第5話翌日

 「あっはよう!朝だよー!起きて!お姉ちゃん!」

 「うーん……」


 学校へ行く日の朝は早いです。登校する前に家事を済ませてから行くので5時30分に目を覚まします。


 「うう……少し寒いな」


 季節は、6月中旬の梅雨。天気は雨。


 ベッドから出ると少し肌寒いです。


 「ふぁ〜」


 眠い目を擦り、脱衣所へと向かい洗濯物を乾燥機へと放り込んで、洗面所で身支度を整えます。


 それからリビングへと行き、掃除ロボットのスイッチを入れて、キッチンへ。


 「面倒だし。今日も簡単なものでいいや」


 パンを6枚焼き、卵10個分のスクランブルエッグ、1キロのウインナー、2キロの野菜スープを作ります。(これは自分の分)


 トールは、そんなに食べないと言っていたので、パン2枚、卵3個分のスクランブルエッグ、5本のウインナー、200グラムの野菜スープを作った。


 作り終えて、カウンターテーブルに朝食を並べていると、「バキン!」と何かが折れる音が響く。


 「トール。おはよう。よく眠れた?」

 「うむ。快眠だった。それと、すまん。またドアノブを壊してしまった」


 トールの手には根元から折れたドアノブがあった。


 「良いよ。リビングの机の上にでも置いておいて」


 (トールが壊したドアノブはこれで6個目。流石になれた……)


 トールにとって私たちの世界の家具は脆いようで簡単に壊れてしまう。本人も力加減が難しいと言っていた。


 ティーカップなんて手で触れただけで粉々になってしまうほどだ。


 (さすが魔王歴20000年のベテラン)


 それからトールと一緒に朝食をいただく。


 「む!うまい!」

 「よかった〜!口にあったようで」

 「む?そんなに心配したことはないぞ?結衣の作る品はどれも絶品だからな」

 「ふふふ。なら、明日からは心配しなくてよさそうね」


 それから安心した私は、ご飯を食べる。


 「この世界の人族とはこんなにも食べるのだな……」


 トールは目を丸くして感心していた。


 「うーん?多分そうなんじゃない?」


 今まであまり外食とかもしなかった私は、1人家で食べることがほとんどなので、他の人がどのくらい食べるのか見たことがないからよく知らないが、ばあちゃんも私の3分の1くらい食べるからこれが普通なのかな?


 それから身支度を整えて玄関へ行く。


 「じゃあ、留守はよろしくね。行ってきます」

 「うむ。行ってこい。それと大したものではないが弁当というものを作ってみた。持っていくと良い」

 「え?なんで弁当なんて知ってるの?教えてないよね?」

 「昨日、インターネットというものを教わってから色々調べてな。それでキッチンの使い方も教わったから、作ってみた」

 「……ありがとう!行ってきます!」


 お弁当を受け取ってマンションを出る。


 (うわあ!なんか凄い嬉しい!誰かに見送られるなんて初めて!それにお弁当を作ってもらうのも初めて!ワクワクする!どんなお弁当なんだろう)





     ********************


 

 

 結衣は弁当を受け取ると照れている様子で部屋を出て行った。


 (嬉しそうにしてくれたな)


 ゆいが喜んでくれた様子を見てほっこりした気持ちになった。


 それから結衣を見送ったあと、ゲーム部屋へと向かい、PCを起動する。


 昨日、結衣からインターネットというものを教わってから、インターネットでプログラミングについても基本的なものは一通り勉強してから、実際にゲームを作ってみた。


 まあ、ゲームといっても軍服を着た男を作って、上下左右に動かすことくらいしかできないがな。


 「さて、さっきの続きだ」


 フィールドを作っている途中で朝食になったので、その続きから始める。


 3時間後……


 「よし!ビル群が倒れる荒廃した世紀末とやらを参考にフィールドを作ってみたが、なかなか良くできているな!」


 俺は、PCのキーボードの矢印で操作してみる。


 「うむ。上下左右。問題なく動いているな。あとは、バグチェックだけだな」


 フィールドの右端まで動いて、反転してジャンプ、下、と動かす。


 その後、左端まで向かう。

 

