Section6. 過去の因縁
Chapter25. ブローカー
5月。移民騒動の時とは別の問題が、会社を巻き込むことになる。
面会にやってきたのは、厳めしい表情と、筋肉質な大柄なガタイを持つ、いかにも「その筋の人」に見えるが、かっちりとしたスーツを着た、格闘家のようにも見える大男だった。
名刺を見ると、
「公安調査庁
と書いてあった。
蠣崎にとっては、厄介な相手に見えた。
何故なら、公安調査庁とは通称「秘密警察」と言われるくらい、裏の道に精通している。
彼らは、主に国内諸団体・国際テロ組織に対する情報の収集・分析を行うことでも知られている。
アメリカのCIAほどの権限は持っていないが、数少ない日本の情報組織の一つで、一般には「関わりたくない」相手だ。
「それで、ご用件は?」
小山田にお茶を用意させながら、ソファーから様子を伺う。
その場に同席していたのは、筋トレマニアのセルゲイを除く、小山田、シャンユエ、バンダリ、エスコバー、そしてJKだった。
「はい」
いちいち、姿勢が変わらないどころか、眉一つ動かさず、表情に一切の感情がないロボットのように見えるこの男が不気味に思えた。
「外国人ブローカーと、外国人労働者の対立です」
(またか)
正直、蠣崎はうんざりする。何しろついこの間、中国人労働者と日本人の争いに介入したばかりだ。
また、この面倒なやり取りが続くか、と思うとさすがに「気が萎える」気がした、つまり「やる気は出ない」と。
しかし、どうやら話を聞くと事情は少し違うらしい。
「日本は、現在、公には『移民』を受け入れていない、と言われています。しかし、実際にはアジア系の移民が多数、入り込んでいる移民社会になっています」
「それはわかりますが」
「そこでその移民を、現地から斡旋して、日本で働かせるのがいわゆるブローカーです」
「ええ」
それは蠣崎も知っている。ただ、問題は彼らの「内実」にあった。
「ところが、彼らブローカーは斡旋するだけで、金になるから、相当あくどいことをやって、現地から移民を無理矢理引っ張り込んできて、大金を稼いでいるのです」
「なるほど」
蠣崎にも見えてきた。
確かにこれは昔から言われてきた「日本の暗部」で、何かと「臭い物に蓋をする」ことが好きな日本社会は、表向きは「移民などいない」と触れ回るくせに、実際には「安価な労働者をアジア諸国から連れてきて」、搾取してきたのだ。
日本特有の「ブラック企業」体質が、その行為を助長したため、日本に来る移民の間では、不満が高まっていた。
しかも、その問題を何十年も放置してきたのが、日本社会だ。
絹田は、懐から一枚の写真を撮り出して、テーブルの上に置いた。
見ると、麦わら帽子をかぶった、褐色の肌の男で、一見すると東南アジア系の男に見えた。だが、顔立ちは平べったい。
「この男が、近頃、ネパールから移民を連れてくるのですが、すでにネパール人の間では、相当不満が高まっている様子で、この男を殺せ、と息巻いています」
ネパールと聞いて、バンダリの顔色が変わる。彼は身を乗り出すようにして、その写真を見つめて、いや睨んでいた。
「日本人ですか?」
「はい。名前は、
「公安なら、普通に逮捕すればいいんじゃないですか?」
それが当然の意見だから、蠣崎は探りを入れるように問いかけるが、彼はわずかに眉間に皺を寄せて、続けた。
ちなみに、蠣崎は勘違いしていたが、実は公安調査庁に、逮捕権限はない。
「そうしたいのは山々ですが、問題がありまして」
「何ですか?」
「証拠がないのと、奴の背後には強力な組織でもいるのか。かなりの数の銃器を持っているようでして」
なるほど。ようやく合点がいった蠣崎。
単刀直入に解くと、早い話が、「荒事」になるから、公安調査庁だけだと手に負えない、ということだった。
面倒なことだが、こういうのは「PMSC向き」の案件と言える。
蠣崎は、了承した旨を伝え、詳しい条件や金銭面でのやり取りを続けた。
そして、すべてが終わった後、バンダリだけをこっそりと社長室に呼んだ。他の連中は一切近づけずに、彼はバンダリにある「指令」を下したのだった。
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