73日目 片桐さんのクッキー

 6月20日の昼休み、修平は月曜日恒例のお弁当をヒロから受け取り、弁当箱のふたをあけた。

「今日は、肉巻きおにぎりに、肉団子。肉尽くしだな」

「修ちゃん、お肉好きでしょ。昨日、手伝ってくれたお礼に修ちゃんが好きなもの尽くしにしたよ。」

 修平はお肉いっぱいのお弁当を美味しく食べ始めた。

「大森君がいてくれて助かったよ。重たい楽器もあるから、女子だけだと大変だったから、今年は楽だったよ。ありがとう、これ私からのお礼。」

 片桐さん、ギンガムチェックの小さな袋を受け取り、中をあけてみるとクッキーが入っていた。

「手作りじゃなくて、ごめん。でも、このお店美味しいから食べてね。」

 素敵な笑顔で微笑まれると、日曜日をつぶしてでもコンクールに行って良かったと思った修平だった。


 放課後、家に帰って片桐さんからもらったクッキーを食べることを楽しみに、練習に励んでいた。

 1時間ほど練習した後休憩となり、修平は蒸し暑い体育館から出て、外の風にあたることにした。

 修平がペットボトルのドリンクを飲んでいると、美織が近づいてきた。

「大森君、昨日吹奏楽部のコンクールに行って、ヒロちゃんといちゃついていたらしいね。クラスの子が言ってたよ。」

「いちゃついてはいないけど、ヒロが頭なでて欲しそうにしてたから、撫でただけだよ。」

「それをいちゃついているって言うの。やっぱりヒロちゃんのことが好きなの?」

「ヒロが女の子だったら好きになってたと思うけど、ヒロは男だし。でも、ヒロの好意を拒絶するのも悪い気がして、自分でもよくわからない。」

「優柔不断なところが大森君らしいといえば、大森君らしいけど、早く結論出さないとヒロちゃんが可哀そうだよ。」

美織はその結論の先には修平と付き合えることを期待しているようだ。

「そうだな。」

 修平は、ドリンクを飲み干すと体育館にもどることにした。


 その日の帰り道、ヒロと帰りながら、修平はきいた。

「ヒロ、過程の話として俺と付き合わないってなったら、男に戻るの?」

「修ちゃんと付き合えないなんて想像もしてないから、考えたことないな。」

 ヒロはいつものように、天真爛漫な笑顔で答えた。

「そうか。」

「修ちゃんが、もし美織ちゃんや片桐さんと付き合っても、二人にお願いしてこの前みたいに3人でお出かけできたら、それで満足だから。」

 健気なヒロをみると、ヒロと付き合わない自分が悪いように感じてきた修平であった。


 その晩学校の課題と明日の予習に取り組んでいた修平は、夜食に片桐さんからもらったクッキーを食べることにした。

 美味しいクッキーを食べながら、片桐さんのことを思うとともに、ヒロのことも思い出してしまう。

 修平のために女の子になったヒロ。たしかに一緒にいて楽しいが、男であることにどうしても抵抗を感じる。できれば今のまま友達として楽しく過ごしていきたいが、美織からも言われたようにはっきりさせないといけないのかもしれない。

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