第3話拾ったホームレスは魔王歴20000年のベテランでした

 自宅へ帰ってから、まずはお風呂へと入れる事にした。


 「とりあえず、その全身タイツ?みたいなの脱いでお風呂に入って」


 玄関近くにある洗面所へとホームレスを押し込む。


 「……」


 だが、男はいつまで経っても服を脱ごうとしない。


 「もう!ちゃちゃっと脱げ!」


 私は服を脱がせ、


 「そして入れ!」


 お風呂場へと押し込む。


 ********************


 俺は、女に服を脱がされ、浴場か?にしては狭いが、湯があるから多分そうだと思われる場所に押し込まれた。


 「入れ!」


 女の声がこだました。


 とりあえず、いつも湯に浸かる前に体を洗うので、鏡の前に石鹸を見つけたので、その石鹸で全身を洗い、湯へと浸かる。


 (湯に浸かるのはどれくらいぶりだ?)


 お湯に浸かると冷えていた体が温まった。すると、固まっていた体が柔らかくなると同時に、冷えていた心も温まった。



 ***********************



 イケメンホームレスをお風呂へと押し込んだ私は、キッチンへと向かう。


 母が出て行ってからは、駄菓子屋のおばちゃんに教わり、1人で家事ができるようになった。


 「そういえば、駄菓子屋のばあちゃん以外に作るの初めてだな。人に出すってなると迷うな……」


 冷蔵庫の中身をチェックする。


 「手の込んだものは作る時間がないから、お味噌汁、卵焼き、焼き鮭、ご飯をチンした簡単なものでいいかな」


 チャチャっと作る。


 それから、お風呂の様子を見に行く。


 「ねぇ!お風呂どう?」


 と、聞いてみる。


 「……」


 返事がない。ただの屍のようだ。


 「返事くらいしてよ!」


 お風呂の扉を開けて直接確認する。


 「なんだ!お風呂に浸かってるってことは、体が洗い終わったのね?なら、こっち来て」


 私が言うと、お風呂から出て私の方にきた。


 「はい。バスタオルね。これで体拭いて。それから、パンツと半袖はコンビニで買ってきたこれ。ズボンはなかったから、明日まで我慢してね。服を着終わったら、洗面所を出て左奥にあるリビングに来てね」


 洗面所を出てから、キッチンへと行き、カウンター席になっているダイニングへと料理を並べる。


 終わる頃には、男がリビングへとやってきた。



   ***********************



 まだ少し心が重い気がしたが、湯に浸かりだいぶ軽くなったように感じた。


 (あの女は見ず知らずの俺になぜこんなにしてくれるのだ?)


 疑問を感じながらも、親切にされたことが嬉しかった。


 俺は、タオルなる布で体を拭き、渡された下着と上着を着用する。


 (背中にヒラヒラしたものがないと落ち着かんな……だが、ありがたい)


 服を着た後は、部屋を出て、女が言っていたリビングへと向かう。


 扉を開けると、左奥にある机に料理が並んでいて、いい匂いがした。


 しばらく食事をしていなかった俺は、


 「グルルルル」


 腹が鳴った。


 「お!よかった。サイズはちょうど良さそうね。それよりお腹空いてるでしょ?ごはん作ったからこっちきて食べて」


 俺は、女に従い、料理の席へと着く。


    

**********************



 料理の席についた男は、フォークを使い食べ始めた。


 (よかったぁ!顔立ちから日本人ぽくないからナイフとフォークも用意しておいて)


 食べ始めた男からは、なんの反応もなく、だんだん不安になってきた。


 (口に合わなかったかしら?外国人ぽいし、ステーキとかの方がよかったかな?)


 ばあちゃん以外に料理を作るのは初めてだから、ドキドキが止まらない。


 私は、男の後ろにいるので反応が見えない。


 男の表情が気になった私は、キッチンへとまわる。


 「え?」


 キッチンに周り見た男は、嬉しそうな顔をして泣きながら、小さな声で、「うまい」と食べていた。


 初めて聞いた男の声は優しい声をしていた。



    **********************



 食事の席へとついた俺は、ファブニールで見たことのない料理を見る。


 (なんだこの黄色い塊は?さらに茶色く濁った物はスープで良いのか?この白く光沢のある物は一体?)


