第5話

「もう、この町から出よう」


 家に帰ってきた僕たちの話を聞いて、お父さんは静かにこうつぶやいた。リビングルームのソファに座っている「もも」も強くうなずいていた。今まで我慢をしていた家族がこの結論に至ったのは決して、今日の僕だけが要因ではない。実は、あの黒い人影に、お父さんとももはなんと家の中で襲われていたらしいのだ。


 「私が帰宅した途端、ももが飛びついてきて・・・・・・」


 「ももが、パパ、パパ、って、指さしてる方向見るとさ、変な黒い人みたいなのがゆっくり近づいてきたんだよ。私はすぐももを連れて逃げたんだが、しつこく追ってきたんだ。最終的に姿を消したからどうにかなったけどさ。多分、せいじが見たっていったのと同じ化け物だろ」

 

 「まあ、聞く限りは」


 あの黒い人影は僕たちを狙っているのかな・・・・・・


 それからお父さんは腹立たしそうにこう言った。


 「警察にも言ったが動かない、近所の人もいつも通り。はっきりいってこの町はおかしいとかそのレベルの話じゃない。危険だ」


 「でも、また引っ越しってなったら相当な出費よ?」とお母さん。


 「いいさ。私がなんとかするから。それよりも、家族の命の方が大事だ」


 「だから、そう思っていてくれ。お前たちもいいな?」


 僕とももは頷いた。


 ただ、引っ越しの準備の時間はかかるので、その間はももは普通に幼稚園に、僕は高校に通った。お父さんたちにとって、家に子供たちだけで籠らせるよりは、人がたくさんいるところの方が安心できたのだろう。というか、家はそもそも、もう安心できる場所ではないと分かったのだから。


 でも、僕にとって友達二人の消えた学校生活は楽しくなかった。いや、仮に新たに友達を作ったとしても、日が変わるとその人はいなくなる。


 毎日そのサイクルで、教室からはちょっとずつ生徒の数が減っていった。


 僕はずっと自分の席で、人が消えていく様を見ていた・・・・・・


 

 二週間くらい経ったある日、放課後の夕日に照らされた教室で、僕はひとりで自分の席に座っていた。もちろんその日も授業があって、生徒も来ていたけど、だいぶ減ったな、と思う。だんだん、学校にいく意味もわからなくなってくる。


 そんなことを考えながら、じっとしていた。


 そして今日は、何故か逃げ出したくなるような気配をずっと感じていた。妙な視線と、不気味な笑みを浮かべているものが一日中僕を狙っている。きっと、僕が帰るのが一番遅かったのは彼にとって好都合だっただろう。おなじみの黒い人影が近くまで来て僕のそばに立っていた。


 当然、僕は動けない。


 「はあ、終わった」


 「・・・・・・」


 「たす、けて・・・・・・」


 「え?」


 近くから変な声が聞こえた。


 「誰か、俺たちに気づいて」


 衝撃的な事実が今発覚した。黒い人影はどうやら喋れるらしい。ただ、妙に人間臭い声で、いや、この声、どこかで聞いたことあるぞ?


 「寂しい・・・・・・」


 「その声、


 かずのり?」


 僕の友達で最初に消えた、かずのりの声だった。


 


 


 


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