに尽くしたい願望が強いが、内面にどす黒い破壊願望を抱えている

 実は戦闘力はゴリラゴリラゴリラとタメを張る程

 料理はド下手

 控えめキュッ安産体型

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