第6話 トラップ利用とは便利な

 色々試してみた。

 なるほど、スケルトンジェネラルの剣では、表皮にちょっと傷をつけることしかできない。

 槍も刺さらない。表皮を削るだけだ。


「マナビさん、これは……」


 ルミイが青ざめた顔でこちらを見る。

 俺も神妙にうなずいた。


「ああ。傷がつくということは倒せるということだ。これもいつも通りでいい」


「えっ!?!?!?!?!?」


 ルミイが、何を言ってるんだ貴方はと言う顔をした。


「ヘカトンケイルの頭があの高さだろ? それで、スケルトンアーチャーの矢には毒が塗られてたから、これを表皮に邪魔されないところに射たせるには……」


「も、もしかしてマナビさん。ヘカトンケイルを倒すって、滅びの塔の罠を逆に利用してやろうとしてるんですか?」


「その通り。見た感じ、これは普通にいけるだろう。じゃあ、ヘカトンケイルを誘導しながら通路を戻っていく練習しようか」


「あひー! またハードですー!!」


「チュートリアルでやり直し効くんだからイージーイージー。はいヘカトンケイルさん、こっちでーす。こっちこっち」


 声掛けも試してみる。

 どれが一番反応がいいだろうか?


『ヘカトンケイルには、帝国の兵士の人格がインストールされています。魔法と薬物によって自我を増幅され、プライドの塊になっています。解き放たれたヘカトンケイルは一切の命令を無視し、己の能力全てを使い切って暴れます。その代わり、寿命は短く設定され、解放から十日で絶命します』


「儚いモンスターだ。セミじゃん」


「セミとはちょっと違うんじゃないですか。えっと、ほら、セミは二週間生きますし」


「細かい違いがあるんだな」


 そう思うと、眼の前のヘカトンケイルが大きいセミのように見えてきた。

 さあて、この儚い生き物を罠に誘導してみよう。


 スケルトンジェネラル、スケルトンウォリアー、スケルトンアーチャーにぶつけてみる。


 ジェネラルは結構耐えるが、ウォリアーとアーチャーは即座に粉砕される。

 モンスターとしての強さとか格がぜんぜん違うな。


 当然、次のスケルトンなんか触れただけで粉々になった。

 動いているヘカトンケイルは、暴風みたいなヤバいやつなのだ。


 こいつと二人で互角に戦ったというか、勝ったルミイのパパとママは本物の化け物だなあ。


「あひー! やっぱりだめだこれー! おしまいだあー」


 泣きながら逃げているルミイをじっと見る。

 うーむ……!


 強さとは物理的じゃないところも大事なんじゃないだろうか。


 そう思いながら、第一階層まで逃げてきた。

 さて、交差するギロチン。

 これはヘカトンケイルが武器をぶつけて食い止めてしまう。


 あ、ここがキモだな。


「ここ、やり直し。ちょっとここから振り返って、俺が槍を投げつけてみるから」


『時間を戻します』


「サンキュー。はい、ここで一瞬振り返って、槍投擲! あ、無視されたわ。表皮には刺さるんだけどな」


「わたしたちみたいなチビは相手にされてませんよーう!」


「そうか、脅威になってないんだなあ。じゃあどうしよう? 槍に毒でも塗る? 毒? それじゃん」


「毒なんてどこにあるんですか?」


「スケルトンアーチャーが射ってた矢、全部毒矢だったの気付いてた?」


「えええええええ! それはマナビさんが気付いたのだけ毒だと思ってたんですけど!」


「実は全部なんだ。帝国の連中もマメだよな。じゃあ、もっと先からやり直しして。シークバーを過去に戻す」


『時間を戻します』


 スケルトンアーチャーの間を駆けていくところまで戻った。

 ここで、矢を回収する。

 そして槍に矢の毒を塗りつけながら走る。


「はい、じゃあここで槍をもう一本回収! そして毒を塗った槍を投げつける!」


「無視されました!」


「でも刺さっただろ? で、ほら見ろ。ちょっとだけ動きが悪くなった」


「あ、本当です! でもなんで槍が刺さったんでしょう」


「あそこ、スケルトンジェネラルが切りつけた傷なんだよ。ダメージ受けてるところを正確に狙えば、俺程度でも槍を刺せる。これくらい刺されば、毒がちゃんと通じるみたいだな」


 もう一回槍を投げる素振りをしたら、ヘカトンケイルは明らかに防御態勢になった。

 よっしゃ、警戒させた!

 これで勝ち確である。


 ギロチンのところでこれをやり直してみる。

 防御態勢になるヘカトンケイル!

 突き刺さるギロチン!


『ウグワアアアアアアッ!!』


 響き渡るヘカトンケイルの絶叫!


「よっしゃあああああああ!!」


「当たったー!」


「ここのギロチン、人間殺すにしてはオーバーキルなんだよ。ヘカトンケイルでちょうどいいくらいじゃん。それから落ちてくる天井」


『ウグワーッ!!』


「頭にゴツンと当たりましたね」


「これは怒らせただけだな」


 突き出す槍!


『ウグワーッ!?』


「足に刺さりましたね!」


「動きが悪くなった。ダメージ蓄積してるなー」


 そして落とし穴。

 ヘカトンケイルの片足がハマり、抜けなくなる。

 迫る壁。


『ウガアアアアアッ!!』


 武器を振り回し、壁を破壊しようとするヘカトンケイル。

 どんどん空間が狭くなり、ヘカトンケイルは武器すら振るえなくなる。

 だが、同時に壁面にどんどん亀裂が走り……。


「壊れそうですよマナビさん!」


「最終的には塔が壊れちゃうか。だが、ここまでヘカトンケイルの動きが妨害されたら、あとはイケる。ほいっ!!」


 ヘカトンケイルの目玉を目掛けて、毒を塗った槍を叩きつける。

 目玉に深々と槍を突き刺され、ヘカトンケイルが絶叫した。



 離れて様子を見る。

 少しして、壁面が完全に崩壊した。

 床も砕け始める。


 そしてヘカトンケイルも、がっくりと脱力し、崩れる塔に身を任せる……。


「落ちるところまでチュートリアルでやっとこう! ルミイ、ヘカトンケイルに乗って乗って」


「こっ、これをクッションにするんですかあ!?」


「察しがいいなあー」


「あひー! こーわーいー!」


「いけるいける!」


「いけませんってー!!」


 わあわあ騒ぎながら、俺たちは充実のチュートリアルを終えるのだった。



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