鑑定スキルで色々見えてしまいました…もう無理です。

セフレに鑑定スキル

「私、セフレがいるんだよね」

唐突に彼女から発せられた言葉は、間違いなく…暴力だった。

いや、言葉の暴力より辛かった。

だってお互い、付き合うのもキスをするのも…肌を晒して触れ合うのも初めて同士だったから。

光聖の回想

高校2年生になって初めて彼女が出来た。

部活動を通じて仲良くなった子だ。

「伊地知先輩は面白いですね！」

見た目はクールビューティーで身長は168と割と長身…175の俺だと８センチのヒール履いたら逆転される。

まぁ、つまり割と背の高い女の子だった。

「伊東のテンション高い理由がわからん」

その子のフルネームは伊東都香砂、なんだよその男っぽい名前は？と思うくらい、ツカサと言う名前はインパクトあった。

俺はある都合で、高校2年生の二回目をやっている…いわゆるダブりだ。

勉強するよりも、とにかくバイトが忙しかった…そんな学生だった。

だって欲しいバイク高いんだもん。

まあ、おかげで欲しかったバイクは買えたのだった。

当然、二輪免許持ってるのは学校に内緒だけどね。

「先輩、映研は夏休み撮る（活動する）んですか？」

「あー、それな」

俺は映画研究会と言う部活に入っている。

え？部じゃなくて何で会かって？

この学校は会だろうが部だろうが人数５人以上なら運営費という名の自由予算が発生するのだ。

…公立高のくせに。

ウチは5人以上会員が居る、だから研究会でも部活扱いとなる。

「どんな映像を撮るかわからないけど、一応出る予定」

「そうなんですね？わかりました」

何がわかったか知らないが、俺の夏休みが少々手狭になった瞬間だった。

そして夏休みに入り、しばらくして部長からグループラインで連絡があった。

会なのに部長…いやだから、そう言う仕組みなんだよ。

「明日早速活動するぞ！関係各位にはメールしたからな！了承以外の返事はいらない」

相変わらずの部長だった。

18歳、年齢＝彼氏無し、の見た目はキュートで物静かだが…話し始めるとヲタクネタだけはマシンガントークで一般男子学生にドン引きされる…ウチの自慢の部長だ。

「了解っと」

メールを半分読んで返す。

「了承もしくは了解なら返事要らないでゴザル」　

速攻で返事くれる部長は流石だ。

で、撮影会当日。

部長の家の離れに集合した。

ちなみに部長の家は昔、ガソリンスタンドを経営していたが…現在は廃業している。

その時に色々倉庫などを建てたが、ほとんどは無駄に存在している。

その一つの倉庫の二階に集まった…ちなみに一階は駐車場だ。

「今日集まって貰ったのは、他でも無い…」

一旦途切れた部長の次に繋ぐ言葉は鮮烈だった。

「自伝ラブロマンスを映像化したい！」

何言ってんの？年齢＝彼氏居ない輩が自伝て。

「おいそこ！心の言葉が顔に出てるぞ！…傷付いた」

急に胸を押さえて倒れ込む部長。

…もうすでに寸劇は始まっていた。

「伊地知くん、それは酷いよ！部長だって女の子だよ？たぶん…」

会員筆頭の飯田がしゃしゃり出てきた。

「え？最後の方、聴こなかった」

俺がそれに乗る。

「部長だって女の子だって、言ったんだ！たぶん」

「え、え？言ったんだの後がよく聞」

「黙れ！小僧！」

俺を睨む部長。

あ〜あ、めんどくさ。

「…すぅー、はぁー…とにかく撮るぞ。皆んな、配置につけ」

こうして撮影は始まった。

回想オワリ。

そう…今思えば、一番青春していた時期だった。

あの撮影がキッカケで俺は伊東の気持ちを知ったからだが。

「先輩、お疲れ様です。お水どうぞ」

結局、夜中まで続いた撮影は全員を疲労させた…特に俺が。

様々な部長の要求を聞き、クラッカー🎉が必要だ！と言われて買いに行ったり…真夏に花火以外にそんなの売ってるとこないよね。

5キロ離れた場所にある駄菓子屋にあったけどさ…ミニマラソンと変わらない。

その中で唯一、伊東だけは俺に気遣いをしてくれた。

「なんでだ！なんで伊地知だけ伊東から水を貰えるんだ⁈俺にも水を…」

「ほれ」

「それじゃねーわ」

部長が差し出した湯気の立つ白湯を平手で弾く男。

俺の同い年だが学年は一個上の飯田だった。

「貴様、私の水が飲めないと言うのか！」

「白湯じゃねーか！伊東ちゃんが水持って動揺してるぞ！」

部長は恋愛経験よりも人との触れ合う経験が必要だったな。

