第7話 集中訓練

「もう一回だ」

 ほぼノーミスを少なくとも5回は続けていた。

 それでも水島の口から出てくる言葉は同じだった。

 トンネル出口で待ち伏せをする紫苑と瑠璃はまだ良かった。

 だが駿と由宇は毎回トンネルの入り口から全力ダッシュでコンボイを追いかけて襲撃している。二人とも髪から汗を滴らせていた。スーツに包まれた下半身はまるで砂風呂に浸かっている気分だった。

「シナリオをリセットするわよ。もう一度攻撃発起位置からね」

 駿は神酒の声を聞きながらこの人も鬼だと思った。

 そして隣にいる由宇を見る。シミュレータの合成画像だったから目元を見ても実際の表情はうかがい知れない。しかし、姿勢は実際に由宇が取っている姿勢が表示されている。由宇は両の腕をだらりと下げ、なんとか取り落とさないように20式を持っていた。

 映画で見られる軍隊のしごきシーンでも銃を持ったまま走る姿が描かれることが多い。それは銃が見かけよりも遙かに重いモノだからだ。由宇の細腕にグレネードが装着された20式は重すぎる荷物だった。

「ユウ、大丈夫か?」

「え? あ、はい大丈夫です」

 少しも大丈夫な返答には聞こえなかった。

「全員準備はいいかしら?」

「ちょっと待って下さい。ユウはもう限界ですよ。少し休憩を入れて下さい」

「いえ、大丈夫です。続けて下さい」

 由宇は華奢な体格だったが決して体力が無いわけではない。事実はむしろ逆でその体格からは信じられないくらいの体力がある。それでも、既に意志の力ではどうすることも出来ないくらい消耗していた。

「何言ってんだ。もう銃だって上がらないじゃないか」

「いえ、行けます。続けて下さい」

「ユウはもう思うように動ける状態じゃないですよ。こんな状態で続けても逆効果です」

「ちょっと待ちなさい。まだシナリオリロード中よ。もう少しかかるから」


 神酒はそう言うとマイクのスイッチを切って水島に振り向いた。

「新月2曹は確かに限界っぽいです」

「まだダメだ。七尾3士がこんな論理的な反論が出来る内は訓練を続けろ。新月2曹を含め、彼らはまだ状況を判断して行動できるようなレベルではない。これと同じ状況が生起すれば意識がなくても同じ動きができるくらいに訓練しろ」

「分かりました」

 神酒は心配そうな顔を厳しい表情で塗り固めると、再びマイクのスイッチを入れた。


「シナリオリロード完了。もう一回行くわよ」

 駿は唇を噛み「了解」と吐き捨てるように答えた。

 由宇が続けると言っている以上、これ以上の反論をしても意味がなかった。

 突然周囲の情景が一変し、トンネルの出口からトンネル入り口の攻撃発起位置にワープした。

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