お買い物

「メィリィ嬢、待っていたよ」

「どちら様ですかぁ?」


待ち合わせ場所で話しかけられたのは紫がかった黒髪に、紫の瞳の男性。

髪の一房だけ白い色をしている。


騎士服の裾には控えめな刺繍。

帯剣している剣の持ち手に見覚えがある。


「もしかして、オスカー様ですかぁ?」

「正解。さすがメィリィちゃん」

普段と違い化粧も薄っすらだ。

「雰囲気だいぶ違いますねぇ」


思わずまじまじと見てしまう。


「いやん、恥ずかしい」

オスカーは両手を頬に添え、照れた仕草をする。

「そうしてると普段のオスカー様ですねぇ、どちらもカッコいいですよぉ」

「褒められると嬉しいわ。さてどこから行こうかしら」


すっと手を差し伸べられる。

「行きましょ、メィリィちゃん」


口調はいつもどおりだが、いつもと違う格好で言われ、ギャップに違和感が。

「慣れないものですねぇ、中身はオスカー様だとわかってるのですが」

口を閉じれば格式高い騎士にしか見えない。

「違和感ね。では今日はこの格好に合わせようかな。行こうかメィリィ嬢」


男の格好に男の口調。


メィリィの心臓が持つだろうか。




「今日は楽しかったよ、ありがとう」

「いえいえ、私も男性服を見られて新鮮でしたわぁ」


カフェにて一息つきながら二人は談笑する。

「男性服は見る機会が少ないか。デザインしてみたいとは、思わないかい?」

「してみたいですが、難しいですわぁ。女性と違い、華美なものは好まない方も多いですしぃ。その点オスカー様のは幾ら刺繍しても、細工を色々つけても着てくれますもの、嬉しいですぅ」


メィリィは果実水を一口飲む。

さっぱりとしていて、冷たさが心地よい。

「俺はそういうのが好みだからな。今更だが、婚約者にプレゼントという名目で、作ればいいのでは?きっと喜ぶと思うよ」


「そんな方はいないんですぅ」

「へぇ意外だ。あのような店まで構えてるのだから、婚約者殿と共同出資してるのかと思っていたよ」

「恥ずかしながら、父の助力で何とかなってるのですぅ。店がうまくいかねば、父の決めた婚姻をしなければなりません」


オスカーの眉がピクリと跳ねる。


「それは大変だ。今のところ大丈夫か?」

「今はまだ大丈夫ですぅ。友人が私のドレスを着てパーティに参加してくれたり、出資者の一人になってくれましたのでぇ」


「それなら俺も出資者の一人になるよ。今度落ち着いたらその話をさせてくれ」

驚きの言葉だ。

「まだまだ配当も難しいくらいなのですが、いいのですかぁ?」

「散々服をお願いしてるし、メィリィ嬢の店がなくなるのは困るからね。好きなデザイナーさんは応援したくなるだろ?」


オスカーは片目を瞑りウインクをする。


「有り難いお言葉ですぅ」

支援してくれる人が増えるのはありがたい事だ。


「それに頑張る女の子は応援したい」

不意に頭を撫でられた。

羞恥で顔が真っ赤になる。

「ななななっ…!」


メィリィは言葉にならない声を出す。


「はははっ、メィリィは可愛いな」


耳元付近の髪に何かを感じる。

花の髪飾りだ。


「お守りだよ、つけてて」

オスカーは優しくメィリィを見つめる。

慈しむような瞳、メィリィは胸がドキドキしてたまらない。


「んっ?」

オスカーが何かを感じ、内ポケットに手を入れた。


騎士同士がやり取りするための通信石が反応したのだ。


「キールか?」


キールは騎士仲間の一人だ。

この時間は勤務中のはずだ。


『オスカー、今どこにいる。メィリィ嬢は一緒だよな?』

「ちょっとぉ、予定全部バレバレなの?それで、何があったの?」


わざわざ連絡来るとは、非常事態以外のなにものでもない。


「落ち着いて聞け。メィリィ嬢の店に強盗が入った」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る