第9話 ばーちゃんの日記

 うちのばーちゃんは、毎晩寝る前に日記を書いている。ほうれん草の種を蒔いたとか、夏野菜の苗を買いに連れて行ってもらったとか、どこどこの畑を耕してもらったとか、ほとんどが畑の記録だったりもする。10年分の加入ができる日記を好んで使っているが、デジタルが進んだせいか、10年のものはすくなくなり、5年分や3年分のものしか手に入らない。「もう生い先短い人生だから10年分も埋まるかわからん」と言う一方で「10年のじゃないとすぐうまっちまって、前の年に何やってたかわからん」と嘆くばーちゃんの葛藤がかわいい。幼い頃から現在まで、毎日欠かさず日記を書いている。


 居候して一緒に住んでいたときには、一人ずつ誕生日プレゼントを配るほどのマメさは自分に受け継がれなかったので、敬老の日とバレンタインデーにプレゼントを渡すことにしていた。クリスマスプレゼントやお年玉など、誰かにあげる方が多くなっていたばーちゃんは、プレゼントがよっぽど嬉しかったらしく、日記にも書いた。ある年のバレンタインデーに、クマの小さなマスコット付きのチョコをあげたのだが、この間帰省したときに仏壇に飾ってあったので、当時は大したものをあげられる余裕はなかったけれど、プレゼントをあげてよかった。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、涙で視界が歪みそうになったよね。


 居候生活を終えて、一人暮らしするようになると、なかなかひょいと会える距離ではなくなった。声を聞くには電話をかければ良いが、スマホやパソコンなど持たないばーちゃんの顔を見られるのは1〜2ヶ月に1度しかない。今月は敬老の日。毎朝お茶を淹れるばーちゃんに、茶葉を2種類見繕って渡した。「こんじゃ、うちのお茶がまずくなっちまうなー」と笑っていたので、反応はまずまず良かった。喜んでくれるってそれだけでなんかほんわかする。誰にでもお土産を持たせようとするばーちゃんの気持ちが少しわかったような気がした。

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