第24話  便器を売りつけるな。

 キャンディは市街地だけをとってみれば、1日で歩きつくせるほどの小規模な街だ。マップを頼りに、ぐるっと一周してくることにした。

 ホテルを挟んだ通りの向かいには、ピザハットがある。しかしお客さんは誰もいない。値段が高いから現地の人々は足を向けないし、観光客だって、ここまで来てピザを食べる気が起こらないのだろう。

 このピザハットのある通りは面白い。古都キャンディの名にふさわしく、歴史ある建物も大事に保存されているかと思えば、突然、近代的でオシャレな建物が顔を出すこともある。かと思えば、その間に挟まれるように便器屋があったりして、暇そうな店員が便器に腰掛けて、観光客に対して便器を売りつけていた。私も売りつけられた。5950ルピー。約4300円か。安いなぁ。

「持って帰れないから。」

と丁重に断ると、

「上手に梱包するよ。」

と立ち上がる。あほか。いらん、いらんと、逃げるように立ち去った。

 キャンディの街では、ようやく教会も発見できた。スコットランド教会。スリランカは約80%が仏教徒だが、ちゃんとほかの宗教を信仰している人もいる。最近はイスラーム教徒が増えてきているらしい。 

 第2の都市だけあって、車も人の数も多い。ずっと滞在していたダンブッラに比べてお店も多いから、街歩きが楽しい。日本人も良く訪れる街なんだろう。

「35億!」

「ジャスティース!」

など流行った日本の人気芸人のギャグを連呼してくる愉快な人たちも多く見かけた。

 お昼をだいぶ過ぎたころ、お腹が減ったので、おいしい中華を食べるなら、ここ!と地球の歩き方に書かれていた、ジャスミンソングレストランに入った。

 メニューも豊富だし、店内もきれい。しかしやはり提供された量に言葉を失った。どの料理もSMLとサイズを選べるだが、スモールサイズをオーダーしても、30cmくらいの皿に四人前くらいの量が盛られて出てきたのだ。

 私が注文したのはシンガポールテイストの焼きそばと水である。

 「これ、本当にスモールサイズか?」

とスタッフに聞いたら、そうだとうなずく。レシートを見てもスモールサイズと記されている。あまりにも馬鹿げていた量だったので、

「ちなみにラージサイズだと、どれくらいの量を提供されるのか?」

と聞いたら、スタッフは3つ隣のテーブルを指さした。

そこには、洗面器のような器に入った、海鮮焼きそばが無造作に置かれていた。

 確かにうまかったのだが、3分の1は残した。支払いは664.5ルピー。約480円の量ではない。

「日本人で、これだけ食べた人は珍しいよ、久しぶりだ。」

とレジ係の男性が笑ってきた。だったら減らせよ、食品ロスも大きな問題だろ、と心の中でひとしきり毒づき、店を後にした。


 キャンディの街は四角形になっているので一周しやすい。食後は散歩を兼ねて、カタラガマ・デ・ワーラヤへと言うモスクへ向かった。非常に斬新なデザインで私のほかにも写真撮影に興じている観光客がいた。中では熱心に祈りを捧げている教徒がたくさんいる。どうもお祈りの時間だったらしい。

 

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