いつか君にあの花を

「#適当なタイトルをもらうとそれっぽい小説の書出しが返ってくる」で頂いた題名②


 ──


 拝啓、君へ。

 こうして手紙を書くのにも、もう慣れてきたよ。最初は書きたいことがまとまらなくて、さぞかし読みづらい文章だっただろう。……いや、それは今もかもしれないな。……笑ってるか? そこ。仕方無いだろう。君に会うまで、私は活字を読むだけで寝てしまっていたんだから。

 今は人に手紙を書くまでに成長したんだから、褒めてほしいくらいだ。

 いや、話がズレたな。言いたいことはそれじゃないんだ。

 覚えているか? 君はいつしか、花の種を植えたよな? 「この花は、十年かけてようやく綺麗な花が咲くらしいの。楽しみだね」とか言っていたはずだ。でも、飽き性な私と君のことだ。花を見る前に、すぐ枯らしてしまうだろう、と私は高を括っていた。

 それでも君は、珍しく大事に花を育てたね。だから私も覚えたよ。どの時間帯に、どのくらいの水をやるのか。君がその花に、どんな言葉をかけたのか。私に対する愚痴を言っていた日もあったね。その日は不思議と、花が君に寄り添っていた気がして、たまらず僕は生活態度を改善してしまった。決して、君を花に取られてしまう、なんて考えたわけじゃ無いぞ? ああ、決してな。

 ……君がいなくなってから、この花はとても寂しそうだよ。決して私とこの花は、君みたいに友達ではないけど、ライバルとして心配だった。……笑わないでほしい。これでも真剣に話している。

 とにかく、君がいなくなってから、この花は少しずつ元気をなくしている。君のように水をやって、言葉もかけている。でも私は君の様にはなれないから。やはり花は寂しそうだ。

 それでも必死に葉を、根を、茎を伸ばして生きて、ついに花を咲かせそうだよ。

 だから私は、今から私は、君の所へこの花を持っていく。どうしてかな、そうしたら君は目を覚ましそうな気がするんだ。この花と共に、素敵な笑顔を再び僕に咲かせてくれるような気がするんだ。

 ……もう一度言おう。私は真面目に話している。

 この予感が当たるかは、分からない。事故で植物状態になって、お医者さんは目覚める可能性は著しく低いと言っていた。その言葉の通り、奇跡なんて起こらないかもしれない。それでもやはり、奇跡は起こるかもしれない。

 ……前置きはもういいだろう。

 私の言いたいことは、初めからただ一つだ。


 私はどれだけ時間がかかろうと、いつか君にあの花を見せるよ。

 その時はきっと、君の笑顔を見せてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る