 「今のところは問題ない……」


 キャラがフィールドの左端についたところでいきなり爆発して、キャラが霧散して消えた。


 「……こんなことあるのか?もう一度確認」


 その後も何度か確認するが、その度に手が出てきてキャラを飲み込んだり、バグは様々だった。


 プログラミング内容を確認するが、何も間違っているところは見られなかった。


 「どういう事だ?何がいけないんだ?」


 その後も色々と試してみたが、どうにもならなかった。


 「うーむ?どうするか?試しに結衣と対戦なんかもしてみたいしな……バグをうまく利用してみるか?」


 2時間後……


 「ふぅ……一応はこれで対戦できるか」


 格闘ゲーム「ストリートファイ〇ー」を参考にして、キャラの攻撃を設定してみた。これで最低限はパンチや蹴り、ガード、回避などの動作ができるようになった。


 「どんな反応をするか楽しみだ」



  

   ************************



 

 トールがバグに苦しんでいる頃、結衣は学校ではなく、ゲームショップに来ていた。


 「やったー♪予約していた新しいゲームがついに手に入った!これでべ〇モスさんともおさらばだ」


 私は、るんるん気分でマンションへと向かう


 「あっ!ゲームが楽しみすぎて忘れてた!今日は週に2回の登校日だった!……しょうがない。学校に行くか……はあ、嫌だな」


 私は、来た道を引き返してタクシーを捕まえて、学校へと向かう。


 普通は平日5日間は、学校に通うものだろうと思うだろうが私は違う。父親が学校に多額の寄付をしているので、私は週2回好きな時に通うだけで卒業できることになっている。


 まあ、親の力です。(小さい頃に数回話しただけで、母親が出て行ってからは、月に1回のメールでのやり取り以外接触はないけど……)


 現時刻は11時50分なので、4時間目があと10分で終わるところで教室に入る。


 私が教室に入るとクラス中が「シーン」と静かになり、全員が私を見る。


 それまで、黒板に書きながら説明していた教師でさえ、手を止めて私を見る。


 「あっ……長谷川さんおはようございます。途中ですが、出席扱いにするので、席についてください」


 教師陣は、日本有数の財閥である社長の娘ということで、全員がこんな感じで萎縮したように接してくる。その目はありありと、面倒なやつが来たと語っている。


 クラスメートに限っては、

 「うっわ……出たよ。重役出勤」

 「今日は嫌われ者トップ2が揃ってるな」

 「上山萌に長谷川結衣。いるだけで空気最悪」

 「親が偉いってだけで、お前は偉くねぇんだっつーの」

 「今日も変なメイク」

 「絶対私たちの方が可愛いよねぇ」


 わざと聞こえるように言ってくる散々な状況である。


 まあ、昔から財閥の娘ってだけで、好き勝手に言われてきたから慣れているからいいけど。


 それに、神山さんは、私と違ってスタイルだっていいし、顔だって可愛いと思うけど……


 私は、チャイムがなって速攻で屋上へと行く。


 教室にいると、「金持ってんだろ?みんなに奢れよー」とか「これがあの長谷川グループの社長の娘でーす!ブサイクじゃない?私の方が可愛良いでしょ?」など、たかられたり、勝手にライブ配信をするものまでいる。


 (まあ、ずっと言われてきたし、1人にも慣れているからいいけど……)


 そこで、トールの顔を思い出す。


 「いってらっしゃい」


 無表情だったが、送り出される時、なんかすごく嬉しかった。



 (帰って「ただいま」って言えば「おかえり」なんて迎えてくれるのかな?)


