ことのは、いちまい【短編集】

秋野凛花

僕とあなたと午後3時

「#適当なタイトルをもらうとそれっぽい小説の書出しが返ってくる」で頂いた題名①


 ──


 何か甘いものが食べたいね。

 あなたが突然そんなことを言うから、僕はとても驚いてしまった。だってあなたは、甘いものを好むような性格ではなかったし。コーヒーはいつもブラック。初デートの日にそのことを知らずに「ケーキバイキング」に行きたい、なんて言ってしまったことを思い出す。あなたは、苦い顔をしながら甘いものを食べてくれた。それであなたの魅力に本当に落ちてしまったのは……また別の話だけれど。

 何か作ろうか。僕がそう言うと、お願いしてもいいかな? と返って来た。よっぽど食べたいらしい。不思議に思いつつも、僕は甘い物作りに勤しむことにした。

 まず、ホットケーキを作ることにした。ホットケーキは、ホットケーキミックスを使えば簡単に作ることが出来る。しかも一度に大量に作れて、お腹にもたまる。罪な食べ物だ。

 じゅうじゅうと鳴る音に、あっという間にお腹が減ってくる。片面が焼き上がったら、ひっくり返して。ひっくり返すタイミングは、生地にぷつぷつと泡が出来たらだ。

 軽く三枚は焼けた。おやつにしては焼き過ぎただろうか。そう思いながら僕はキッチンを出る。しかし元の場所に、あなたは居なかった。

 不思議に思っていると、ベランダに出る窓が開いているのが見えた。ふわふわのホットケーキが乗ったお皿を持ちながら、僕はそこからベランダに出る。

 ──するとそこには、お洒落な丸いテーブル。お洒落な二つのカップ。暖かな日差し。……微笑むあなたの姿。

 作ってくれてありがとう。あなたがそう言って、カップに何かを注ぐ。引き寄せられるように席に着くと、そのカップからは湯気と芳醇な香りが立ち昇る。とても美味しそうな、紅茶。

 この前テレビで、こういったティータイムに憧れてるって、言ってたよね? だから、出来る限りで再現してみたんだ。あなたが、どこか照れくさそうにそう言う。どうかな、と首を傾げるあなたに、僕は笑いながら告げるの。

 最高、ありがとう。

 そうだった、あなたはこういう人。僕のために、僕が考えてもみなかった、とっても驚いて嬉しくなっちゃうようなことをしてくれるの。

 冷めないうちにいただこう、と、二人で手を合わせて。

 いただきます。

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