混沌という存在

kento

混沌という存在

嶋野さんは、いつも優しく仕事を教えてくれる。決して、曖昧な指示はせず、具体的に笑顔で教えてくれる。もし、仕事を失敗してしまっても、決して感情的に怒るのではなく、淡々と改善点を指摘をしてくれる。最後に、「自分も昔、やったミスだ!」と笑い飛ばして、終わる。これは、とっても善いことだろう。


しかし、一方で嶋野さんは、会社外だと粗暴に振舞う。煙草を、さも当たり前のように、ポイ捨てし、バイクも改造してあるのか、異常なまでの騒音をならして運転している。酒癖も悪いのか、よく飲酒運転もしている。


理想の上司である嶋野さんと粗暴な嶋野さん。どちらも同じ、嶋野さんという人間だだ。


隅田さんは、元囚人らしい。なんでも、過去に人を殺めてしまったようだ。しっかり、反省をして出所したらしいが、誰も彼には、近づかない。偶然にも、彼とランチの席が隣になったので、勇気を出して話してみた。


それからというもの、ちょくちょく彼と話をするようになったのだが、ある日ポツポツと過去のあやまちについて語りだした。どうやら、近所の女の子が親から酷い虐待をされていたことを知り、相手の家に怒鳴り込んだとのこと。相手も激高してしまい、もみ合った末、殺してしまっていたらしい。


無事に女の子は、保護施設に預けられ、今では逞しく生きている。女の子は、隅田さんに救われたことを感謝して、今でも付き合いがあるようだ。


人を殺したのも、女の子を救ったのも、同じ隅田さんだ。



そして、そんな彼らを、私は傍観しているだけの日々を過ごしている。

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混沌という存在 kento @kento910

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