ルルがパーティに加わった

「……ん?」


 起きると、なんか妙に横が温かい。

 暑苦しくもなく、なんだかリラックスできるような温度感。これは……


「すぴー……」

「うおおおおお!?」


 なんかルルが隣で寝てる! なんでだ!?

 一応言っておくと、ルルは本来サリアと一緒に、かつて俺の両親が使っていた部屋を割り当てられている。ここにいるはずがないというのに。


「あさ……?」


 ルルが寝ぼけた表情で俺を見る。

 あどけない顔は寝起きによってさらにゆるんでいて、朝日に照らされるその姿は天使のようだった。

 密着されるとルルの体の柔らかさが伝わってきてドキドキする。


「……なんでユークがここにいるの?」

「俺の台詞だ!」


 心臓に悪い寝覚めだった。

 四人で朝食をとる。


「「……」」


 俺とルルが一緒に起きてきたので、ファラとサリアの視線がちょっと冷たい。

 というわけでルルにみんなの前で釈明をさせてみる。


「なんでルルが俺のベッドにいたんだ」

「夜中トイレに起きて、寝ぼけてふらふらと。……というかユークの体、なんかへん」

「変?」

「近づくとぽかぽかする。特別な魔力でもあるのかな……」


 サリアが納得したように言った。


「あー、ユークは光属性だからそれが関係あるのかもしれないわね」

「たぶんそれ。私は神聖属性が得意で、光属性は神聖属性に近いから」


 なるほど。

 言われてみれば、起きたとき妙に体がリラックスしていたな。

 あれは俺の光魔力とルルの神聖魔力が近い性質だったからなのか。

 ルルがぐっと親指を立てた。


「体の相性ばっちり」

「ロリコン」

「兄さん、最低です……」

「い、色々と待ってくれ! というかここで俺が責められるのか!?」


 サリアのゴミを見るような目も、ファラの悲しそうな表情もキツ過ぎる!


 その後ルルは寝ている俺のベッドに潜り込まないよう、女性陣に厳命されるのだった。





 ルルの冒険者登録を行う。

 手続き済ませ、まずは簡易登録だ。

 その後本当に冒険者としてやっていけるかどうか、テストを行う。

 ギルドが用意した課題をクリアすれば合格、晴れて冒険者となれる。


「そういえば登録テストとかあったなあ」

「冒険者になったのが昔すぎてすっかり忘れてたわね」

「がんばる」


 三人で街外れの森へと向かう。

 以前ワイバーンを倒したところだ。

 課題は冒険者ギルドのある場所によって異なるが、レイザールの街だとフルーツスライムという魔物の討伐がそれにあたる。


 フルーツスライム。

 スライム系統の中でも最弱とされる魔物で、頑張れば子供でも倒すことができる。

 倒すと色んな種類のフルーツを落とすため、食材目当てで狩られることも多い魔物だ。


 森に行くと……さっそくいたな。

 今回は俺とサリアは手出しできない。

 手伝ったらルルのテストにならないからな。

 ルルのお手並み拝見といこう。


『ぷるるるる』


 フルーツスライムがルルに向かって体液を飛ばす。


「【バリア】」

『ぷるっ!?』


 おお、半透明の壁を張って一歩も動かずフルーツスライムの体液を弾いた。

 あれが神聖属性の防御魔術か。

 発動も早いし、防御力も高そうだ。


「【フィジカルブースト】」


 キィンッ――


 ルルの持つ杖が白く光る。

 身体能力を上昇させる支援魔術を使い、ルルはフルーツスライムへと接近すると杖で叩き潰した。

 あ、やばい。


『ぷるぷるぷるるるるるるるるるるる』


 バシャアッ!


