胴-3

 マコトとリコは首山の自宅に帰ってきた。今日は午後から銅が港に出たが、なかなかハードだった。マコトはリコをエナメルバッグから出し、今日得た情報を話した。リコは「大体聞こえてたよ〜」と答え、2人でリコについて話し合った。クチナシと言う苗字であること、あのカフェでアルバイトをしていたこと、リコは基本的に明るい性格だが何か問題を抱えていたのか暗い表情が多かったこと。また、空田市を人間の身体に模して起こった殺人事件があったこと。「スズが言ってた噂ってのも、過去の事件が原因かもね?」リコは言う。マコトもそう思った。誰かが空田市をカラダと読み、ふざけた事件を起こしたのは事実だ。そこで、スマホで改めて空田市の形と地名を調べてみることにした。上から

 首山、銅がどうがこう要月町かなめづきちょう、日差がひざがや零具川れいぐがわ秋無あきなし...

 パッと見、身体に関係あるとは思えないが。

 しかし、リコは「なるほど...そういうことね」と呟いた。リコはこの街の秘密に気づいたようだった。リコはマコトに「ほら見て、ここが首山でしょ?ここが“胴”の港...要月は月と要で腰だよね」と伝えた。たしかに。そう考えると、日差が谷は膝と言えるし、秋無は...秋が無いでアキレスか?ダジャレのような地名だな。由来がわかるとこの首山が少々気味悪くなってきた。

「そういえばさ」リコが話を変える。「さっき言ってたクチナシのおばさんに虐められてた話、良かったら詳しく聞かせてよ。繋がりがある人かもしれないし。」マコトは苦い表情になる。「うん...まぁありきたりな話だけどね、仕事道具を隠されたり部活の顧問を外されたりね...向こうが教頭先生だったからさ」

「待って」リコが遮った。「教頭?」そう、確かにクチナシ先生は教頭だった。「そうだけど...」マコトが怪訝な顔をすると、リコは顔を顰めた。「そのオバサン、知ってるかもしれない...」

 クチナシ教頭の職場、そしてマコトの元職場は日差が谷高校だ。だが日差が谷高校に突撃するのは好ましくない(教頭に会いたくもないし。)。この件はひとまず置いておくことになった。「とりあえず銅が港にリコさんの胴体がないか、探しに行かないと...」リコは短い首で頷く。「明日にしよう、もう暗いし気疲れしちゃった。」マコトも同意し、寝床につく。電気を消してリコに「おやすみ、リコさん。」と言う。リコも「おやすみマコト」と言い、その後は2人とも黙っていた。そしてその日、マコトは夢を見た。バラバラの死体がくっついては起き上がり、「マコト」と話しかけてくる夢を。


 次の日の昼下がり、マコトとリコは電車に乗っていた。行先は昨日と同じく銅が港。だが銅が港を闇雲に探しても見つからないことは分かりきっていた。わかりやすい所に置いてあれば警察が見つけるだろうし、何より犯人の動機がわからない。なにかヒントは無いものか...ひとまずマコトはエナメルバッグを背負い、昨日カフェの店長と話をした公園に行ってみた。“銅が港第一公園”どうやらここは銅が港高校から最も近い公園らしく、高校生のカップルがちらほらと見受けられる。若干の羨ましさを含みながら公園全体を眺める。まぁ、そんなわかりやすいとこにはないよなぁ。大体、何に包まれているかも分からないし。マコトはとりあえず森の方を目指してみることにした。池や森があるエリアは案外大きいようだからだ。ここは人通りも少なく、何かを隠すのならピッタリだ。池沿いを歩いていると、銅が港高校の制服を着た、黒髪ボブの少女が向かってきた。その少女は立ち止まりエナメルバッグとマコトの全身を眺め、再び歩き出した。マコトの横を通る時、彼女は小さな声でボソリと「黒いビニール。」と言った。驚いて振り返ると、少女はニヤリと笑い、早足で立ち去った。マコトは繰り返す。「黒い、ビニール...?」まさか。マコトはゴミ捨て場まで走った。リコは「何?揺れるんだけど!!」と文句タラタラだったが、さすがは元体育教師、直ぐに公園と近隣の住民用のゴミ捨て場に辿り着いた。そこには大小様々のゴミ袋...とひとつだけ、大きい黒いビニール袋が置いてあった。「あった。絶対これだ。」マコトは呟く。リコは「なにがあ?」と寝惚けているが、マコトは聞いていない。人目がないことを確認し、黒いビニール袋を掴む。マネキンのような形とずっしりとした重みを手に感じ、マコトは血の気が引いた。確かに探してはいた。探してはいたが...いざ目の前にすると目眩がしてきた。リコが揺れを感じたのか、「マコト大丈夫?」と声をかけてくれる。リコの助けを借りて、正気を取り戻すことが出来たマコトは、そのずっしりとした黒いビニール袋を抱え立ち上がった。周りに人はいない。このまま電車に乗る訳には行かないが、しかし銅が港第一公園から自宅までは到底歩けるような距離ではない。マコトは途方に暮れた。時刻は16時を回っていた。このままここで立ち尽くしていても人に見られて通報されるだけだ。マコトは袋を抱え、ひとまず森の方へ避難することに決めた。ある程度深くなった森の地面に袋を置き、軽く草を被せておく。夜になって、人通りが少なくなってから取りに戻り、首山の麓までタクシーでも使おう。そう思っていた。


 19時。すっかり日も暮れ、人通りのまばらな銅が港第一公園に、マコトたちは戻ってきた。店長に融通を効かせてもらい、長時間カフェに滞在することが出来た。その間リコは全く喋らずに待っていた。眠っていたのかもしれない。「リコがリコ自身の意思で動けないというのは、どれほどのストレスなのだろうか。」マコトは考える。ウトウトしながらスマホを見ていたマコトは、暗くなってきたことに気づいてカフェを出、そして公園に戻ってきたのであった。森まで歩く。そこには草に隠れた黒い大きなビニール袋が


「ない」


 マコトは呟いた。え?なんで?ここに置いたよな。パニックになるマコト。「何!?どうしたの!!!」と尋ねるリコを置き去りに、周囲を探し回った。ない。ない。ないないない。なんで?どうして??不審物として処理されたのかもしれない。邪魔だと思った管理人が退けてしまったのかもしれない。こんな所に置いていった私が馬鹿だった…悔やんでも悔やみきれない思いでマコトの目にはうっすらと涙が溜まっていた。リコを、助けるチャンスだったのに。リコのもとに戻り、状況を説明する。リコは黙って聞いていたが、「うん、帰ろう?」と一言。「帰って、また考えよ?大丈夫だよ、マコト。」と話した。マコトは泣き出したが、リコは慰めることもせずに黙っていた。リコも落ち込んでいることだろうが、マコトは自分のことでいっぱいいっぱいだった。そんな中、リコは案外ケロッとしていた。リコ自身は事件を解決することがメインであり、身体を取り戻すことは目的ではなかったからだ。リコは「なんでこの人、死んでる他人にこんだけ泣けるんだろう?」と不思議に思ったが、特に声をかけずにいた。

 しばらくするとマコトは立ち上がり、「帰ろ、リコさん。」と言った。リコは頷き、2人は帰路に着いた。家に帰って直ぐに休みたい。そんなマコトの思いは、家に帰りついた瞬間に打ち砕かれることになる。


 家の前には、黒いビニール袋が置かれていた。

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女子高生バラバラ殺人事件(仮) @new02saddle25

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