夕暮れ時

 目が覚める。今は何時なんだろう、見当もつかない。頭が痛い。軽く吐き気もする。ネットカフェのドリンクバーでオレンジジュースを一気飲みし、シャワーを浴びて歯を磨いた。


 一息つくと、何をやっているんだろう、という思いが込み上げてきた。


 店を出ると、外はもう夕方だった。街を歩くと漫画に出てくるヤクザみたいな格好の人が歩いているのを見て、なんだか別の世界に来てしまったような気持ちになった。ふと気持ちが不安定になり、このまま家に帰ることも考えたが、すぐに思い直した。このままじゃいけない、何かしなくては、という気持ちがまだあった。僕は今、強い孤独感と、不安感と、解放感に包まれていた。




 個人でやっている居酒屋に入ってカウンターに座る。客は僕のほか誰もいない。この街の名物なんて知らなかったので、焼き鳥の盛り合わせとビールを頼んだ。




 一人でビールを飲んでいると、初老の男性店員からカウンター越しに話しかけられた。


「学生さん?」


「あ、はい」


「じゃあ今は夏休みか、いいなぁ。ここら辺の学生さん?」


「いや、東京です」


「へー、じゃあ旅行かなんかかな。どこの大学?」


「全然大したところじゃないです」


「学生時代の夏休みに一人旅か。いいねぇ、青春だね。ここの近くに泊まるのかな」


「いや、泊まるところはまだ決めてないです」


「随分と身軽な格好だけど、荷物は?」


「財布以外は何も持ってきてなくて。急に思い立って家を出ちゃったので」


 初老の男性店員はそれを聞いて楽しそうに笑った。ビールをお代わりすると、サービスだと言って、よく分からない煮物料理を出してくれた。




 会計を済まして外に出ると、空はもう暗くなっていた。夕方の最後、夜の始まりといったところだ。街は様々な色のネオンに照らされ、先程までとはまた違った世界に来てしまったような気がした。


 コンビニで缶ビールを買い、近くの小さな公園のベンチに座って飲んだ。夜風がとても心地良かった。


 何となく遊具をぼんやりと眺めていると、「プシュ」という小気味の良い音が聞こえてきた。近くのベンチで僕と同じように飲んでいる人がいるらしい。ふとそちらを見ると、そこには昨日の女性がいた。恰好は昨日と違ってかなりカジュアルで、白いTシャツ、デニム、パンプス。近くに小ぶりなブランドものらしいバッグと、ハイボールの空き缶が置いてあった。彼女は店で見た時よりずっと幼く見えた。


 僕は慌てて目をそらしたが、彼女から僕に話しかけてきた。


「昨日、こっち見てたでしょ」彼女はニヤニヤしながらそう言った。目元はすでに少し赤みがかっていた。


「え、なんのこと」


「わたしがお客さんとアフターしてるとき、うらめしそうにこっち見てたよ。うらめしやーって」


「見てないよ」


「ふーん。でもお兄さん嘘つきだからなぁ」


 彼女は楽しそうに笑った。

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