第27話 スリランカで午後の紅茶を飲む。

 私はヌワナエリアでは、トゥクトゥクをチャーターして紅茶工場へ行こうと思っていたのだが、このおっさんは、このセレナで紅茶工場まで連れて行くよ、と800ルピーを提示してきた。 

 見学後はちゃんとバスターミナルまで戻ってくる、とセレナのボンネットを叩く。体調もいまいちだから、これでいいかと思い車に乗り込んだ。

 乗り込んでからも、この車はニッサンセレナであり、日本車だとやたら連呼してきた。しかし、やはり中古車である。一生懸命エンジンをふかして走ってくれるのだが、マックスで時速40kmしか出ない。出そうとしても出ないのだ。

頑張れセレナ!

 

 走ること10分。ペドロティーセンターに到着。

 ここが一番ヌワナエリヤのバスターミナルから近い紅茶工場である。午後の予定もあるので一番近い紅茶工場にしてもらった。ドライバーの案内で、受付を済ませる。 

 紅茶工場見学料200ルピーだ。レシートとともにチケットが渡される。チケットには、紅茶工場見学代だけでなく、あとでついてくる紅茶一杯代も含まれている。

 1885年に創業したという非常に歴史あるファクトリーで、結構な見学者がいる。ガイドブックには営業時間が8時~17時と記載されているが、厳密にはこれは間違い。工場見学は8時~11時、14~16時と決まっている。私はぎりぎり午前中最後の工場見学に滑り込めた。やはりキャンディを早く出ておいてよかった。ヌワナエリヤには、ラブケリーとかブルーフィールドとかいろんな紅茶工場があるから、それぞれの目的に合わせて調べ、伺ったらよいかと思う。

 こちらのペドロティーセンターは小規模ではあるものの、ロビーから茶畑も眺められたり、お土産も購入できたりして、無駄がなくてよかった。

 受付後、しばらくお待ちください、と言われ、ロビーで茶畑を眺めながら待つことにした。

 開放感あふれるロビー。天気も良いせいもあるが、健康的な美しい緑を目の当たりにし、カメラを取り出さずにはいられなかった。そこには果てしなく続く茶畑、そしてシェアしたくなる光景が広がっている。工場そのものはそんなに大きくないが、茶畑の敷地は広大。空気もおいしい。バス酔いもかなり緩和された。

 ロビーの壁にはこの工場で作られている商品のポスターが貼られていた。その中に、キリンの午後の紅茶を発見。この茶葉が使われているようだ。ポスターだけでなく、この工場の歴史を辿った写真なども展示されており、ちょっとした博物館になっていておもしろかった。

 ロビーから外に漏れ出られるようになっており、工場見学を終えた観光客が、ふるまわれた本場の紅茶を、美しい茶畑を眺めながら堪能していた。

 お土産売り場の正面には創業当時の写真が展示されている。イギリス人によって造られたこの工場。スリランカ人よりイギリス人の方が写真にいっぱい写っているところに、統治時代のいやらしさを感じる。


 10時40分過ぎ、案内人から声がかかり、午前中最後の紅茶工場見学がスタートした。工場見学はすべて英語で行われる。見学者にはまず、エプロンを渡される。全員が装着したところで工場へ向かう。エプロン着用は、どこの紅茶工場も一緒らしい。

見学時間は30分程度。説明は全て英語で行われるも、難しい単語はなかった。ちなみにこの工場は、NHKのテレビ番組「世界で一番美しい瞬間(とき)」でも紹介されたことがあるようで、日本人もよく来ると話していた。

 写真撮影は最初だけ。摘まれた茶葉を最初に選別する機会だけ撮影できた。中では選別された茶葉を乾燥させるところから袋詰までの工程を見ることができ、とても勉強になった。

 最後には、質疑応答もあり、どれくらいの種類の紅茶を作っているのか、紅茶以外には何を作っているのか、等の質問が飛んだ。どんな質問に対しても丁寧に答えると案内人に好感を持った。質問タイムの途中で、この方の子供が乱入してきて、ずっと子どもを抱えながら一生懸命話していたのが印象的だった。

 見学後は紅茶が配られた。なぜかしらドライバーもカップを持っていた。向かい合って一緒に飲む。スリランカ人は砂糖をあほほど投入するようで、私がいらない、と言うと、なぜだ、どうしてだ、と解せない表情を浮かべた。

 1杯の紅茶に対してスプーン5杯は入れていた。糖尿病の心配はないのだろうか。確かにイギリス人もたくさんの砂糖を投入する。きっと影響を受けたのだろう。

 ストレートティーは大変美味しく、ほっとする味だった。とりあえず午後の紅茶のポスターは視界に入れないように努力した。それが目に入ると、その味しか感じなくなるような気がしたから。

 飲み終わったころを見計らって、ドライバーは施設内にある、お土産屋に私を連れて行った。ちゃんとした人に対しては、ここでお土産を購入した方がいい、と言葉を添える。せっかくだから、お店の人一押しの紅茶を購入した。しっかりとした箱入りで、1000ルピー程度で購入できたが、その上から袋に入れるなどのサービスがなく、箱ごとドン!と渡された。

 仕方なく、もぞもぞとリュックにその紅茶を入れていたら、店頭でドライバーがサインをしていた。あぁ、そういうことだったのか。

 私を連れて来て、お土産を買うとR(リベート)が貰えるようだ。ここの従業員と親しく喋っていたから怪しいなと思っていたのだけど、そうだったのか。

 添乗員経験もある私は、以前はほぼ毎週末、立ち寄り施設でこの手の手続きを行い、旅行会社への清算に頂いたリベートを乗っけてきていた。つまり、このおっさんは、ドライバーでもあり、添乗員でもあったわけだ。

 工場見学を含めて1時間程度でペドロティセンターとお別れした。

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