第12話 魔女狩り

「すう、はぁ~」


 ある昼下がり。

 ダンジョンマスターはマレーサ魔術学院の庭園を散歩していた。

 人間共が呑気にあいさつを交わしたり、魔術のことを語らいあったりしている場所。・・・うーん。考えると気分が悪くなってきた。


「ここは澄んだ空気だな。吐き気がする。ダンジョンのじめじめした空気が恋しいよ。・・・ん?」


 庭園の中に、僅かだが魔力の痕跡がある。


 跡を辿っていくと、土の中に人間の死体が見つかった。


「白骨化しかかっている。スケルトン兵を作り出すのに丁度良い塩梅だな」


 何とか頭の部分だけは掘り出すことができた。ダンジョンマスター一人の力では全身を掘り出すことはできない。なぜなら彼は力仕事に向かない性格だった。


 頭蓋骨の土を払って観察する。


「切歯縫合の癒着具合から見てかなり成熟した個体だろうな。・・・そしておそらくオスだ。」


 わざわざ運び出すのも面倒だから死体は放置したままにしておく(頭は埋め直しておく)。スケルトンを量産するには死体をかき集めるよりダンジョン内で人間を殺す方が賢いやり方だ。


 ところで、なぜ俺がこんな人間の棲む不快な空気に晒されながら散歩をしているかというと、この場所には魔術師が群れをなして生活しており、新たな配下を見つけるのに絶好の場所だと思ったからだ。"ウォーロック"を仲間にしてダンジョンを強化するために。




 数日後、学長によって死体の存在が公表され、学院内で"犯人探し"が始まった。ただし、臆測を話すだけでまともに犯人を探している人間は一人もいない。


「おい!犯人が見つかったぞー!」


 不毛な犯人探しに、カインという生徒が最初に槍玉にあげられた。


「見ろこの魔導書を。悪魔が使う黒魔術をまとめた危険な本だ!」


 生徒のほとんどが、それだけの乏しい証拠で彼を悪魔の手先と見なした。しかも、一方的な主張で反論の隙を与えていない。


 ―――ちなみに魔導書は偽物だった。カインは悪魔という存在に憧れている中二心旺盛な男の子なだけだ。


 フィオナは呆れ返る。


「クロノ!あなたもくだらない臆測で悪魔探しを楽しんでいるの?」


「くだらない?」


 クロノは、悪魔を探し出し糾弾すること自体を否定されたと感じたようだ。

 クロノの表情が曇った理由がわかる。彼女は、クロノを入学時から最も打ち解けられた人物として信頼しているのだが、どうやら一方的に思っているだけのようだ。


「お前の態度、どこかおかしいと思っていた。・・・悪魔についてもっと知りたがってたし。もしかして、ウォーロックが使う危険な術式を既に会得してるんじゃ」


「だったら私が犯人だとでも?」


「否定はできまい」


「死体を調べればすぐわかることじゃない。入学したての私たちだけは犯人の候補から外れるでしょ」


 いい加減ちゃんとした場所に埋葬してあげるべきだと思うけど。誰もが犯人探しに躍起になって人間としての基本的な配慮を失っているようだ。


 死体の脇腹にあった大きな穴。あれは魔術によって殺された証拠だ。どんな魔法も扱い方次第だが、あの殺され方は明らかに次元が違う。


 数日もすれば、フィオナの悪い噂が学院中を巡っていることだろう。

 死体が残している証拠などは関係ない。彼らにとって世界は悪魔を許すか許さないかに二分されるのだ。誰も無実の証拠などは求めておらず、問題は罪を償うことが出来るかどうかだ。

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