第39話 答え合わせ 後編

 そこで、ようやくデート相手の受付さんが答えた。


「さぁ?」


「貴女ですよ」


 俺は言葉を続けた。


「貴女は、冒険者ギルドの受付として勤めて丸十年でしょ?

 昨日、教えてくれたじゃないですか。

 成人するより少し前、13歳の時に冒険者ギルドへアルバイトとして雇われ、当時受付だった人が失踪したために、代打で急遽、受付をした。

 中々次の人が見つからず、代打での受付業務は八ヶ月続いた。

 その仕事ぶりを評価され、そのまま受付として配属となる。

 面白いですよね。

 それまで殆ど見受けられなかった凶暴化した魔物の被害報告が、その頃から徐々に増えていった。

 でも、誰も疑わなかった」


 喧騒から離れた場所へ向かう。

 人気ひとけのない場所へ向かう。

 受付さんも、黙って着いてくる。


「そりゃそうですよね。

 まさか、信頼第一の冒険者ギルドの受付業務を担当している方が、魔族側についてるなんて、誰も夢にも思わなかった。

 だから、貴方は犯行を重ね続けた」


「……せっかくのデートなのに、そんな話ばかり。

 まるで糾弾されてるみたいで気分が悪いです」


 そこで、俺は素を出した。


「みたい、じゃなくて、糾弾してんだよ」


 受付さんの足が止まった。

 俺は、その数歩さきまで進んで止まり、くるりと受付さんを振り返った。


「さて、そんな風に人類を裏切り続けた貴女は何者なのか?」


 受付さんは、俺をまっすぐ見た。


「そう言う貴方こそ何者?

魔族殺しの英雄デモン・スレイヤー】??」


 質問を質問で返されてしまう。

 俺はニコリと笑って答えた。


「さぁ、誰でしょう??」


 相手から殺気が膨れ上がった。

 受付さんの体が、変化する。

 人の皮を脱ぎ捨てて、受付さんはその正体を現した。

 それは、魔族だった。

 赤黒い肌と背中には、あの蝙蝠を思わせる真っ黒な翼を生やした翼。


「……やはり、魔族か」


「わかっていたの?」


「消去法で考えてなんとなくだけどな。

 先代クランや、ビクターのクランにいた裏切り者、いいや仕込んだ人材も魔族か」


「そこまでお見通しなのね」


「当たってたならよかった」


 なにしろ、俺はイオのように頭が良くない。

 だから、半分以上は調べたことからの妄想みたいなものだった。

 俺は、周囲に気配が無いことを確認し、相棒から布を取り払う。

 鞘から抜き、構える。


「本来なら、捕まえた方がいいんだろうが。

 それだと色々お世話になったギルマスに迷惑がかかる。

 なんなら、今利用してる冒険者ギルドが潰れるかもしれない。

 そんなわけで、倒させてもらうぞ、魔族」


 受付さんは、諦めたように笑った。

 そして、向こうも戦闘態勢に入る。

 しかし、動く前にどうしても聞きたかったのかこう言葉を投げてきた。


「ウィンさんは、魔族を人のように扱いますよね?

 何でですか??」


「……俺の故郷だと、種族が違うだけで同じ扱いだったからな。

 それだけだよ」


「変な人」


「よく言われる」


 そして、同時に動いた。

 しかし、一瞬で終わった。

 魔族退治は一瞬で終わった。

 四天王と同じように首を刎ねて、終わった。


「今まで、お世話になりました。

 ありがとうございました、受付さん」


 俺は、最後にそう言葉を投げた。

 そこからは、もう慣れたもので近くの衛兵詰所に駆け込んだ。

 昨日のことがあったものの、さすがに駐在している人がいて現場に来てくれた。

 そして、


「二日で二体も倒すなんて、さすが【魔族殺しの英雄デモン・スレイヤー】と呼ばれるだけはある」


 なんて言われてしまった。

 気になったので、つい訊いた。


「そっか、二日で二人も倒したんすね、俺。

 それはそうと、なんか時々耳にしたんですけど、何なんすか、それ。

 称号??」


「あれ?

 王国新聞読んでないんですか?

 記事にでっかく書いてありましたよ。

 勇者に次ぐ、現代の英雄、人呼んで【魔族殺しの英雄デモン・スレイヤー】って」


 新聞かよ。

 ちなみに、王国新聞は一番読まれている新聞だ。

 そのあとのバタバタも、通算三度目となればもう慣れたものだ。

 すべてを終わらせて、帰路に着いた。

 とはいえ、この世界で帰る場所は決まっている。

 俺はアジトまでの道を歩きながら、ふと思い立ってステータスを確認してみた。


 ■■■


 ○名前:ウィン・アキレア・フール・キングプロテア

 ○年齢:15

 ○状態:普通

 ○体力:999

 ○魔力:0

 ○職業:【冒険者】【魔族殺し】

 ○技能:[身体強化]

 ○特殊:[無し]


 ■■■


「この世界で、骨を埋めろってことね」


 職業の部分を見て、俺は息を吐き出す。

 今後のことを考えて、少しだけ俺は気が重くなった。

 でも、仕方ない。

 エールにとっての悪者は必要だったのだから。


「でも、普通に楽しそうな世界で良かったよ」


 それだけが、救いだった。

 楽しめるなら、笑える。

 楽しいことは、いいことだ。

 笑えることは、いいことだ。


「この世界のあちこちを見て回るのも、悪くないしな」


 あれだけ取り乱していたエールとの関係修復は難しそうだから。


「帰ったら、今日はもう寝よう」


 そう決めた。

 ギルマスへの報告は、明日でいいや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る