まあ、とにかく色々あった。

「…なんで俺に部分的接触をするんだ？」

「えへへ…キスしちゃった」

徹夜明け、朝起きるキッカケが伊東からのモーニングキスだった。

まあ、マジで色々あったのだ。

「伊東。やるな！次は私だな」

石井部長が意味不明なことを言った。

「おい、一応確認するが…キスすると子供が出来るってマジなのか？」

…部長、社会に出たらヤバいな。

それから一年。

先に卒業した部長たちは大学に進んだ。

俺は好きなバイク関係の仕事に就いた。

伊東は卒業後に短大に入学し、北欧へ留学した。

「光聖、帰ってきたらいっぱい遊ぼうね」

「ああ、都香砂。またな」

都香砂の両親が居たので握手だけして空港で見送った。

空港から帰る時は寂しかった記憶はある。

付き合いだして二年でお互いの愛も確かめ合ったし、将来の事も話し合った。

そして一年後…。

「私、セフレがいるんだよね」

空港に降り立ち、俺に会った開口一番がそれだった。

「向こうで日本人て珍しいらしくて、凄く楽しませて貰ったしセフレも出来たよ」

俺の耳がおかしいのか？聞きなれない言葉が聞こえた。

「どういうことだ？」

まったく理解の追いつかない俺は困惑の表情だった。

「ほら、つまんない反応だよ？これだから日本人は…」

いや、まごう事なくお前も日本人だからな。

「つまり、どういうことだと聞いているんだ」

折れそうな気持ちと、意味がわからず困惑する俺は真っ白になっていく。

「貴方もセフレでしょ？」

はぁ？何言ってんだお前。

俺がおかしくなったのか？

まったく理解出来ないんだが？

愛しあった記憶はどこ行った？

俺はセフレ、なのか？

視界が狭まり一つの黒い点になった。

そこから急に真っ白な空間になった。

…あれ？何だここ？意識が飛んだのか。

『鑑定（アプライズ）を修得しました』

うわっ、頭ン中に響く。

ん？何か言ったか？誰かの声が聞こえたな…。

次の瞬間、視界が元に戻り音が集まり出した。

黙っていた俺が気になったのか、伊東が覗き込んできた。

「何？ショックだったの？あのね！私ねぇ、エッチが上手いって言われたのよ！向こうでも光聖は…」

いきなり始まった言葉の嵐。

それどころでは無い俺は軽くパニックになった。

(なんだ？鑑定ってなんだよ？)

伊東を見上げた瞬間、半透明なスクリーンに字幕が載るように言葉がならんだ。

名前：伊東都香砂

職業：留学生(帰国)

種族：人

幸運： 0

スキル 無し

加護 インキュバスの加護

称号 オーラルマスター・堕ちし者・感染者

ん？何だこれ？文字は理解出来るが…。

名前と留学生は分かる、人なのも。

幸運０はやばいんじゃないの？

インキュバスの加護？

オーラルマスターってなんだ？堕ちし者と…感染者？

「お前、なんか感染してるのか？」

つい口にしてしまった。

「え？い、いや…そんなことは」

動揺してるな。

なんだコイツ。

留学して何やらかしたんだ？

急に頭が冷えてきた。

マジ何かどうでも良くなったし、帰ろ。

「まぁ無事に帰ってきて良かったよ、何か連絡したいならメールでな」

サッと立ち去る。

「え？ちょっと！待ってよ！光聖、まだ話が…」

伊東は何か言っていたかもしれないけど、帰国ラッシュの雑踏で俺の耳に届く事は無かった。

あとで部長からメールが来た。

伊東からの相談を受けたらしく、あの時に動揺したのは心当たりがあったからだろう。

いわゆるセフレの一人から帰国前に箱をプレゼントされたそうだ。

彼女はとにかく開けてみた、また箱が入っていた。

それを数度繰り返すと、小さな箱の中に紙が入っていたそうだ。

「Welcome to the world of AIDS」

その彼は後日、性犯罪者として当局に捕まったそうだ。

真っ白な空間に光の玉が複数浮かぶ。

［接触したのか？］

【久々にアレフの末裔が目覚めそうだった】

［だからと言って干渉し過ぎでは？］

【ちょうど方舟（アーク）が干渉してきた】

［はぁ…張り合うのも大概にな］

【順応者は一人ではない】

［はぁ？ちょ、まって？他にも居るのか？］

【…】

［だんまりかよっ！］

【スキルは与えた】

［またかよ…何を与えた？］

【鑑定（アプライズ）】

［へっ？マジか？！おまっ、それはマズ］

ぶつり、とノイズが走ったように光の玉は振動して消えた。