  私は、今までなら何をして暇を潰そうとか、今日もいろいろ言われたなって落ち込んで過ごす屋上での時間が、トールによって楽しい時間へと塗り替えられた。


 (そっか。帰っても出迎えてくれる人がいるんだ)


 そう考えると、心がワクワクした。


 (はあ。早く学校終わらないかなぁ〜。それに、早く新作のゲームをしたい!)


 そんなことばかりを考えていたら、いつもなら長く感じる時間も早く過ぎ去っていき、学校の時間は終わった。


 お弁当はタクシーの中で美味しくいただきました。


 ちなみに生姜焼き弁当でした。



 ー夕方ー


 

 「ただいま!」


 私はいつもよりウキウキ気分で帰宅する。


 「おかえり」


 トールは玄関で出迎えてくれた。


 (おお!私が想像していたよりもさわやかな笑顔で出迎えてくれた!)


 「夕食を作っておいたから好きな時に食べてくれ。それに洗濯物とかもやっておいた」

 「え!昨日ゲームで負けて、今日は私が家事をやることになっていたのに良いの?」

 「そうであったな。まあ、気にするな」


 やっほーい!ありがたや!神様!仏様!魔王様!


 「ありがとう!」


 面倒な家事をやらなくて済んだ!やりぃ!これで新作ホラーゲーム「そのオヤジ危険につき……」を夕飯まで好きにプレイできる!


 ウキウキした気持ちを全面に出し、ゲーム部屋へ向かおうと歩き出したら、トールが真剣な顔で、


 「結衣。実は、昨日から格闘ゲームというものを作っていて、今しがた完成してな。テストがてら対戦してはくれないか?」


 お願いされた。


 (……は?ゲームを作った?)


 「いやいや!冗談でしょ!普通1日じゃ作れるないでしょ!」


 (ん?いや。待てよ。この人は魔王を20000年もやっていた人だし。それくらい可能なのか?)


 私は混乱が止まらない。


 「まあ、見るほうが早いだろう。ゲーム部屋へ行くぞ」


 トールが、ゲーム部屋へと向かうので、その後ろをついていく。


 「こんな感じのゲームだ」


 トールがPCを立ち上げて、80インチのゲーム用TVに映し出す。


 「どうだ?俺が作ったオリジナルのゲームだ」


 確かにトールオリジナルのゲームだということがわかった。なぜなら、画面に映っているキャラが私とトールだったからだ。


 (本当に使っちゃってたよ……この人一度教えたことはすぐにできるようになるし、私がみていないところでいろんな事ができるようになってるし。どうなってんの?1日前までホームレスだったことが信じられないわ。あ!でも、ほんの少し前まで異世界で魔王をしていたのか……なら、これくらいできて当然なのか?)


 うん!これはあれだ!考えたら負けのやつだ!と思考を切り替える。


 「わかった。対戦しましょう」

 「うむ。よろしく頼む」


 私が了承するとトールはコントローラーを渡してきた。


 コントローラーを受け取った私は、動作の確認と攻撃の種類を覚えるために操作してみる。


 (うん。基本的な格ゲーと変わらない動き。これなら……)


 最後に私は、↓とAボタンを押して動作確認を終了する。


 (よかった!使えた!ふふふ!これなら昨日のリベンジを果たせる!廃ゲーマーのハメ技の恐ろしさを見せてあげよう!)


 「大体の動きはわかったから、早速対戦しよう」

 「よろしく頼む。では……」


 トールがスタートボタンを押し、「ファイ!」とアナウンスが流れ、対戦が始まる。


 「おりゃ!」


 開始と同時にトールめがけて突っ込んでパンチを繰り出す……と見せかけてジャンプして後方を取り、画面右端まで移動して、即座に↓+Aを連打して、連続ローキックを繰り出し続ける。


 (ふふふ!どうだ!魔王トール!これが私が1,000時間ひたすら鍛えた!必殺!アモーレキックだ!これだけ連続で攻撃を続ければどうしかけて良いかわからないでしょ?)


