第25話 魔王軍四天王の一人とタイマンした話 後編

 そして、俺とヴァルデアの一騎打ちが始まった。

 先に動いたのは、俺だった。

 ヴァルデアの横っ面に蹴りをいれる。

 しかし、それを片手で防がれた。

 それどころか、逆に蹴り出した足を掴まれ、おもいっきりぶん投げられる。

 そのまま天井へ激突コースを、途中で身を捻って回避する。

 逆に天井へ足をついて、おもいっきりヴァルデアへむかって突進する。

 それをヴァルデアは迎え撃った。


 やっべ、たのしい!!


「その得物は使わないのか?!」


 ヴァルデアもニヤニヤしつつ、そして拳を放ちながら言ってきた。


「拳の方が好きでね!

 相棒の出番は無しだ!!

 それとも、抜かせてみるか?

 ヴァルデア!!」


 俺たちがぶつかり合う度に、ダンジョンが揺れる。

 パラパラと土塊が落ちてくる。


「やってやろう?!」


 ヴァルデアが叫ぶ。

 そして、再びぶつかり合う。

 それを何回か繰り返す。


「それが本気か??」


 なんてヴァルデアがまた叫んだ。


「まさか!

 知ってんだろ?

 俺が本気出したことなんて、このダンジョンに来てからは一回しかねぇしな??」


 それどころか、冒険者として受けた依頼でも、本気を出したのは数える程度しかない。

 最初は、あの盗賊団の首領と戦った時だ。

 といっても、あの時もほんの一瞬でしかなかったけど。

 仕事だったから、真面目にやらなきゃいけなかったのが理由だ。

 んで、今日このダンジョンに来てからは、あのデカ物魔族と戦った時だ。

 ただの人間の俺が、あのデカ物と渡り合うためには、本気を出したほうが都合が良かったからだ。


「俺に1発入れてみろよ、そしたら、本気で相手してやるから」


 煽る。

 俺は、魔族のプライドをつついて煽る。

 ヴァルデアもそのことには気づいているだろう。

 しかし、強者と戦いたい、というのは魔族の逃れられない習性のようなものだ。

 だから、ヴァルデアはあえて俺の煽り、挑発に乗ってきた。

 ヴァルデアから黒い稲妻のようなものがみえたかと思うと、それが彼の体にまとわりつく。

 続いてヴァルデアの顔、腕、太もも、見えている部分に紋様が浮き出てきた。

 そして、ヴァルデアの姿が消える。

 かと思ったら、次の瞬間、俺は脳天に一撃をくらった。


 俺はそのまま地面に叩きつけられる。

 そこに、ヴァルデアがさらに蹴りを放ってくる。

 やっべ。

 俺はくるりと転がって、ヴァルデアの攻撃をよけた。

 そして、立ち上がる。


「ヴァルデアぁ?

 今のがてめぇの本気か??

 魔族様お得意の魔法でもなんでも使ってこいや!」


 少しふらついたものの、視界は良好。

 呂律も、多分大丈夫。

 俺はさらに煽ってみせた。


「そんな程度で、俺に本気をださせるつもりか??

 えぇ?

 魔王軍四天王の、ヴァルデアさんよぉ??」


 俺は、駆けた。

 そして、拳を繰り出す。

 それをヴァルデアは受け止めようとする。


 でも、残念。


「フェイントだっ!!」


 俺は身をかがめ、下から上へ、つまりヴァルデアの顎へと蹴りを放った。

 綺麗に決まる。

 さて、なんで俺が本気を出さなかったのか。

 そして、出しても一瞬だったのかというと。

 ひとえに、疲れるからである。

 全身疲労が、ガチでヤバくなるのだ。

 ついでにもう一つ理由を上げるとすれば、本気を出すと戦いに夢中になり過ぎて、周囲が見えなくなるのだ。


 その被害は、次第に大きくなり、本気を出すということに、育ての親達からさすがにストップが掛かったのだ。


 魔法で、行動に制約が課されたのである。

 旅立つ日に、それは解除されたものの、いまだにその時の癖が抜けずにいる。

 ちなみに、俺の体に負担が大きすぎるという理由もあったようだ。

 俺の背が低いのは、きっとそのせいだ。


「今のは、効いたぞ!!」


 ヴァルデアはすぐに体勢を立て直して、俺の鳩尾を蹴りあげた。


 ドゴォっと、とてもいい音がした。


 やっべ、ガチにはいった!!

 蹴られた箇所から、骨の折れる音と内臓が潰れる音が聴こえた気がした。

 そのまま土壁へ吹っ飛ばされる。

 そして、背中から土壁へ激突した。

 盛大に血を吐いてしまう。


「げほっ、がはっ、おえっ」


「さぁ、まだ本気をださないか??

 それとも、ここで終わりにするか??」


 ヴァルデアの声がした。

 ふふ、あははは。

 俺は口元の血を手の甲で拭う。


「いいぜ?

 脳天と鳩尾に1発ずつ入ったからな、約束通り本気を出してやるよ!」


 本当は一発も喰らうつもりなかったけど。

 俺は、スキル【身体強化】を使用する。

 一瞬だけ、痛みが消える。

 一瞬だけ、痛みを忘れる。

 頭がスッキリする。

 視界がクリアになる。


 世界がいつも以上によく見える。

 世界がいつも以上によく見える。


 なにもかもがよく見える。

 効率よく、確実にヴァルデアを倒すことに集中する。

 俺は、肩に掛けていた布に触れた。


 布を取り払い、鞘から引き抜く。

 鞘とともに、俺は相棒を構える。

 ヴァルデアの顔が笑みに変わった瞬間。

 俺は動いた。

 一瞬だ。

 たった一瞬。

 その一瞬で、俺はヴァルデアの背後に立っていた。

 ヴァルデアを見る。

 彼の首が落ちて、体がゆっくりと倒れていく。


「どうだよ?

 俺の本気はお気に召したか?

 ヴァルデア??」


 答えは、なかった。



 ***



 魔王軍四天王、ヴァルデアが討たれた。

 この一報は、魔王軍に大きな衝撃を与えることとなった。

 なぜなら、勇者ではなく一介の冒険者に敗れたからだ。


 まさか、神は第二の勇者を派遣させたのか?


 魔王軍がそんな考えに至るのは無理のないことだった。

 勇者という存在が現れたなら、確実に魔族にまでその情報が流れてくるからだ。

 事実、今四天王が相手をしている勇者の時がそうだった。

 神が選び、加護を与えた人間の出現はそれだけで一大事なのだ。

 まさに青天の霹靂だったのである。


 ヴァルデアを討った、第二の勇者の存在を魔王軍は無視することが出来なくなった。

 ランクこそSSSランクだが、まさか本当に一介の冒険者がヴァルデアを倒したなどと信じる者がいなかったのである。


 ましてやそれが、所持スキルはたったの一個。

 そして、魔力ゼロの冒険者だとは想像すら出来なかったのである。

 いつかの冒険者クラン同様、魔王軍もこの第二の勇者の情報を集め始めるのに、そう時間はかからなかった。

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