第22話 ダンマス街へ行く

 王都―――ペンブラック城。

 都市民に力を誇示しているかのような、威圧感のある居城。


 ダンジョンマスターは、この城が攻囲を受けたときのシミュレーションを勝手に頭の中で行っていた。

 城壁は分厚いが、防衛のための兵器、備蓄が少ない。それに、どれも旧世代のものばかりだ。これではどうやっても消耗戦にしかならない。


「歴史の長い城だからな。私を含め、この城の軍事家はロートルばかりだ」


 エルバート王はそう言って自嘲的な笑みを浮かべた。


「そうだな。これでは、守る気すらないのではないかと思えてくる」


 ダンジョンマスターは不敬罪もいいとこの悪意たっぷりの口調でそう答えた。


「迷宮主よ。そなたをここへ招き入れたのはそのためだ。私に協力してくれ」


 ダンジョンマスターはエルバートの言葉に納得する。

 さすがに手段を選ばない人間だ。自分の命を賭けて悪魔と契約を交わすだけのことはある。悪魔を味方に引き入れ、利用しようなどとは誰も考えない。だが、この王は違った。


「こちらにメリットはあるのか?」


「メリット?・・・そうだな。・・・・なにも考えてなかったよ」


 なんじゃこいつ。


「私はそなたと親交を深めたいのだ。悪魔だろうと一人の・・・為政者として、そなたを尊敬しているからな」


「我々の共通点を探そうとしても無駄だよ。今ここで、こちらに親交を深めるつもりがあろうとなかろうと、種の違いはいずれどこかで軋轢を生む」 


 エルバートは少し間をおいた。


 そう簡単に人と悪魔が理解しあえるはずがない。当然の事だ。


「わかったよ。すぐに承諾しろとは言わん。たが今日は祝祭の日だ。それだけでも楽しんでいってくれ」


「人間は祭りをするのが好きだな」


「周りには私の大事な客人だと伝えてある。誰もそなたに危害を加えようとはしないだろうが、くれぐれも揉め事は起こすな」


 当然、そうなるとエルバート王の命が危ぶまれるからだ。


「ああ。我々が関わりを減らす分、そのリスクは少なくなるだろうがな」


「あと、このままでは不便な呼び名になる。そうだな。・・・ジョー。・・・ジョーとでも名乗っておけ。私もそう呼ばせてもらう」


「ふん。名などどうでもいいが」



 その日は、王弟が成人した日で、祝祭日だった。

 王都では、祝典と同時に悪魔を追い払うための巡回活動が行われる。警邏活動でなく、街の瘴気を取り払うため街のあちこちに点在する聖なるかがり火を灯す宗教儀式だ。これを"火の典礼"という。


「・・・・・・・」


「司祭様。どうやら雨になりそうですね。少し巡回を早めた方が良いかもしれません」


「そうか?」


 司祭と儀式の参加者が、行列をなし香炉をもって歩く。

 「聖なる火」と、そこから生じる「煙」と「灰」は、瘴気から土地を守る"燻蒸"の効果があり、悪魔のもつ邪気を弱めるとされた。


 司祭にとってそれは、とても重要な儀式であり、街を守るのに欠かせない儀式だった。そして、大抵の参加者は儀式よりも祝いの宴会に頭がいっぱいであり、早く終わって欲しいと考えているが、そうは言っても、彼らにとって儀式は意味のある事であり、だから今もこうして存在し続けているのだ。


「悪魔~消え去れ~」


 ダンジョンマスターは適当にお祓いになりそうな言葉を述べておいたが全く気持ちは籠っていなかった。


「おいアンタ。もっとやる気を出せ。司祭に見つかるだろ」


「・・・すまん」


 地獄そのものだ。軽い気持ちで参加しようとしたことが間違いだった。今からでもデビルロードを身代わりに立てたい。どうにか早く終わらせる方法を考えていたが、しかし何もアイデアが浮かばない。


 火の典礼は厳粛に執り行われた。

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