4日目 体育

 4月12日の朝、修平が駅につくと、昨日と同じようにヒロが待っていて、修平をみつけると手を振ってくれた。

「修ちゃん、おはよ。」

「おはよ。今日、体育あるけど、ヒロはどうするの?女子と一緒にやるの?」

「何も聞いてないから、普通に男子と一緒だと思うよ。トランスジェンダーじゃないから、学校としては男子がスカート履いているだけという扱いになってる。」

「じゃ、着替えはどうするの?」

 また、ヒロは顔を赤らめながら恥ずかしそうに答えた。

「修ちゃん、昨日も聞いたけど見たいの?」

「バカ、心配してるだけだよ。」

 つい反射的に突っ込んでしまい、昨日と同じように頭を軽くはたいた。またクラスの誰かに見られたかも知れない。

「心配してるだけだよ。」

「ありがとう。体育館の更衣室使っていいことになってるから、そこで着替えるから心配しなくていいよ。」

 修平はヒロの着替えが見れなくて、ちょっと残念と思ってしまった。

 

 1時間目の授業が終わり、2時間目の体育に備えて女子が更衣室に移動するのと一緒に、ヒロも教室から出て行った。

「小島も一緒に着替えると思って楽しみにしてたのに。」

「残念。」

「大森、小島ってやっぱり女子用の下着付けてるの?」

「知らないよ。」

 修平はそう答えながら、他の男子に小島の着替えが見られずに、ほっとしている自分に気づいた。


 修平はトイレを済ませてから、みんなより少し遅れてグラウンドに出ると、ヒロの悲鳴に似た声が聞こえてきた。

「男同士なんだから、胸触らせろよ。」

「嫌だよ~。」

 ヒロが他の男子に絡まれていた。思わず駆け寄って、

「ヒロが嫌がってるから、やめろよ。」

 ヒロとその男子の間に割って入った。

「彼氏さんに言われたら、仕方ないか。」

 その男子はすぐに離れたが、体操服から見えるヒロのスポーツブラをずっと見ているのがわかった。その男子だけではなく、背の低いヒロの後ろに並んでいる男子のほとんどがヒロを見ている。

 自分の事ではないにもかかわらず、不愉快な気持ちになるのはなぜだろう。

 結局、体育の先生も男子の興味本位の視線がヒロに集中していることに気づき、ヒロに女子と一緒に授業をうけるように言って、ヒロはいなくなった。


 その日の帰り、いつもと同じように校門で待ち合わせをして駅まで帰る途中、

「今日、体育の時ありがとうね。男同士でああなるとは思わなかった。」

「多分、男同士だから許されると思って、女子にはできないことをヒロにやってしまったと思うよ。」

「男子って、そんなことばかり考えてるの?」

「男子高校生ってそんなもんだろう。」

「じゃ、修ちゃんも触りたい?修ちゃんならいいよ。」

「俺は男の胸には興味はないから。」

 と言いながら、ヒロの胸のふくらみが気になってしょうがなかった。

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