#11 相棒

「レオは、どこかな?」


真っ白なベッドで目を覚ました保護者の第一声は、我が身ではなく少年への心配だっ

た。


「ああ、ええと」


さっきの商店街で、レオは近くの交番へと連行され、不良たちとサモンは病院へと搬

送。俺はレオが正界人なので、付き添いを口実に保険証等の持ち物を持っているかを

確認したかった。


「そうか。身分証の類は我々正界人たちは高度に偽造しているのでご安心を」


事の顛末を聞き、その場に立ち上がろうとする紳士。後頭部を抑えながら顔を歪め

る。


「骨に異常はないけど、今日は安静にした方がいいって!」


「正界人なので魔力で自然治癒します。ご安心を」


「ちょっ、おい」


俺の忠告も虚しく、紳士は立ち上がり、畳んでおいた私服に着替え始める。


「彼には僕がいないとダメだし、僕には彼がいないとダメなんだ。いろいろとありが

とう。出雲喜福君」


どうしても行かなければならないという意思を感じ、俺は諦める。


サモンの方ではなく、レオと同行した方がよかったのか。


俺は、他人のために動けないから、そういう考え方になるのだろう。


ますます自分が嫌いになった。




      △△△




「あんたって意外と頑固なのね」


翌日。


黒江の嫌味を聞き流しながら、ラグナからの連絡を待つ。


交番で事情聴取を受けたレオは厳重注意で済んだが、学校は3ヶ月の停学となった。

あいつの取った行動は多少やりすぎな部分はあったが、それでも純粋な善意からの行

いだ。


黒江は理事長室へ向かう俺に立ちはだかる。


「止めるか?」


「当然。意地でも阻止する」


「どいてくれないか?」


「どかない」


「バイトのシフト、一回だけ代わる権利を与える」


「いらない」


「お前も大概頑固だな」


「そうね」


顔をしかめたまま俺の意見に耳を傾けようとしてくれない。


「正界にすぐさま帰りたいのは分かるけど、レオだって、何か事情があるかもしれな

いだろ? それに、サモンさんだってレオの幸せを願ってるに違いな…」


「あんたの命はどうなのよ!」


「え」


虚を突かれた。


「いくら気に入らない事情があったからって、現世人に暴力を振るったのよ? 正界

では違法なの! それ以前に、ほとんど魔力を持たないあんたに襲い掛かったらどう

するの!?」


「それならその時だ」


言い放った瞬間、頬に衝撃が走った。


「お前だって暴力してんじゃねえか」


「滅魔が滅魔に暴力振るって何が悪いのよ!」


こないだまで現世人だって言って差別してたくせに、都合よくないか、と言いかけ

て、口を引き結んだ。


「あんたは私の相棒、なんだから、危険なことしないでよ」


縋りつくように胸倉にしがみつき、肩をかくかくと震わせながら、6月の雨音に負け

ないくらい黒江は泣きじゃくった。



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