第27話 また侵入者

 とある冒険者の集団が、我がダンジョンに足を踏み入れた。


 愚かな。たかが数人程度の小さな群れを作っただけで気が大きくなっているのか。それでコアに届くとでも?―――――――



「こっちは無理やり仕事をなくされたんだ。こうなったら好きにやらせてもらうぜ」


「『法令で定められたこと』だと?我々は同胞の掟には従うがビエラの決まりごとなど知ったことではない」


 魔眼を通して見たところ、五人組の人間がわかりやすくそれぞれの役割を全うしている姿が映し出された。

 冒険者は、ラーバ族の「ソードマン」が二人、ビエラ族の「魔術師」一人、「罠解除師」一人、アルテミアの「製図家兼荷物もち」一人の計五人。


「軍隊が敵わなかった相手だぞ」


 ビエラ族の男の一人が忠告する。


「でもこのまま放っておくわけじゃないだろ。俺達はコアなんて狙う必要がない。宝を独り占めされる前に俺達で頂戴するんだよ!」


 確かに、ダンジョンの拡張に伴って地中の金、銀などが見つかることがある。

 鉱石としては重量あたりの価値は極めて低く、無事そこまでたどり着いても、トロッコでも引いてなければ持ち帰る意味がない。しかし、このバカな冒険者達にとっては朗報だ。ちゃんと製錬までしてある。人と取引するのに使うためだ。

 その他、宝飾品など軽くて価値の高い財宝類を保管してある格納庫まで辿り着けば、コイツらは喜んで帰ることが出来るだろう。そこには、全員が一生遊んで暮らせるほどの財宝が眠っている。


 だが、もちろん黙って宝を渡すつもりはない。

 獲物が巣に迷い混んだのだから、しっかり養分として利用させて貰うとする。



 冒険者達は手探りでダンジョン攻略を進める。

 奴らの手際は悪くはないが、いまだ未知数であるダンジョンを進んでいくことは簡単じゃない。

 少しテンポを掴んできたところで、まずは古典的な罠を使って小手調べといく。


「ぎゅぴーっ!(来やがったぜ~。タイミングを合わせろよ!)」


「ぎぴっ!(・・・よし今だぁ!)」


 冒険者達のいる小さな部屋には、インプだけが通れる無数の穴があいている。

 インプは穴に隠れ、目標が部屋に現れたらそこから攻撃できるという寸法で、陰湿で悪どい殺り方を好むインプに適している。いわゆる殺人孔というやつだ。


 そして、穴にはあらゆるものを通すことができる。例えば、熱湯、酸、まあまあでかめの石、煮えた油、むしふん尿にょうたんつば・・・などバリエーションは無限。インプの小さな脳みそからは考えられない想像性を発揮している。


「上だ!避けろ!」


「くそっ。ふざけやがって」


 冒険者は全員、別の部屋に逃れる。残念ながら致命傷にはならなかった。



「今のは悪魔の仕業か・・・」


「自分達のナワバリに侵入されたとはいえ、あまりにも敵意剥き出しだな。悪意というべきか・・・奴等には僅かながら、知能や感情と呼べるものが存在するのかもしれない」


「なあ、本当に大丈夫なのか?やっぱりやめとくか?」


「バカ野郎!警備を掻い潜るのにもどれだけ苦労したと思ってる。こんなのただの脅しだ!進むぞ!」


「まだ本気で殺すつもりじゃないだけだと思うぜ・・・」


「黙れ!」


 その通りだ。脅しなど必要ない。殺そうと思えば一瞬で壊滅させられる。

 一端の冒険者らしく、少しは分析力がある奴もいるようだな。せいぜい楽しませてもらうぞ・・・。



「警戒を怠るな。どんな罠が待ち受けているかわからん」


「! 敵だ。注意しろ」


 ダンジョンを徘徊する、インプ、スライム、トロルなどの低級魔を、冒険者は余裕で排除する。そこそこ腕は立つか。

 特に、ラーバ族のソードマン二人の活躍は素晴らしい。個人の戦闘力も高いが、さらに、連携がとれているので全く隙がない。



「ふぅ。意外と大したことないのか。魔物のレベルはさほど高くない・・・」


「油断しない方がいい」 ―――と、いつもの冷静な冒険者が反射的に忠告しようとして、すぐに紡いだ。


 壁から高速で回転する鋸刃のカッターが出現し、冒険者達に襲いかかる。


「!!」


 刃はもちろん魔力で駆動していて、一秒間に300回以上回転する。彼等にとっては見たことのないスピードで回転し近付いてくるので、恐怖に感じられた。


 全員が必死になって刃を避ける。

 空気を切り裂く高周波の耳障りな回転音をあげながらカッターは通りすぎていく。


「きゃああああ!」


 魔術師の悲鳴。

 無情にも、一人カッターの餌食になった人間がいた。


 アルテミア人の男が逃げ切れず、胴体が真っ二つになり絶命していた。一人大きな荷物を抱えていたので、機敏な動きが出来なかったのだ。


「そんな・・・」


 ダンジョンでは、どんな殺し方も、理不尽な死も正当化される。

 たった少しの油断が命取りになる。


「畜生・・・。なんてことしやがるんだ」


 罠解除師の男は、アルテミア人の惨い死にざまを見て衝撃を受ける。

 それに対し、ビエラ族のソードマン二人は冷静だった。


「薄鈍いアルテミア人のことだから仕方ないさ。持ち帰れる宝の量が減って残念だが」


 そういえばビエラというのは、身体能力に優れた戦闘向きの種族だったな。

 機械的な罠は避けられて当然ということか。

 いいだろう。ならば、ダンジョンの本当の恐怖を見せてやる――――。

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インプから始まるダンジョン経営 ザベス @ddddr

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