第5話 おやすみ

 好きな子から条件を出されました。命くらいなら差し出します。

 

「ほら、これが条件。全部……とは言わないから、できる限り応えてよ」

 

「分かりました」

 

 メモを受け取ります。

 

 書いてあったのは以下の通り。

 

・敬語は辞めること

・苗字で呼ばないこと

・見た目に気を使うこと

・私以外とも積極的に話すこと

・接客をすること

・私よりもお客様を大事にすること

・アンリ達もさん付けしないこと

・アンリ達にも敬語は使わないこと

・お客様には丁寧に、でも今みたいな下からな態度を辞めること

・ルネと一緒に雑用をすること

 

「私達同い歳じゃん、クラスは違うかったけど小学校も同じだしさ。高校も私のこと追いかけてきたんだろうけど、一緒だし。敬語で話されるのキモいんだよね」

 

「ごめんなさ……ごめんね」

 

 危ない、いきなり条件を破るところでした。

 

 うーん、敬語は癖みたいなものですから、完全にやめてみた方が良いかもです……良イカモシレナイネ。

 

 難しい……。

 

「高1の時にくれた手紙も、なんかやたらへりくだった感じでキモくて4行くらいで読むのやめたし」

 

 1枚すら読んでくれていなかったんだね……悲しい。

 

「ごめん……」

 

「あーもう、すぐ謝るのも辞めること! 書き足しといて」

 

 メモに書き足します。

 

 あぁ、また敬語が……。毎晩10回じっかいずつ読んで忘れないようにしないと。

 

「苗字で呼ばないでとは書いたけど、なんて呼ぶ気?」

 

 あなたくらいしか思い付かないけど、そう言ったら絶対すごく嫌な顔をされるだろうな。

 

 名前で呼ぶしかない……よね。

 

 アンリさ……アンリくんも呼び捨てしてたし、モコ……ああぁダメだ。僕にはできない。

 

「も、モコちゃん……で、どうかな」

 

「小学生? ……まぁ、いいや。榊さんより何倍もマシ」

 

 良かった、嫌な顔はされなかった。

 

「見た目とかは後で私が色々いじるとして……雑用もしてもらうからね」

 

「なんでも任せて! 掃除も料理も得意だよ」

 

 一人暮らしだからね。あと一応コンビニでバイトしてたから接客もできたり。

 

 ……厄介なクレーマーに目を付けられたりしたけど。

 

「5時に起きてご飯作って掃除して店が開いたらお客様の対応をしつつ洗濯とかして、終わったら片付けと掃除をして日付がすぎてから寝るような感じで」

 

「や、やってみるよ!」

 

 淡々と仕事を説明してた榊さ……モコちゃんが笑いだした。

 

「ウソウソ、ごめん。これルネのスケジュールだから。ドールってほとんど休憩が要らないからできるの」

 

 良かった……。

 

 命くらいなら捧げるつもりだったけど、本当に死ぬかと思った。

 

「ダイヤにやってほしいのはパーツとか道具の整理と、あとはお使いとか。今まではルネにやらせてたけど効率悪くてさ」

 

「わかった。任せて!」

 

 整理整頓もお使いも得意だから、頑張るぞー!

 

「あとは見た目だね。うーん……メガネとって」

 

「うん」

 

 モコちゃんがボヤけてる。ほとんど何も見えない。

 

「やっぱり思った通り結構顔は良いんだよねぇ……んー、ちょっといじっていい?」

 

「えっ、うん」

 

 メイクとかヘアアレンジとかだと思って頷いた数秒後、突然世界がクリアに見えるようになった。

 

 メガネをかけてる時の何倍もハッキリ見えてる!

 

「すごい、何したの?」

 

「ドールメーカーの凄いところ! 人の性能のいじれるの」

 

 すごい! 壁の模様までハッキリ見える。花の模様が彫ってあったんだ。

 

「すごいね!」

 

「まだまだ行くよ。この世界、黒髪も黒目もレアだから良い感じにしてあげる」

 

 そう言ってモコちゃんが空中で手を動かすと、長くて若干目にかかってた前髪とかの視界に入る髪が綺麗な紫に変わった。

 

「思った通り、似合うね」

 

 壁にかかってる鏡を見ると、目の色も緑に変わってる。色が変わるだけで僕ってこんなに雰囲気が変わるんだ……!

 

「あとは……髪型だね。その重い前髪もなんとかするね」

 

「お願いします」

 

 モコちゃんが空中で手を動かす度に髪の毛が軽くなっていく。

 

 鏡を見ていると、毛先が整えられて多すぎる毛量も減って、前髪が書き上げられてる。

 

 アンリさんよりもちょっと多めに右目に前髪がかかる感じになって、変化は終わった。

 

「このゲーム、ミステリアス男子がモテるんだよねぇ……アンリは見た目だけだけど」

 

「ドールってミステリアスな感じするもんね」

 

「そう? 私は癒しだと思うけどな。ルネは違うけど」

 

「アンリさんもルネさんも、見た目と性格がすごく違ってるもんね」

 

 あの綺麗な顔から豪快な笑い声や罵声が飛んでくるとは思わなかったもんなぁ。

 

「うん。やっぱりダイヤ、今の方がイケてる。絶対モテるよ」

 

「好きになってくれた?」

 

「その返しができるなら彼女くらい作れるね」

 

「モコちゃんがいいんだよ……」

 

 好意を全然受け取ってくれない……。

 

 嫌われてるのに比べたら些細な事だけど。

 

「まぁ、働き次第で考えてあげる」

 

「お客様第1に全力で働くね!」

 

「応援だけしとくよ」

 

 好きになってはくれなくても、せめて……せめて頼りにしてくれるように頑張るぞ!

 

「じゃあ、明日からよろしく。おやすみ、ダイヤ」

 

「あっわ、お……おやすみ! モコちゃん!」

 

 久しぶりに誰かからのおやすみを聞いたな。

 

 それがモコちゃんからのおやすみだから……今日は良い夢が見れそう!

 

 明日から頑張るぞー!

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