第5話 作戦検討

「ここはどうですか?」

 小田原が地図をクリックすると、モニターにはトンネルの入り口が映った。

 シミュレータのコントロールルームには5中隊の幹部三人が揃っていた。

 小田原が指揮卓でシミュレータを操作し、その両脇にはヘッドマウントディスプレイを着けた水島と神酒が座っている。

「悪くなさそうだな。トンネルの延長は?」

「約二キロです」

 シミュレータは訓練に使用する他、作戦立案時の検討にも使用することが出来た。九州、沖縄の地形データが入力されているため、まるで現場に立っている感覚で作戦の検討ができる。

「トンネル内に入ってくれ」

「了解。時速五キロで視点移動します」

 モニターに映る画像が少しずつ移動し、トンネルの入り口から中に入る。

「広すぎず狭すぎず、襲撃するにはちょうどいい大きさではないでしょうか」

 神酒はヘッドマウントディスプレイを押さえながら言った。

「延長二キロなので時速百キロでの通過が……三十六秒かかります」

 小田原が別のモニターに示されている数値を読んで報告した。

「入り口からスーツで追いかけて出口で待ち伏せ包囲するとなると……全速で追いかけて七尾3士のスーツで二百メートル、新月2曹のスーツでも三百メートルほどしか離されません。先頭を攻撃後すぐに後尾も攻撃できますね」

 水島たちは王3佐を移送するコンボイを襲撃するプランを検討していた。

 処刑の発表後、それまで拘束場所の分からなかった王3佐が旧延岡拘置支所に拘束されているという情報が入ってきた。そして博多に移送されてから公開処刑されるという情報も掴んでいた。

 コンボイの襲撃は、王3佐を確保することが目的だった。水島たちは逃げられないことを最優先して高速道路のトンネル内で挟み撃ちする計画を立てていたのだ。

 目標の移送時、高速道路には交通規制がかけられる。コンボイの前後に車両はいないはずだ。移送部隊とすれば、トンネル出口は別として、トンネル内は安全で油断の起きやすい場所でもあった。

「問題があるとすれば煙の発生で視界が限定される可能性ですかね」

 小田原の懸念には神酒が答えた。

「それは逆にプラスになるでしょう。ピルミリンの影響下で近接戦闘になれば、常人に勝機はありません。それに暗くなったとしてもピルミリンには暗視能力を強化する効果もありますから大丈夫でしょう。むしろスモークは積極的に使用した方が良いですね」

「やはり最大の懸案は車両を確実に止める火力だな」

 水島の懸念には小田原が答える。

「情報では、コンボイは四両から五両で軽装甲の多用途車が使用される見込みです。先頭車両を正面から止めるには五十口径クラスが必要ですね」

 小田原は指揮卓の脇に置かれたファイルを確認しながら言った。

「佐々倉2士には五十口径の対物狙撃銃を準備します。見庭2士には四十ミリのグレネードを持たせた方が良いですね。新月2曹と七尾3士用にはスモーク用としてアッド・オンのグレネードを準備しましょう」

「今のあの子たちなら、2個分隊程度の警備兵には十分に対処可能なはずです」

 神酒はヘッドマウントディスプレイを外すと手櫛で髪を整えた。

 水島も片手でディスプレイを外すと小田原に向き直った。

「今の場所は?」

「九六位(くろくい)峠です」

「よし。海岸線から九六位峠までと峠周辺およびトンネル内のデータを詳細入力して訓練が出来るように準備してくれ。コンボイは情報通りに」

 水島は背もたれに体を預けると右手に持ったディスプレイを見つめて言った

「変化する状況に柔軟に対処しながら作戦を行うことには無理があるだろう。だが特定環境下での集中訓練を行えば、その環境下での作戦はこなせるはずだ。移送までにはあと五日ある」

 それは神酒や小田原に話しかけると言うより、自分自身を納得させるために話しているかのようだった。

「年は取りたくないものだな。昔はこんな作戦は決してさせなかったんだがな」

「大分無茶な作戦もされたと聞いてましたが」

 神酒が言うと水島は頭を振って答えた。

「困難な作戦という意味ではない。予算を取るための政治的な作戦ということだ」

 顔には皮肉な笑みを浮かべていた。

「だが特別分遣隊がその真価を発揮するのはセカンドパッケージのスーツを装備した場合だ。その予算を取るためには実績を作って見せなければならん。彼らには無理をさせることになるが……、必要なことなのだ」

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