引きこもり仲間だと思っていたやつにゲームの世界へ飛ばされた!? ~ステータスリセットされたけど知識で何とか乗り切ります~

@a-iai

一話 ―始まりは善意から― 

―時は2040年。世界で初の完全意識転移型ゲーム機「Full Move 」、通称「FM」(エフエム)が発売された。

これは、意識を完全にゲームの世界へと送り込むことで現実の肉体との接続を切り離し、ゲームの世界で全く違う体を操作することを可能にしたゲーム機である。

これは爆発的に売れ、世界中で人気を博した。これにより、次世代IT機器の登場でかつての盛り上がりを失っていた家庭用ゲーム業界は再び輝きを取り戻し、次々とFM専用ゲームが発売された―



「クリアー!」

「いや~、今回も楽勝だったね~」


俺の名前は木村裕二。ただの引きこもりの高校2年生である。

コンビニ帰りに異世界転生した引きこもりでもなければ、トラクターに轢かれかけたショックで死んだ引きこもりでもない。本当にただの引きこもりだ。


そんな俺には、引きこもりのあり余った時間を利用してやりこんでいるゲームがある。

それは、現在進行形で俺がプレイしている「Free Adventure」、通称FA(エフエー)というゲームだ。株式会社GPGOが2041年、FM専用ゲームとして発売され、絶大な人気を誇ったゲームである。


内容は、題名通り自由に世界の中を冒険するゲームである。チームやギルドを作ってもよし。自分の店や街を作ってもよし。就職や結婚もできる。決まったノルマなどはなく、自由奔放に楽しむゲームだ。


おそらく、これだけではそこまでの人気は出なかっただろう。しかし、このゲームには他のゲームとは決定的に異なる点があった。


それは、このゲームのNPC全てに互換や感情を搭載しているという点である。既存のゲームのNPCといえば、話しかけても決まった言葉しかしゃべらなかったり、攻撃パターンが決まっていたりとの本物の人間とは程遠いものだと思う。


しかし、このFAのNPCは違う。このゲームのNPCは、しゃべりかければ毎回違う答えが返ってき、なんなら自分から世間話なんかを話し出す。攻撃パターンも、その攻撃が通じないと思ったら別の攻撃を繰り出してくる。つまり、このゲームのNPCは、ほとんど人間と相違ないのだ。


感情や互換を持つNPC。この特異点が、世界中のゲームファンを魅了してFAをゲーム界の頂点に上り詰めさせたのだ。実際、俺もその魅力に取り入れられた一人である。ジャンル的にも好みだったから、仕方のないことでもあるだろう。そして・・


「結構時間かかったなー」


「量が量だから仕方ないよ。でも、これでしばらく食料調達しなくて済むね」


俺が今、一緒にマルチプレイをしているのはニックネーム「ティア」という人だ。


アバターは女性。言葉遣いや普段の振る舞いから考えて、おそらくリアルでも女性だと思う。断定は出来ないが。


このゲームには様々なサーバーがあり、自分で作ることもでぎるのだが、彼女とはその中の日本サーバーで出会った。


それも洞窟の中で、彼女が迷子になっているときに。


俺は彼女を助けて、それからフレンドになって一緒に遊ぶようになった。


あまり人付き合い得意ではない俺が彼女と遊ぶようになったのは、おそらく親近感を覚えたからだろう。


そう、彼女はいつもこのゲームにログインしていたのだ。引きこもりの俺以上に。


そこで俺は理解した。ああ、この人も俺と一緒なんだな、と。


それから俺とティアはかなりの時間をこのゲームの中で過ごし、今では俺とゲームした時間が最も長い人となった。


そしてそろそろ、俺は彼女のリアルの境遇について少しだけ触れてみたいと思っていた。

今まではあえて触れてこなかったが、かなりの時間を共に過ごした戦友でもあるわけだし、同じ引きこもりとして、少しくらい彼女の気持ちにより添えるのではと思ったのだ。


もちろん、彼女だけじゃなく自分の境遇についても話すつもりだし、強要するつもりもない。拒否されれば、今までの関係を継続するだけだ。


「それにしても......よく今日もログインしてたね。今、平日昼の三時だってのに」


少し慎重に言葉を選びながら、そういう意図を持ち話し出した。すると彼女は、


「そうだね。まあ、私はこの世界の住人だから」


と、態度を変えずいつもの調子で冗談を言う。


「この世界の住人、か......。本当になれたら幸せだよな、それ。俺もなりたいよ」


どうにかうまく話を続けようとそう言いながら、内心ではどう相手を不快にさせずに話を聞き出せるかを考えていた。


自分の話を最初に切り出したらいいだろうか。いっそ直接聞いたほうがいいのかもしれない。


そんなことを考えていたとき、彼女が俺に急接近してきた。


「えっ、近っ」


唐突な距離の詰め方に驚き、思わず後ずさりした。そんな俺を構う素振りなど見せず、彼女はさらに俺との距離を縮め、目を輝かせながら、


「本当に?」


そう俺に問いかけた。


「え?え?何が?」


「この世界の住人になれたら幸せってこと」


「......ああ、そのことか」


あまりに唐突だったため困惑してしまったが、改めてその質問に答える。


「本気でそう思うよ。リアルなんt」


「なら!!」


リアルについて語ろうとした俺の言葉を遮り、彼女は俺の両肩に思い切り手を置いた。


「私が!ユージをこの世界へ連れてきてあげる!!」


「は?何を言って......」


いつもよりハイテンションで言い放ち、今度は俺から手を離し大きく後ろにステップした。


そして、両手を胸の前で合わせ、祈るようなポーズをとった。その刹那―

「!?」


彼女の周りが眩しい光に覆われた。

そして―


「――私と、一緒に――!!」


目の前で起きていることが理解出来ず、彼女の名前を呼ぼうとした、その時―


俺の意識は、プツン、と切れて、闇の中へ沈んでいった。



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