「わぷっ」

「ちょっ、なんでこっちにも!」


 フルーツスライムは死ぬ直前に全身を飛び散らせることがある。

 その体液に害はないが、死ぬほどべたべたするので不愉快度は高い。

 俺は魔剣で咄嗟に弾いたが、至近距離にいたルルはもちろん、サリアにまでその粘液は降り注いだ。


「……む。この液体、なかなか甘い」

「ってなに食べてんのよあんたは! ああもう、ねばねばする……」


 巻き込まれたサリアは気の毒だが、フルーツスライムのいた場所には『スライムベリー』がドロップしていた。


 あれをギルドに持っていけばルルの登録完了である。

 ちなみに食べるとかなり美味しい。


「近くに泉があるから、そこで体を洗ってきなよ」

「そうするわ……ほら行くわよルル」

「ん」


 近くの泉でルルとサリアは体を洗い、ねばねばを処理することに。

 俺は見張りを命じられた。

 まあ、誰か来たら困るしな。

 泉のほうからなにか聞こえてくる。


「サリア……でかい。いいな」

「で、でかいとか言うな! あんただって、あと五年もすれば膨らんでくるわよ」

「本当?」

「いや、知らないけど」

「……! 柔らかい」

「ひあっ!? ちょっ、揉むな!」


 ……

 居心地が悪すぎる!


 俺はファラの笑顔を思い出して煩悩を振り払いながら、見張りの任務を続けるのだった。





ユーク・ノルド

種族:人間

年齢:18

ジョブ:魔剣士(光)

レベル:58

スキル

【身体強化】Lv8

【魔力強化】Lv5

【持久力強化】Lv5

【忍耐】Lv3

【近接魔術】Lv10

【気配感知】Lv3

【跳躍】Lv2

【見切り】Lv2

【加速】Lv1

【精密斬撃】Lv1



 ルルの冒険者登録が終わった夜、自室で久しぶりにステータスウインドウを見る。

 また一気に伸びたなあ。

 思えば最後にステータスを確認したのがメタルサーペント戦の前だっけ。

 メタルサーペントに加えて山賊に『紫紺の夜明け』との戦いがあったわけだし、レベルが上がるのはわかるけど、スキルまでよくこんなに増えたな。


 今回はレアなスキルはないにせよ、四つも増えている。


 【跳躍】はジャンプするときに脚力が強化されるスキル。

 【見切り】は動体視力を強化するスキル。

 【加速】は敏捷を上げるスキル。

 【精密斬撃】は狙った場所に攻撃を命中させるスキル。


 どれも地味だが有用だ。

 特に【見切り】。

 おそらくこれを取得したのは、聖都ウルスで『紫紺の夜明け』の信徒が放った毒液魔術を剣で弾いたときだろう。

 経験がちゃんと力になっている。

 なんだか達成感があるな。


 コンコン


「兄さん」

「ファラ? こんな時間にどうした?」

「その、これを着けてくれませんか」


 ファラが見せてきたのは俺とサリアが聖都で買ってきた髪留めだ。


「いいけど、寝る前に着けても意味ないんじゃないか?」


 ファラは俯き、それから小さな声で告げた。


「……その、今日はまだ兄さんとあまり話せていませんから。少しだけでも構ってほしくて。駄目でしょうか?」

「……」


 やばい。

 俺の妹がかわいすぎてやばい。

 なんでこんなにいじらしいんだ?

 抱きしめて一緒に寝ようかな。

 さすがに一緒に風呂は嫌がられるだろうし。

 ……あ、これルルに対するウラノス教皇様と同じリアクションだ。


「も、もちろんいいぞ」


 ファラに髪留めをつける。

 きらりと輝くガラス細工が、ファラの綺麗な顔立ちを引き立たせる。


「どうですか」

「ああ、本当に似合うよ」

「……ふふ。兄さんとサリアさんが選んでくれたんですよね。これ、宝物にします」


 そう幸せそうに笑って。

 それから、ファラは少し寂しそうに笑った。


「兄さん。……これ、本当に似合ってますか?」

「え?」

「私、包帯の下がひどいことになってて。……本当は、こんな可愛いものを着けていていいのかわからないんです」


 俺ははっとした。

 ファラは不安なのだ。

 神聖魔術に秀でたルルですら解けない呪いに侵されながら、毎日懸命に生きている。

 俺はファラを抱きしめた。


「……いいに決まってる。お前は最高の妹だ。どんな格好をしたって綺麗だよ」

「ありがとうございます、兄さん」


 ぐす、とファラが鼻を鳴らす。

 俺は改めて決意した。

 絶対にファラの呪いは解いてみせる。


 明日からも頑張ろう。

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