侵入

 すごい、この方、肌がとても白い。それだけを理解することが出来た。

 「ん? なんだお前、よく見ると俺と同じくらいの歳じゃねえか?」

 多分、私もそうだと思うと言いたいが言葉が出てこない。肌白いですね、なんでそんなに白いのでしょう?

 「なんであんなのに引っかかってんだ? 知らない人に着いてっちゃいけないって知ってるだろ。もしや老けて見えるだけでまだ子どもなのか?」

 そういえば今、何があったんでしたっけ?

 ところで肌本当に白いですね。暗いところに住んでいるのでしょうか?

 とにかく何かを話すために、冷静に分析をしてみる。

 「ダメだこりゃ。何も考えてねぇ顔してる」

 そうです、今私は頭が働かず困っています。どうしよう、何かを伝えたいけど言葉が出てこない。ああ、本当に日に全く焼けていなくて肌が白……


 ばん! 突然の破裂音がして、私は我に返った。そうだ、追われているのであった。

 まずい、どうすればいいのだ

 「どこにいる! そこは崖だぞ、逃げ場は無い。帰ってこい!」

 ばん、ばん!

 音が段々と近づいて来ている。何故だろう、動けない。何故だ、逃げなければならないのはわかっているというのに。何故何も分からないのだ。

 真っ青な顔をして動かないでいる私を覗き込み、青年は笑った。

 「なんだお前、もしかして着いて行くのは駄目だとわかってたけど、怖くて動けなかったのか? なるほど、だから逃げなかったんだな」

 「え? 怖い?」

 「ん? 違うのか?」


 突然、「怖い」と聞いて私の脳内処理がほぼ追いついた。そうか、私は怖かったのか。このような事、今まで体験したことがなかったために分からなかった。

 「教えて下さりありがとうございます」

 私は頭を下げ、お礼を言った。しかし、彼は私がなぜお礼を言っているのかよく分からない顔をしている。自分の分からないことを教えてもらったのだから、お礼を言って当たり前だと思うのだが。


 そんなことを考えていると、またひょいと持ち上げられた。逃げ場は無いというのに、何をしようと言うのだろうか。

 「……まあ、いいや。とりあえずこの崖に逃げるぞ、捕まっておけ」

 「はい?」


 気づいた時にはもう青年は崖から飛び降りていた。その事実に気づいた私は、いつの間にか気絶してしまっていた。

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トロッコ問題 佐藤菜種 @Na_tta7

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