前に進みたい(下)

キレたり、感傷にひたったりと、情緒が不安定ながら続いた尾行もそろそろ終わりそうだ。

俺と飛騨の帰り道は遠くの方に見える歩道橋でわかれることになる。

それにしても琴乃はとんでもないやつに惚れてしまったな。

ああいう部分は女子にとってどうなんだろう?

まあ、イケメンなら何でもいいか。

イケメンは何やっても許されるからな。くそが。

まあよかったよ。性格に裏表なく優しそうな人間で。

でもなー、そういう奴に限って優柔不断でなよなよしてるんだよな。

こういう人助けしてて遅刻したらそれのせいにして責任転嫁するタイプ。

そんな奴に負けたとしたら、ありえねえ。

あとは俺が本人に接触してみてだな。

なんて考えていると、飛騨はそろそろ歩道橋の階段を上がっていた。

俺はその歩道橋を使わないのでここでお別れだ。

バイバイ飛騨君!まっった来週!

なんて思いながら飛騨を見送った。

さて俺も帰りますかと歩道橋の横を通り過ぎようとした瞬間

ドカドカドカ

階段から落ちる音がした。

何事かと思い階段の方に戻ると先ほど階段を上がっていったイケメンを下敷きにどこかで見た赤いランドセルの女子が倒れていた。



「オイ、大丈夫か!」

俺はその少女と飛騨に駆け寄り声をかけた。

「あ、ああ、大丈夫。それよりこの子を。」

頭を打ったか、頭から血が出ていた。大丈夫じゃねえじゃん。

少女には返事がなかった。しかし飛騨が下敷きになったおかげか目立った外傷はなかった。

軽い脳震盪だろう。

とりあえず少女を仰向けに寝かせ、飛騨は頭を打っていたので近くにあった電柱に寄りかからせた。

その時

「な、なつ!だ、大丈夫か!」

と階段から先ほど羨んだ少年が駆け寄ってきた。

俺はその少年に言った。

「少年、君この子の親御さんの連絡先は知ってるか?」

「わ、わかんない。ど、どうしようおれのせいでな、なつが」

「大丈夫。このお兄さんが下敷きになってくれたおかげで目立った外傷はない。ちょっとした脳震盪だ。それより少年この子の家は分かるか?」

「う、うん。わかる」

俺はペンと紙を取り出し俺の携帯番号と名前を書いた。

「これから俺らは救急車を呼んで病院へ行くから、少年、君にはこの紙をこの子の家の人に届けてほしい。もしいなければ、君の親御さんでもいい。とりあえず君か彼女の周りにいる大人に渡して今の状況を説明し電話をかけてくれと伝えてくれ。」

「わ、わかった。」

とやりとりを交わし少年を走らせた。

その後、俺は百十九番をかけやりとりし救急車を手配した。

その後飛騨に声をかけ

「あと十分もすれば救急車がくる。」

「あ、ああ。ありがとう。この子は大丈夫かい。」

「ああ。君が下敷きになっているおかげで目立った外傷はない。」

「そうか。よかった。」

「それより君の方がまずいんだぞ。このティッシュで血抑えとけ。」

「ああ、ありがとう。」

「で、なんでこんなことになったんだ?」

「さっきの少年がこの子を引っ張りながら階段を駆けていたんだ。そしたら少年が階段につまずいた拍子にこの子の手を放してしまってね。なんとか受け止めようと思ったんだけどうまくいかず、今の状況だよ。」

