依頼からの帰宅
「もうっ……もうっ! 逃げてないのに洞窟壊さないでくださいよ!!!」
それからソフィアたんからのありがたいお弁当を食べ、日が暮れる前に街へと戻ってきた。
盗賊は無事討伐。何人か生き残りがいたので、そいつらは冒険者ギルドに報告ついでで連行しておいた。
そして、俺の横には未だにグチグチと言い続けるイリヤの姿。
本気で怒っている様子はないのだが、頬を膨らませて怒っていますアピールはしていた。
「いや、どうせ俺達だったら死なないかなーっと。事実無傷で生還してるし」
「服が汚れちゃうし、破けちゃったりするんです!!!」
乙女には命の心配よりオシャレの方が心配項目だったらしい。
「悪い悪い。このお金で新しい服買ってやるから」
「……ししょーが選んでください」
「でも、お前が選んだ方が好きなもの買えるだろ? だったら───」
「いいから、今度街に買いに行きますよ。異論は認めません」
あ、はい。
「それにしても、呆気なく終わっちゃいましたねー。A級とS級をご指名なので、てっきりもうちょっと苦戦すると思ってたんですけど」
「まぁ、早期発見早期討伐だったからじゃないか? 向こうも体制を整えていたら話は変わったかもしれんし」
誰かが攫われました、奥に人質がいます。
っていう話になっていれば洞窟を崩壊させることもできなかったし、そういう面で今回はタイミングがよかったのだろう。
被害が出る前に倒せてよかった……これでソフィアたんを取り巻く危険が一つ減ったぜ。
「むぅ……まぁ、楽にこしたことはないのでいいですけど」
といいつつ、どこか不満そうなイリヤ。
不完全燃焼と言ったところだろうか? 戦闘中の時もそうだし、イリヤはどこか戦闘狂の素質でもあるのかもしれない。
(まぁ、いざとなったら横にいればいいし大丈夫だろ……)
そんなことを思っていると、最近決まった我がホーム……孤児院の前へと辿り着いた。
冒険者ギルドで事後処理も終わり、報酬ももらったので今日のお仕事は終了。
こうして孤児院を見ると「このまま今日はソフィアたんといられるぜやったね」という気持ちが湧き上がってきた。
「あ、お兄ちゃんが帰ってきたー!」
「ほんとだー!」
庭でボール蹴って遊んでいた子供達が俺とイリヤを見かけて駆け寄ってくる。
こういう姿を見ると、妙にほっこりしてしまうから「子供もいいなぁ」としみじみと思う。
「しょうこりもなくきやがったー!」
果たして貴様に道徳は学べるかな、小僧?
「お姉ちゃん、お仕事終わったなら一緒に遊ぼ!」
子供達の一人が、真っ先にイリヤに声をかける。
やはり、女の子だからだろうか。イリヤの人望はたった二日のはずなのに凄まじい。
俺にはこんな失礼なガキしか寄ってこないのに。
「いいですよ〜! でも、この前みたいなお遊びだとちょっとお姉ちゃんは厳しいかもです」
確か、前回はおままごとだったか?
それも、昼ドラとR18をいいように合わせた壮絶な三角関係だったはず。
俺でもそういう作品を見ることに躊躇してしまいそうなのに、よくもまぁ思春期を迎えていない子供が楽しめるものだ。
「大丈夫! 今度は違う遊び!」
「それならいいですね。ちなみに、どんな遊びですか?」
「寝盗った女を追いかけ回す鬼ごっこ!」
「お姉ちゃんは純愛を望みますぅー」
どうして鬼ごっこに特殊なポジションをつけるのだろうか。
最近の子供はよく分からないものである。
とはいえ、あっちはイリヤが頬を引き攣らせながらも対応してくれているので、早く今日稼いだ分を
「おい、ガキンチョ」
「なんだ、お兄ちゃん」
「ソフィアたんはどこにいる?」
「今日の夕飯のお買い物ー!」
そうか、買い出しか。
もう少し早ければ、推しの手を煩わせることなく俺が買い物に行けたものを。
己のタイミングの悪さに悔しさが込み上げてきてしまう。
「そういえば、さっきうちの前をめっちゃかっこいいお兄ちゃんが通ったー!」
「ほう? 俺と同じぐらいのイケメンさんがこの前を通ったんだな」
「何言ってんだお兄ちゃん? お兄ちゃんはブサイクにブサイクをマリアージュした顔だろ?」
失礼に失礼をマリアージュしたこのガキンチョ、どうにかできねぇかなぁ?
「んで、そのクソイケメンがどうしたって?」
「なんかなー? ちょっと光ってる剣持ってた!」
「むっ?」
ちょっと光る剣……それは確か、力が発揮したばかりの聖剣ではないか?
作品で光る剣と言えば聖剣だし、そうであれば持っているのは主人公だけだ。
つまり、主人公はこの街に───
(いや、でもまだメインヒロインと出会うイベントまで時間があるだろ? なのにどうして?)
もしかしたら、主人公がこの街に滞在してしばらくのイベントだったかもしれない。
それで、孤児院が盗賊に襲われた時にソフィアたんと出会う。
確かに、よく考えればソフィアたんルートで主人公が「盗賊団を探していた」ってセリフがあった。
となれば、今は主人公が盗賊団を探すためにこの街へ滞在を始めたということなのだろうか?
「お兄ちゃん、考えごとか?」
「ん? あ、あぁ……」
「元気出せよ! お兄ちゃんに考えごとなんて似合わねぇぜ!」
そのセリフは励まそうとしたけど間違えただけなのか、お前は考える頭などないだろう? と言っているだけなのか。
今までの行いが俺の判断を鈍らせてしまっているぞ、小僧?
(まぁ、主人公のことはあとでゆっくり考えるか)
今すぐに何か起こるというわけでもないだろう。
きっと1日、2日じっくり考える時間ぐらいあるはずだ。
「じゃあ、不倫相手の奥さんから逃げる愛人さんのかくれんぼしよっ!」
「お姉ちゃん、ドロドロした関係から隠れるの苦手ですぅー」
俺は未だ何して遊ぶか決めかねているイリヤ達の会話を聞きながら、そんなことを思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます