第25話、楽しい思い出作り

 純白と買い物に出かけたのは既に先週の事。


 月曜日から金曜日までの学校での毎日を終え、今日は土曜日だ。


 今日の昼からの予定は一組と二組の生徒の何人かで集まってカラオケに行くというもので、先週の買い物は今日の為にあったと言っても良い。

 

 俺は自室の鏡の前で今日の服装をチェックしながら、待ち合わせ場所に向かう準備をしていた……のだが。


「やばい……服装、これで良いのか自信がない……」


 純白から選んでもらった服をあれこれ組み合わせてみるのだが、どうにもしっくりこない。


 普段は適当に着ているから、こういう時にどうすればいいか分からない。純白に選んでもらった時はもっと良い感じだったはずなのに。


 ああでもないこうでもないと色々な組み合わせを試しながら鏡の前で首を傾げていると、コンコンと部屋をノックする音が響いた。


『兄さんー、入っても良いですか?』

「いいぞー」


 扉越しに聞こえる純白の声。俺がすぐ返事をすると、ゆっくりと扉を開けて純白が部屋に入ってきた。そして純白の姿を見て、俺はそのあまりの可愛さに目を細める。


「えへへ、兄さん。ど、どうでしょう? 今日はかなり気合を入れてみたのですが……」


 そう言って微笑む純白は控えめに言って最高だった。


 清らかな白色のワンピースに身を包み、清楚で可憐なその姿はまさに天使のような愛らしさを放っている。


フリルのついた膝上のスカートは純白が動く度にふわっと浮いて、それがまた妹の魅力を際立たせていた。白くて柔らかそうな太ももが眩しい。


 それに豊満な胸の谷間には俺が以前に誕生日プレゼントとして買って上げたハート型のネックレスが輝いていて、純白が歩く度に小さなハートが大きな胸と一緒にぽよんぽよんと跳ねる。


 純白は恥ずかしそうにしながらも、チラリとこちらを見ては頬を赤らめていて、そんな仕草が可愛くて仕方がなかった。


「に、兄さん……? その、そこまでじっと見られるのはなんだかくすぐったいです……」

「す、すまん……あまりにも似合っていたから、つい……」

「えへへ……ありがとうございます」


「あーもう、純白すごく可愛い。最高に綺麗で魅力的だと思う」

「あぅ……そ、そこまで言われると照れますね……。でも嬉しいです」


 照れ隠しに長くてさらりとした銀色の髪を指先でくるくると巻く純白は本当に嬉しそうだ。いや、冗談抜きで可愛い。こんな妹がいたら誰だって絶対にシスコンになるだろう。


 純白は見惚れる俺の方に歩み寄ると、少し背伸びをして俺の着ている服を眺め始めた。それからベッドの上に散らばっている他の衣服をちらりと見た後、俺が何を着ていくか悩んでいる事を察したようだった。


「兄さん、先週買った服を色々と試しているんですね」

「ああ。でもご覧の通りで全く決まらないんだ」


「そうですねー。ちょっと張り切りすぎて服装がごちゃごちゃしてしまっているかもしれません」

「だよなぁ……」


「この前の買い物の時にもお話しましたけど、兄さんは身長も高くて細くてスタイルが良いので、シンプルな格好が一番映えると思いますっ。なので大人っぽさの出る組み合わせにしてみましょう」

「シンプルか……なるほどな」


「はいっ。このVネックのカットソーはどうでしょう? 深すぎず浅すぎないVネックは着ているだけで大人っぽさを演出できますっ。それに首元にシンプルなネックレスを足して……ほらっ」

「おお……さっきのごちゃごちゃしてたのが一気に爽やかに……」


「そしてそして、こちらのジャケットを上に羽織って……それからデニムのジーンズを合わせましょう。あとは靴屋さんで買ったスエードのサイドアップシューズを履けばこの通りですっ!」

「おおお! 純白ナイス!」


 純白のおかげで先程まで悩んでいたのが嘘のようにあっさり決まった。


 純白のアドバイス通りに選んだのもあって、全体的に大人びた雰囲気に仕上がったと思う。


「最後にワックスで髪を整えましょう。兄さん、椅子に座ってくださいね。わたしがやってあげますっ」

「おう、よろしく頼む」


 純白に促されるまま俺は鏡の前に座る。すると純白は慣れた手つきで俺の髪をセットし始めた。


 鏡越しに見える純白の顔は真剣そのもの。しかしどこか楽しげな雰囲気が漂っていて、俺の為に一生懸命なのが伝わってくる。


 純白ってほんと優しい子だ。こうして俺の為を思ってあれこれと世話を焼いてくれる。そのうえめちゃくちゃ可愛いんだから、俺は世界一幸せ者なんじゃないかと本気で思う。二度目の人生……やり直す事が出来て本当に良かった。


 そんな事を考えているとセットが終わったようで、純白は俺の周りをぐるぐると回りながら仕上がりを確かめている。誰がどう見ても完璧なのだが、純白は何故か「うーん……」と唇に手を当てながら首を傾げていた。


「ま、純白? なんか駄目だった……?」

「いえ……かっこよすぎますね」


「ん? かっこいいなら良いんじゃ……?」

「今日って一組と二組の色んな方が来るんです。わたし達合わせて全員で8名なのですが、男女半々なんです」


「うんうん、それで?」

「つまり女性はわたしと他の方で4名なんです」


「どういう事?」

「わたし以外に女の子がいるということです。こんなにかっこいいと他の女子の方は兄さんを放っておきません。大変です……わたしの大好きな兄さんが取られてしまいます……!」


「あ、そういう心配……? それ、入学式の前日にも似たような事言ってたよな……?」

「あの時は制服姿の兄さんで、今回は私服姿の兄さんなので、似ているようで違うお話なんですっ」


 冗談で言っているのかと思ったのだが、俺を見つめる純白の視線は真剣だ。どうやら本気らしい。


「それなら俺だって同じ事が言えるぞ。今の純白はマジで可愛い、それはもう天使だ。間違いなく世界一可愛い。俺の他に3人男子がいるなら全員で取り合う事になるぞ」

「せ、世界一可愛い……ですか?」


「ああ。ひいき目無しの超客観的に見てもだ。こんなに可愛い女の子を他の男子が放っておくわけがない」

「ああもう……照れて顔が真っ赤になります……っ。で、でも大丈夫ですっ。わたしは兄さん以外に興味ありませんからっ」


「それも同じだな。俺だって純白以外の女の子には興味ない。視界にも入らないかも。だから安心してくれて構わない」

「あぅあぅ……。そこまではっきり言われたらどきどきが止まらないです……。で、ですがそれならお互い大丈夫、という事ですよね?」


「うんうん、問題なし。今日はめいっぱいカラオケを楽しもう。な?」

「はいっ。今の話を聞いてとっても安心しました。いっぱい楽しみましょうね、兄さんっ」


 純白は俺の手をぎゅっと掴むと嬉しそうに微笑んだ。


 それじゃあ行こう。

 可愛くて大好きな純白と一緒に、楽しい思い出を作りに行く為に――。

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