 しかし、トールは仕掛けてこず、動かずにフィールド中央で静止して近寄ってこない。


 (どういうこと?なんで近寄ってこない?)


 疑問に思った私は、連続ローキックを維持しながら、トールの顔を見るが、ボーッと画面を眺めているだけだった。


 (何を待っているというの?わからない……)


 それから5分ほど経ってもトールは一切動きを見せない。


 (早く動いてきてよ!そろそろ手が!……もう限界)


 手の限界がきてしまい連続ローキックが解けてしまう。


 その瞬間、トールが動き、私に近づいて攻撃を開始する。


 「え!ちょっ!」


 次々に華麗なコンビネーションが決まる。右パンチ→左パンチ→右ローキック→左ハイキック→右アッパー→ライダーキック


 みるみるHPが削られていく。


 「ちょ!ちょ!この!」


 なんとか残りHPを4分の1残した状態でジャンプして回避することができた。


 (どうしよう!1,000時間かけて鍛えた連続ローキック「アモーレローキック」が通用しない!普通のコンボなんて鍛えてないからパンチやキックは単発でしか打てない……こうなったら、左端まで行って、ポジションを確保したら、迫ってきたところで連続ローキックをお見舞いするしかない!)


 私は、左端までダッシュで移動する。


 (よし!ポジション確h……はぁ?!いきなりキャラが爆発した!どうなってんの!)


 私の操作するキャラが左端にピタッとついて向きを変えようとした瞬間に、いきなりキャラが爆発して消えた。


 画面にはYOU looseと表示される。


 「……」


 突然のことに言葉が出ない。


 「よし。俺の勝ちだな。うむ!良い反応だ。このフィールドはこのままの設定にしてリリースするのも面白いかもしれんな」


 トールは、満足したようににっこりと笑う。


 「いや!なんで左端についた途端にキャラが爆発すんの!どーなってんの!」

 「うむ。あれはな。バグだ。俺も初めは驚いて必死に修正しようとしたがどうやっても直らなかった!なら、このバグを利用してゲームを面白くする方法はないかと考えて閃いた。バグはそのままにしてプレイヤーのHPが4分の1になって左の壁に触れると爆発してゲームオーバーになるという設定にしてみた。どうだ?普通の格ゲーよりもスリルがあって面白くないか?」


 だったら、最初からそのことも教えておけよ!と思ったが、そこは突っ込まずに、この条件を知っている状態同士で対戦した時のことをゲーマーとして考えてみる。


 賛否両論はあるかも知らないが、レベルの高いゲームを求める廃ゲーマーたちになら受けるかもしれない。


 普通のフィールドよりも難易度は上がるし、意識してしまう分普段よりも攻撃や防御などを気をつけなくちゃいけなくなる。


 「うん。やり込み要素としてありかも?」

 「そうか!なら、このフィールドはこのままで行くとしよう」

 

 それからトールのゲームについて2人で討論会をしていたら、夕食になってしまい、結局新作ゲームは夕食後楽しくプレイしました。



 ーおまけー



 新作ゲームレビュー


 新作ホラーゲーム「そのオヤジ危険につき……」


 ホラーゲームと表示されている通り、友達と肝試しで入った山奥の洋館で暗闇の中、管理人のオヤジと出会うストーリー。


 いきなり暗闇から「腰が!腰が痛い!」と目の前に倒れ込んできた時は絶叫してしまうほど怖かった。でも、その後はぎっくり腰のオヤジを麓の家まで届けるミッションはよくわからなかったけど、途中でおじさんが豹変して発狂し、目玉がなくなり刃物を持って襲いかかってくるのは怖かったです。


 その後のストーリー性などを踏まえて☆は満点の5をつけます!面白いです!続きも楽しくプレイします。夢の中でオヤジが出てきそうでちょっと怖いけど……

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