8日目 みんなでお昼ごはん

 4月16日土曜日、いつものように午前中の部活を終え帰ろうとすると、ヒロに呼び止められた。

「修ちゃん、練習終わりなら、一緒にお昼食べに行かない?」

「漫画買ったから、今月お小遣い残り少ないんだ。」

 断ろうと思ったところ、片桐さんが駆け寄ってきて

「ヒロちゃん、大森君どうだった。」

「行かないって。」

「じゃ、3人で行こう。」

 話の流れからすると、片桐さんたちと一緒に行くところに、ヒロは俺を誘っていたみたいだ。

「いや、ヒロ俺も行くよ。」

「小遣い少ないんじゃなかったの?」

「少ないだけでないわけじゃない。行こう。一緒に食べよう。」

 憧れの片桐さんと一緒にお昼が食べられる。修平は上機嫌になったのとは反対に、ヒロはすこし不満そうな表情となった。


 ちょっと不機嫌になったヒロをなだめながら、駅前のハンバーガショップに、片桐さんと同じ吹奏楽部の村上さんとの4人で入った。

 それぞれ注文したものを受け取り、4人席に座る。

「ヒロちゃんは大森君の隣がいいよね。それとも顔を見たいから前の方がいい?」

「前の方がいいかな。」

 そう言ってヒロは修平の前の席に座った。修平の横には村上さんが座り、斜め前に片桐さんが座った。


 相変わらずヒロは不機嫌な表情をしている。修平が一度断ろうとしたのに、片桐さんが来るとわかった途端、態度を変えたのが不満なようだ。

「ヒロ、ナゲット食べる?」

 だいたいの場合、ヒロの機嫌は食べ物でなおる。一番の親友ということもあり、ヒロの性格は熟知している。

「うん。」

 そう言って、ヒロは修平のナゲットを一つとり口に入れた。ヒロに笑顔が戻り、機嫌が直ったみたいだ。

「二人仲がいいね。」

「先週付き合い始めたばかりなのに、ずっと付き合ってるみたい。」

 その様子を見て、片桐さんと村上さんが言った。ここで、まだ「友達以上恋人未満の関係」というとヒロの機嫌が悪くなるので、

「1年の時から、一緒だからね。」

 肯定も否定もせずにごまかすことにした。


 せっかく片桐さんと一緒なのに、修平は何を話していいかわからず戸惑っていた。片桐さんは村上さんと吹奏楽部の演奏のことについて話しており、修平が口を挟める話題ではない。

 仕方なく、ヒロに話しかける。

「ヒロ、モンバトの事だけど、今度このモンスター倒しに行かない?」

 モンバトとは、最近ハマっている『モンスター・バトル』というゲームで、オンラインで一緒にプレイができるので、ヒロとよく遊んでいる。

「勝てるかな?」

「魔法攻撃には弱いみたいだから、俺が援護するからヒロが魔法攻撃して。」

 このゲームはレベルアップ時に攻撃力や守備力などにステータスを割り振ることで自分好みのキャラを育て行く楽しみもある。

 俺は守備力重視の戦士タイプで、ヒロは魔力中心の魔法使いタイプなので、お互いの弱点を補いながらプレイしている。

 魔法を唱えている間は無防備になるので、他のメンバーが守ってあげる必要があり、強力な魔法ほど唱えている時間は長い。その間、守備力の高い修平のキャラで守る作戦だ。


「それって、モンバトの話?」

 隣で話を聞いていた村上さんが、修平とヒロの会話に加わってきた。

「そうだけど、村上さんもやってるの?」

「うん、弟がやってるのをみて面白そうだったから、一緒にやってる。」

「じゃ、今度一緒にやろうよ。」

 ヒロが村上さんを誘っている。修平から誘うと下心がありそうで警戒されるが、ヒロだと自然に誘えるのでありがたい。

「私も一緒にやりたい。」

「片桐さんもやってるの?」

 修平は思わず聞いてしまった。

「あんまり強くないけどね。」

 修平は片桐さんと共通の話題が見つかったことに嬉しく思ったが、あんまりはしゃぐと引かれそうなので、平素を装おいながら

「じゃ、4人でやろう。いつやろうか?」


「それじゃ、明日の3時ということでいい?」

 みんなの都合を聞きながら日程を調整し終わり、ヒロはポテトを口に入れた。その姿が妙に色っぽく、ヒロのことを男なのにかわいいと思ってしまった。

 店に入ってきたときとは違って、笑顔のヒロをみると自分まで嬉しくなってくるのはなんでだろう。

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