盗賊、討伐!
バッタバッタバッタバッタ。
俺の目の前でボロボロの服を着た男共が倒れていく。
正確に言えば、思い切り吹き飛ばされて壁に激突、そんで意識を失って地に伏せていくといった感じだろうか。
そして、その現状を生み出しているのが───
「が〜うがーうわんわ〜ん♪」
可愛らしい笑みを浮かべ、白い体毛に覆われた巨腕を振るっているイリヤという少女。
何人もの盗賊に立ち向かい、容赦なく拳を振りかざす。
最中、盗賊が剣を振るうのだが、腕に傷すらつかないのだからそれが俺に同情心を与えてくる。
そんな気持ちを抱きながら、為す術なくただ殴り飛ばされる盗賊を見ているだけというかなりシュールな光景を俺は後ろからひっそり見ていた。
「こんな化け物相手にしてらねぇよ!」
「お、おいっ! 入り口塞がれてんだから奥に逃げるな! 逃げ道を塞がれるぞ!」
「くそっ! なんでこんな逃げ道を作っている最中に襲ってくるんだよ!?」
盗賊団のアジトは街の近くにある洞窟の中にあった。
どうやらアジトになってから間もないのか、敵さんは洞窟というのが仇となった。逃げ道もないのに、入り口から敵が現れてしまえばそりゃ対峙するしかなくなる。
とはいえ、大人数で襲いかかれば出口など容易に作れるだろう。
ただ───
「さぁ、次はどこのどいつですか!? 肉塊にしてやりますよ、ぐっちゃぐちゃのミンチにしてハンバーグの材料です!」
相手は、女の子の発言としてはいかがなものかと思ってしまうような子だ。
一体、俺はどこで育て方を間違えてしまったのだろうか? ちょっと教育方針の見直しを検討しなければならなそうである。
「くそっ……
「その
そう、もう盗賊団の親玉は倒してしまったのだ。
悲しいことに、イリヤが「邪魔です、退いてください」と言って一番最初に出会った男をぶん殴るような形で。
(にしても、人数が多いな……)
アジトに入ってからかれこれ三十分ぐらいイリヤがぶん殴っているが、目の前にはまだまだたくさん盗賊団のメンバーがいる。
本当に大規模な盗賊団だったようだ。どんどん奥から出てくるし、これではキリがないかもしれない。
「ししょー、そろそろ手伝ってくださいよー!」
傍観していると、イリヤが振り向きながらそんなことを言ってくる。
イリヤ一人で事足りそうではあるのだが……恐らく面倒くさくなってきたのだろう。
「おっけー。じゃあ、適当にキリがいい時に下がってくれ」
「了解です」
ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!
おっと、キリがいい人間が一人綺麗に壁にめり込んでしまった。
「ふぅ……疲れたです」
めり込んだ姿を確認することもなく、イリヤが息を吐いて俺の下に近づいてきた。
その時、イリヤの腕がみるみる姿を変えていく。白い体毛も、ふた周り大きな腕も見る影をなくし、少し経てばいつもの見慣れた華奢な腕になっている。
「お疲れ様。いっつも思うけど、結構えげつないよな」
イリヤの魔法……というより、体に術式を刻み込んだ魔術は『望んだ物体に体を変換する』というものである。
そのおかげで先程の腕も獅子のようになり、恩恵として頑強と何十倍もの腕力を手にしている。
他にも翼を生やしたり小さくなったりできるのだが、本人曰く「絵面が酷いことになるので極力使いたくありません」とのことで滅多に見せてくれない。
個人的には見てみたい。男としてちょっと憧れる。
「見た目が、ですか? ぶっ飛ばしますよ?」
「落ち着け、意味合いが違う」
腕を振りかざすな、腕を。
さっきの光景を見ているから余計にビビッちゃうでしょ俺が。
「っていうより、俺は盗賊団の話を聞いていいことを思いついた」
「ふぇ?」
「どうやら、ここには逃げ道がないらしい。つまり───洞窟潰せば一掃できるんじゃね?」
俺がそう言った瞬間、残りの盗賊達から息を飲むような声が聞こえてきた。
気持ちは分かる。何せ洞窟が潰されてしまえば確実に生き埋めにされるからだ。
しようって提案したのは俺だが、盗賊達の気持ちはよく分かるぞ。
だが、悪党に慈悲を与えるほどこの世界は残念ながら平和ではない。
放置すればソフィアたんが危険な目に遭う可能性もあるのだから、容赦などする必要はないだろう。
「流石です、ししょー。その発言は私が頑張る前に聞かせてほしかったです」
「だって逃げ場がないって聞いたのはイリヤが殴ってる最中だったし」
そう、決して忘れていたわけじゃない。
俺はおマヌケポジのキャラクターではないのだ。誤解しないでもらおう。
「い、生き埋めはごめんだ……!」
「殺せ! 纏めてかかれば二人ぐらい!」
「死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
呑気にイリヤと話していると、盗賊達が一斉に襲いかかってくる。
それを見て、イリヤは突っ立っているだけで魔術を発動しようとする素振りはなかった。
これは───
「あー、はいはい。俺がやれってことだよね。分かってますよ」
「順番、ししょーですし」
「うーっす」
盗賊が持っている剣が近づいてくる。
そのタイミングに合わせて、俺は拳を振り上げた。
「
そして、その拳を迫り来る盗賊ではなく地面に向かって───
「ちょ、ちょっとししょー!? 私達、まだお外に避難してないですけど!?」
体からパチパチと青い電気のような光が溢れ始めると、後ろにいたイリヤが焦り始めた。
そんなイリヤを見て、俺はにっこりと笑う。
「さぁ、気合いで生き残ってみようか!!!」
「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その瞬間、激しい振動と共に洞窟が一瞬にして崩壊した。
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