第8話 防衛成功?

 人間達が撤退してから、ダンジョンは陰鬱なムードに包まれていた。

 しかし、殺されたインプたちを弔ってやったり、破壊された罠と魔力装置などの修繕などやることは沢山ある。

 あの数の軍勢が押し掛けてきたのだから、おそらく一国レベルの人間の共同体がこのダンジョンに目をつけ侵略しに来たのだろう。我々悪魔が人間に対して越えなくてはならない「最大の壁」が現れたのだ!

 そう思わなければ、このダンジョンは生き残ることができない。


 ・・・と、手下の悪魔達は意気込んでいる。ただ、俺自身は一周まわって気楽だった。ダンジョン生存のために、また別の方法を思いつき、そのことに考えを巡らせていたからだ。


「ダンジョンマスター様!」


「ブレイズか・・・」


 地上へ偵察に送っていたブレイズがダンジョンの危機を知り戻ってきた。

 まだ一度も地上へは昇ったことがないが、彼女の情報から地上世界の出来事は全て把握している。


 ブレイズは、人間達に荒らされたダンジョンを見て震えた。そして涙した。


「これでも最小限の被害だ・・・。追い返せただけでもマシだと考えよう」


「なんてことを・・・人間共め、よくも!」


「ああ、我々悪魔の世界に牙を剥いた人間共を許してはならない」


「欲深い人間のことですから、これで終わりとは考えられません」


「その通りだ」


 やはり人間を侮ってはいけない。人間が幻を見るのは、短所でもあり、長所でもあるのだ。特に、コロニー同士の境界が薄れ、もっと大きな群体を作るときが一番恐ろしい。

 しかし、恐れるだけでは負け続けることと変わらない。

 勝つためには、相手を知らなくてはならない。だから情報が必要なのだ。


「私はどのような状況でもあなたの従順な配下です。敵の軍勢が目の前に迫っていても・・・ダンジョンマスター様。どうか、その事を心に留めておいてください」


「わかっている。しかし、仕事を続けてくれ。さらなる発展の為に・・・犠牲を払うことも必要だ」


 ダンジョンマスターの呟いた言葉が、ブレイズの不安を掻き立てた。


「え・・・?」


「いや、何でもない。心配するな。お前の覚悟も受け取ったよ」



 このダンジョンでは、日夜インプたちがダンジョンの拡張の為に動いている。

 単純な掘削だけでなく、特定の構造物を成形することもできるし、魔力装置の配備や、その他のあらゆる雑務も彼らの仕事だった。


 ダンジョンの規模が大きくなるにつれて、インプの数も増えていく。

 これだけ巨大な迷宮でも、インプを見つけられない場所は存在しない。空気が澄み渡るのと同じように、インプはありとあらゆる場所に存在する。


 さすがにこのインプたちの特徴を全て把握することは不可能に近い。

 俺が勝手にオリジナルメンバーと呼んでいる、カタメくん、ネコマタくん、カエルくんなどを除いて(前二つは魔鉱石を与えて進化してしまったが)、身体的な特徴や、変わった癖を持つような個体でなければ違いを意識することすらないのだ。

 しかし、彼らがいなければダンジョンは存在し得ない。俺は、インプたちにも上級悪魔と同等の愛を持っているつもりだ。

 

 インプ達に罠の修繕の仕事を切り上げさせ、新たな仕事を与えた。

 人間共を出し抜く為、次のステージに上る為に必要な事だ。俺自身は、コアが隠してあるセントラルエリアの一室に籠ることにした。


 そして数週間後。

 再び人間は、ダンジョンに向けて進攻を開始した。


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