第6話 愛ってすごいな

 好きな子と働く1日目、緊張であんまり寝られなかったよ。

 

「朝だよ〜☆早く起きないと朝ごはん無しだよ〜☆」

 

 ルネちゃんの声に起こされて、カーテンを開けると眩しい光が差し込んできた。

 

 ほとんど寝られなかったけど、ダルさは感じない。

 

 モコちゃんが隣に居るから……かな。

 

 愛ってすごいな。

 

 アンリくんから貰った服に着替えてドアから出ると、ちょうどモコちゃんも出てきた所だった。

 

「おはよう、モコちゃん」

 

「ん……おはよ……」

 

 寝巻きに上着を羽織っただけの無防備な姿で、ドキドキする。

 

 髪の毛は毛先までしっかりと三つ編みされている。

 

 寝ている時に髪の毛が痛まないようにそういう工夫をするって、母さんが生きてた頃に言ってた。

 

「モコ〜ダイヤ〜、早く来ねぇと朝食全部俺が食うぞ〜!」

 

「今行く!」

 

 眠たそうに目を擦っているモコちゃんの手を引いて、昨日お風呂に行く時案内してもらったリビングまで向かう。

 

 モコちゃん、朝に弱いわけじゃないはずだけど……どうしたのかな。

 

 食卓に何種類かのパンとハムエッグが置いてあった。

 

「モコ、顔拭いて☆」

 

 ルネちゃんがタオルを手渡し、モコちゃんがそれで顔を拭うとちょっと目が覚めたみたい。

 

「おはよ……」

 

「なんだモコ、随分眠そうだな。夜更かしでもしたか?」

 

「ん……ダイヤが装備品の調整できるようになるための練習方法まとめてたら寝れなかった……」

 

「わ、ごめんねモコちゃん。ありがとう」

 

 モコちゃんがここまでしてくれてる事にも気付かず僕は寝てたんだ……。

 

 それでほとんど寝れなかったなんて言って……申し訳なさでいっぱいだよ。

 

「本当にモコは仕事が好きだなぁ……。んで、ダイヤは……なんというか、随分変わったな」

 

「イケイケだね☆」

 

 あっそっか。アンリくん達は僕が変わったのを見てないんだった

 

「うん、モコちゃんにプロデュースしてもらって変わったんだ」

 

 突然敬語を辞めて不快に思われてないかな……。

 

「良いじゃねぇか、オドオドしてるのより何倍もかっこいいぜ」

 

「かっこいい☆」

 

 嬉しい……! こんなふうに人に褒めてもらうなんて、何年ぶりでしょう。

 

 モコちゃんはこうなる事、分かってたんだろうな。優しいなぁ。

 

 という感じで朝ごはんを食べて、お仕事1日目が始まった!

 

「いらっしゃいませ」

 

 ——しばらくお使いもパーツの整理も必要ないからと言われ、お店に立ってるけど……今日最初のお客様にすごく見られてる……。

 

「お兄さん、新しいスタッフの人?」

 

 3つくらい歳下に見える女の子と、その子のドールと思われる少年。

 

「そ、そうです」

 

 穴が開きそうなくらい見つめられて落ち着かない。

 

「すごいね。モコさん、従業員は雇わない方針って言ってたのに」

 

「えっそうなんですか」

 

「そうだよ、だからお兄さんすごいんだね」

 

 ただの同郷ですよ、とか謙遜したらモコちゃん怒るかな?

 

「ありがとうございます」

 

 多分、これが良い切返しだよね?

 

「じゃあこれ注文書だから、トモの事よろしくね」

 

「あっ、はい、ありがとうご……じゃなくて、かしこまりました」

 

 あぁ……ありがとうございますで良かったじゃないか僕……。

 

 トモさんと言うらしい少年のドールを注文書と共にモコちゃんの元へ連れていく。

 

 モコちゃんは工房でパーツを整えたりしてるんだって。

 

 声帯が無かった時のルネちゃんみたいにずっと黙ってるけど、緊張してるのかな……いや、さすがにそんなわけはないか。

 

 そういえば、注文書を書くとそれに応じた料金が自動的にモコちゃんに送られるんだって。

 

 さすがゲームの世界。

 

「モコちゃん、注文書とお客様のドールのトモさんを連れて来ました」

 

「ありがとう。トモさんはそこの椅子に座ってください」

 

 言われた通りにトモさんが椅子に座った。

 

 そして店の方から呼び出しのベルが鳴った。

 

 店に出るとお客様が5組くらい来てて、『揺るがないモコ』の人気が伝わってきた。

 

 モコちゃん、今まで1人で接客も作業もやってたの?

 

 絶対大変だっただろうな。

 

 僕がしっかり役に立たって、ちょっとでも楽にしてあげないと!

 

「いらっしゃいませ。本日からここで働くことになりました、ダイヤです。注文書とドールは僕に預けてください」

 

 アンリくんが事前に考えてくれた言葉を言うとお客様が僕の方に集まってきました。

 

 コンビニでのバイトとは全然雰囲気が違う。ドールを預かるってことはかなりの責任が発生するって事だし、プレッシャーもすごい。

 

 だけどモコちゃんのためだ。しっかりしないと!

 

 頑張れ僕……!

 

 ——1日目が終わった。

 

 定期的に自己紹介をしたのも大変だったし、たまになんで雇われたのかとか質問してくる人も居たし……。

 

 誤魔化すのが大変だったから、些細な事ではないな……。

 

「疲れた……」

 

「おつかれさん。甘いもの好きか?」

 

「ココアいれたよ☆」

 

「あ……ありがとうございます! ココア、大好きだよ」

 

 母さんが生きていた頃はテストの後とか体育祭の後とか、疲れた時にココアを入れてくれてたな。

 

 ここに来てから久しぶりの人の温もりをたくさん感じて、ホッとする。

 

「ダイヤの珍しさから来た客も居るから、何日かすれば忙しさはマシになるはずだ。それまでに慣れろよな」

 

「体力付けろ〜☆」

 

「そうだね。モコちゃんが頑張ってるんだから、僕はもっと頑張らないと」

 

 装備を作れるようになったらもっとモコちゃんが楽になるだろうし、僕にできることはまだまだあるはず!

 

「良いね、その自信が有ればダイヤもすぐ1人前になれるさ。モコもすぐにお前さんに惚れるだろうよ」

 

 アンリくんに頭をポンポンされた。

 

 モコちゃんにもこういう事してるのかな……。モコちゃんがアンリくんに惚れちゃったらどうしよう。

 

「なんとなくダイヤが想像してる事は分かるが、残念ながら俺は初日にフラれたよ」

 

「女たらし! 最低! って言われてた☆」

 

 ルネちゃんのかなりクオリティの高いモノマネで思わず笑っちゃった。

 

 良かった。僕はまだそこまで言われてないもんね。

 

「僕、絶対モコちゃんに好きになってもらえるように頑張るから。見ててね! アンリくん、ルネちゃん」

 

「おっ、良いねぇ。ダイヤおまえ、案外熱いじゃねぇか」

 

「応援してやる☆」

 

 そのための第1歩、お客様からすごいと言われる店員になるために明日も頑張るぞ!!

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