「なるほど。頭以外に痛むところは?」

「背中と腰かな。」

「分かった。まあしゃべるのもつらいだろうからそのままの姿勢で休んでろ。」

とやりとりしていると俺のポケットが揺れた。

揺れたものを取り出し画面を見ると知らない電話番号が映っていた。どうやらあの少年は、無事に俺の電話番号を届けられたようだ。

電話の主は少女の母親だった。

俺は現状の説明、少女の状態を伝え、病院についたらこちらから電話をかけることを伝え電話を終えた。

その後救急車がやってきたので、消防士に俺は飛騨と少女の様態を伝え救急車に付き添いとして乗り込み病院へ向かった。


病院についた俺は少女の母親に連絡し病院に来てもらうように手配した。

その後飛騨と少女のけがの経緯など一通り尋問を終えた俺は一息ついていた。

はーそれにして疲れた。

こんなことになるとは思はなかった。

塾の時間も間に合うかどうかギリギリだな。

でも俺もいい経験になった。

なんて考えながらしばらくボーっとしていると飛騨が診断を終え診療室から出てきた。

「飛騨、大丈夫か?」

「ああ、おかげさまで。色々ありがとう織田くん。」

「あれ、俺の名前言ったっけ?」

「同じクラスだからね。もちろん知ってるさ。それに学年一位の名前を知らないわけないじゃないか。逆にどうして僕の名前を知っているのか知りたいよ。」

「まあ、君も有名人ってことだよ。でケガの方はどうだったんだ?」

「頭の傷は二針くらい縫ったよ。腰と背中は打身程度で済んだ。あんまり階段を上ってなかったのが良かったみたい。」

「そうか。」

「それにしても素晴らしい手際だったね。消防士の人も病院の人々も褒めてたよ。」

「別に褒められるようなことは何もしてねーよ。飛騨の方こそ立派じゃないのか?体張って少女を助けたんだから。」

「別にそんなことないさ。自分のためにやったことだから。」

「は・・・どういうこと?」

「行いの良いことをすればいつかそれが巡り巡って自分に帰ってくるって昔おばあちゃんに教えられていてね。別にその教えに根拠も何もないし実際自分に帰ってきてるかと言われれば素直にうなずくことはできないけど、おばあちゃんの教え一つまともに実践できないような男にはなりたくないからね。まあただカッコつけたいだけだよ。」

「・・・・・」

「え、なんでそんなキョトンとした顔してるの?」

俺はびっくりした。

アホだ、こいつ。

カッコつけたいがために自分の身を挺すなんて。

これで今までの言動もただカッコつけたいだけ。

アホだ。アホすぎる。

俺はだんだん笑いが込み上げてきた。

「ハッハハハハハハお前アホだろ。カッコつけるために自分ケガしたら世話ねえだろ。」

「でも君も同じタイプだろう?見ず知らず僕とあの子のためにここまでお世話してくれる人なかなかいないよ。」

「一緒にすんなよ。ハハハハハはーおなか痛い。まあこれから二年間よろしく頼む。」

「ああよろしく。」

とこんな会話をしていると、

「なつのかあちゃんあのひとたち!なつたすけてくれたの。おーい!」

と少年の声が聞こえた。

「おお、少年。ありがとう。俺の頼み事聞いてくれて。」

「この度は娘を助けてくださりありがとうございます。」

母親が頭を下げてきた。

「いえ俺は何もしてないですから。お礼なら身を挺して守ったこっちに。」

「この度は本当にありがとうございました。何とお礼をすればいいのやら。」

飛騨にも頭を下げた。

「いえ、当然のことをしたまでですし、僕らに頭を下げるよりも先に娘さんのそばについていて上げてください。」

「すいません。またお礼はさせていただきます。本当にこの度はありがとうございます。」

そう言い残し少女のもとへ小走りで向かっていった。

しかし、

「オイ、少年は行かなくていいのか?」

「おれのせいでこんなことになっちゃったのにどんなかおしてあえばいいかわからなくて・・・」

「それにごめんね。おにいちゃん。おれのせいでケガさせちゃって。」

少年は泣いていた。

すると飛騨は

「気にしなくていいから。でもこれからは手をつないで階段を駆けたりしちゃだめだぞ。」

「ホントにごめんね。おにいちゃん。」

「もういいから。そんな泣くと顔くしゃくしゃになっちゃうぞ。」

少年は顔を拭きながら今度はこちらを見て

「もうひとりのおにいちゃんもありがとう。」

「なに、大したことはしてない。それに少年が手伝ってくれたおかげこっちもかなり楽になった。こっちもありがとうだよ、少年。それとあの少女の前では泣いてる姿見せちゃだめだぞ。カッコ悪いところみせたくない子なんだろ。」

それを言うと少年の耳は赤くなった。

「なんでわかるの。」

「・・・わかるよ。ほら早くいけ。ちゃんと謝るんだぞ。」

「わかった。ほんとにありがとうおにいちゃんたち。」

少年は少女の基へ駆け出した。

その背を見た俺は、

「少年。」

と呼び止めた。

「なに?」

と少年は振り返った。

「・・・掴んだ手は離さないようにな。」

なぜか俺は両手を強く握っていた。

「うん!」

少年は答え走り出した。

やはり思い出すのは二人の手を掴んでいたあの頃だ。今はもう無い、取り返すこともできないあの頃だ。

彼にはそうなってほしくは無い。

と俺は祈った。

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幼馴染が恋をしたので背中を押そうと思う。 @suzu05

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