第25話:俺たちの結婚式

 翌日。ついにこの百周年祭の当日。

 ここでアレクシア様に捧げる成果が出なければ……と昨日の夜から何度も吐いて。

 家を出る前にザフラのお腹にすんすんしまくってなんとか正気を保ち。

 全く何も頭に入ってこない舞台を眺めながら、俺は族長の隣りに座っていた。


「結構面白いな」


「でしょう?」


 彼が割りと楽しそうに声を漏らすと、反対側のアレクシア様は勝ち誇ったような魔力を流す。

 やがてとんとんと膝を叩かれ、舞台の係員が俺を呼んだ。

 あ、もう俺の出番なんですね。


「ではエルノ族長。私も出番がございまして、一旦失礼を致します」


「お前も出るのか。さすが蛇女、人使いが荒いなぁ」


「耳長豚ほどでは。アルバート殿。いってらっしゃいませ」


 ジェフとアンナの作り上げた舞台を見ている間中、最強同士の魔力を浴びて完全に酔った。

 魔法抵抗薬を倍量で飲んだのに、この人たちおかしい。なんて頭痛をこらえ、ついに俺の出番が目前に迫る。


「……膝、笑ってるわよ」


「お前だって毛が逆立ってるぞ」


 気分が悪すぎて緊張を少しだけ忘れていた俺だったが、ザフラに指摘されて一気に震えが来た。

 しかしそれは彼女も同じようで、せっかく梳いた毛がぶわっと逆立っている。


「緊張してる暇ないですよぉ! もうすぐ出番ですぅ!」


 そんな俺達の背中を、ここまで一番緊張してきた部下が強く叩くと。

 ついついザフラと顔を見合わせて、かっこ悪いところは見せられないと勇気が湧いてきた。


「汝、新郎アルバート。汝、新婦ザフラ。貴方達二人は、健やかなるときも病めるときも……」


 とはいえ二人してカチカチのまま歩いて、神父様の前に立つ。

 ザフラの長いヴェールを、何故か父親役で参戦していたカンバール大臣が号泣しながら優しく運んでいた。

 読み上げられる祝詞を聞き、ザフラとの思い出が走馬灯のように流れていって。


「互いの愛を、死が分かつまで。永遠に保ち続けることを誓いますか?」


「誓います」


 彼女ははっきりと。俺は涙声で。

 永遠の愛を誓いあった。


「それでは、人間のしきたりより。我らが皇帝、永遠龍ウロボロスの名のもとに指輪の交換を」


 シスターの姿をしたヒルダさんが跪き、小箱を開ける。この人いっつもコスプレだな。

 中身は当然、彼女に無理言って注文して貰った金の指輪。

 皇帝陛下のお姿を模して細部まで美しく彫られ、裏側には俺とザフラの名前が彫られた見事な指輪。確か給料半年分。


(リハと違うわよ、この指輪)


 それを見た彼女が、大きく目を見開いて。

 震える左手を差し出し、俺はその大きな手を取った。


(本物だよ)


(アル……!)


 彼女の指に愛を捧げ、指輪を通す。

 その手を自然にスポットライトに向け、本当に嬉しそうにキラキラと輝かせた彼女。

 ただ、途中で台本とは違うと我に返ったらしく、慌てて俺の指にもう一つの指輪を付けてくれた。


「続けて、獣人のしきたりより。レオニダスの神々の前で誓いの口吻を」


「ねぇ。愛してる!」


「俺も!」


 なんか少し俺も台詞あったけど、全部飛んだし誤魔化そう。

 互いに指輪を付けあった腕を回して、彼女を抱きしめて。

 思い切りキスすると、待ってましたとばかりに参列者のエルフ達が祝福の歌を歌い、タルヴォさんの魔法で花びらが舞い踊り、光と花に彩られた幻想的なアーチを作る。

 国土交通省の職員たちも、口々におめでとうと叫ぶ中。

 俺たちはその中央を歩いて、アレクシア様とエルノ族長の前まで行き、揃って深く一礼をした。

 

「ご結婚、おめでとうございますわ。役者なら、こうも自然な式とは行かなかったでしょう」


 皇女殿下は穏やかな後光を放ち、俺たちに向かって拍手を送る。

 すると、なんか白けて見ていたらしい族長が、勢いよく殿下の方を向いた。


「ん!? 蛇女。随分大根役者だと思ったが……これ本物なのか?」


「当たり前でしょう耳長豚。皇帝陛下おとうさまのお名前、演劇になど使わせませんのよ」


「おいおい先に教えろよ。ご祝儀何も持ってきてないぞ」


 やっぱり、エルフってこういうの好きなんだなぁ。

 なんて思っている俺の前で、アレクシア様がすっと席を立ち。


「では耳長豚。祝いの代わりに、ダンスを一緒に。踊れますわよね?」


 永遠の好敵手として、どこか奇妙な友情を手に差し出し。


「舐めんなよ、蛇女」


 エルノ族長は、それを受けて立った。

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