 少し食べるのを躊躇ってしまったが、見ず知らずの俺にわざわざ作ってくれた料理。ありがたくいただく。


 (この木の棒で食べるのか?いや、ナイフとフォークがある)


 俺は、使い慣れているフォークを使いとりあえず焼き魚?と思われるものを食す。


 「……うまい」


 魔王城で20000年、1人で食事してきた。


 もちろん1人なので、料理を作るのも自分だ。


 誰かに作ってもらったこともないし、食べたこともない。なので、他人が作った料理を食べるのはこれが初めてだ。


 俺は驚いた。


 (人が作ってくれる料理とはこんなにも美味しいのだな!)


 あまりの美味しさに手が止まらない。


 それに、この料理からは、「俺の口合うだろうか?」など気遣いを感じた。


 湯に浸かった時もそうだったが、絶望していた時と違った感情が心の底から込み上げてきた。


 ずっと1人で過ごして今までに感じたことのない気持ち。


 この気持ちがなんなのかは分からないが、心が暖かくなり、目から雫がこぼれ落ちた。


 俺は、泣きながら夢中で、料理を食べた。


 料理を食べ終わると、女が目の前にいるのに気がついた。


 その女へ、20000年前に誕生した時に創造主へお礼を述べた時以来……いや。あの時は淡々と喋っていたに過ぎないな。だから、これが初めとなるかもしれない。


 「美味しかった。礼を言う。ありがとう!」


 心からの感謝を伝えた。



    *********************



 (うわあ……)


 ドキドキ。


 私は、男の笑顔に見惚れてしまった。


 これまでお金目当てで近寄ってくる人間の汚い笑顔はたくさん見てきたけど、男のような綺麗な笑顔を見たのは初めてだった。


 その後、正気に戻り、食器を片付ける。


 (さて、よく考えないまま男を家に連れてきてしまったけど、これからどうすればいいんだ?とりあえず事情次第ってことでいいかな?)


 リビングのソファで座って待っている男にお茶を出し、自分は向かいに座る。


 「さて、お互いに自己紹介からしましょう。名前を知らないと呼びづらくてしょうがないから。私の名前は長谷川結衣。16歳。よろしく。あなたの名前は?」


 男は少し躊躇するそぶりを見せたが、自己紹介を始めてくれた。


 「俺の名はトール。20000歳。職業は魔王をしていた」


 男……「トール」は、自己紹介をしてくれたが、それを聞いた私は、頭を抱えたくなった。


 (私、想像以上にやばい人拾ってしまったかもしれない!どこかの相撲好きな悪魔のメイクをした閣下を拾ってくるなんて……今すぐ病院に連れて行った方がいいかな?)


 それでも、ここまできたらなぜ路地裏でうずくまっていたのか聞かないわけにはいかない。


 「えっと。トールはなんであんなところでうずくまっていたの?」


 と、単刀直入に聞く。


 トールは、お茶を飲んで間を置いてから、


 「俺は、ファブニールという……」


  トールの話してくれた内容は、彼が、異世界の魔王ということ、その世界で20000年1人で生きてきたこと、そして、自分の創造主である神にいきなり捨てられたこと、その後、目を覚ますとあの場所にいたこと。


 (うん……ただの頭の痛い人にしか見えない!どうしよう?)


 でも、トールの顔が真剣で雰囲気も真面目だから嘘だとも限らないと思った。


 そこで私は、失礼だと思ったが、


 「トールの話が信じられないわけではないけど、何か証明できるものってある?」


 と聞いてみた。


 私が聞くと、トールは頷いてからソファから立ち上がる。


 トールは何もない空中に手をかざして「ファイアボール」と一言。


 すると、少し離れたところにバスケットボールくらいの大きさの炎の球が出現した。


 (……うん。めっちゃ熱い!トールの話は本当だったわ!私が拾ったホームレスは魔王歴20000年のベテランだった……)

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