第6話  彼氏、懲戒免職

楓はその日のうちに校長に連絡し、一連のことを事細かに報告し、今日、明日は自分が菜月の面倒を見ることを伝えた。

電話の向こう、校長がゆっくりとうなだれていく様子がリアルに伝わってきた。

当たり前だ。本校の教諭が保護者と不倫をしていたのである。校長の監督責任も追及されるに違いない。

「月曜日、児童相談所に連絡します。教育委員会等への連絡、よろしくお願いいたします。」

「あぁ。」

ため息とともに校長は電話を切った。


 月曜日、朝一で楓は児童相談所に連絡し、児童養護施設を紹介してもらった。そして放課後、養護施設・蛍鐘園の職員が学校を訪れ、菜月を引き渡した。

「よろしくお願いします。彼女が早く半袖が着られるよう、私も担任として懸命に菜月を支えます。」

「分かりました。私らも懸命に彼女を育てていきます。」

施設の職員には事前に、菜月にはリストカットの癖があることを伝えていた。別の職員が菜月の母親に連絡をとったが、やはり電話には出てもらえず、今、自宅の方に向かってもらっているという。既に職員の車に乗り込んでいる菜月には、まだ伝えていないという。

「母親のことも大事ですが、彼女の心と体も大事ですから、親のことは彼女が落ち着いてから伝えますわ。」

そう言うと職員は車に乗り込み、菜月を施設に連れて行った。


・・・大丈夫、半袖が着れるようになるから。


 職員室に戻ると、右隣の席に座っている山本が、夕刊の三面記事を突き付けてきた。

「これで神楽中学校も終わりやわ。」

紙面には、神楽中学校の教諭、森下拓真の名前と共に学校の写真がでかでかと写っている。昨年の秋頃から生徒の不登校のことで家庭訪問を重ねていくうちに、母親に対して好意を持つようになり、いつしか男女の関係になってしまったようだと記事には綴られていた。

「これで森下君は懲戒免職やね。校長さんもこりゃ、減給処分ありそうやね。」

 今夜のニュースでも放送されるだろうし、この手の話題は、ワイドショーも面白がって頻繁に取り上げるに違いない。しばらくは落ち着かない日々が続きそうだ。

「ほら早速電話もかかって来とる。あれは保護者からやぞ。しばらく騒がしいわ。」

山本の声にうなづきながら、ふと楓は、森下の机上を見つめた。書類が山積みになっている上に、まだミッフィーがちょこんと座っている。

・・・もう、待ち合わせできないんだよ。

楓は手を伸ばし、ミッフィーをつかんだ。

ミッフィーの×模様になっている口元が何か言いたげに見えて、思わず指で強くつまんだ。           



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