Chapter11. 裏で蠢く者たちの影

 事件は解決し、報酬も得た。


 この事件は、これで一件落着。かに思えたが。


 やがて、救急車とパトカーが来て、警察官の救護活動と、事後処理が行われ、同時に彼らは事情聴取を受けることになる。


 もちろん、警察官公認の「PMSC」の彼らに咎はなく、正当防衛の線で固まるが。


 フロントガラスが傷ついたままの状態で、深夜の首都高を走り、会社に向かう途中。

 蠣崎は、先程のセルゲイの言葉が気になっていた。


 同時に、彼自身も同じようなことを考えていた。

「この事件。裏があるぞ」

 おもむろに口を開くと、助手席にいた関水が反応する。


「裏とは何ですか?」

「考えてもみろ。ただの半グレ連中に、M2は高価すぎるし、チンピラには過ぎた武器だ。あれの値段知ってるか?」


 首を振る関水に、蠣崎は自衛隊時代から知っている知識を披露する。

「物にもよるが、M2が1基で大体、530万円から580万円はする」

「そんなにするんですか?」


「ああ。ただの半グレ連中が持つ武器じゃない。そうだな、セルゲイ?」

「да」

 相変わらず、無口な彼は、ロシア語で肯定の言葉を述べるのみだったが、蠣崎はもちろん、事件の「裏」を探ろうと考えを巡らす。


「つまり、社長は、あいつらを裏で動かしてる奴らがいる、と?」

「そういうことだ。しかも、連中、現金輸送車ではなく、真っ先にこっちを狙ってきた。情報が洩れている可能性もある」


「誰ですか?」

「それはわからん」

 シャンユエが、先程までの鬼気迫るような殺戮から一変して、楽しそうに笑みを浮かべて尋ねていた。


「ただ、俺の予想では、裏にはその道のプロか、国際的なテロリストが関わってると踏んでいる」

「その道のプロって、つまり極道ヤクザですか?」


「ああ」

 肯定の言葉を発する蠣崎に対しても、関水は冷静かつ、言葉を選ぶように返してきた。


「そんな。いくら日本の治安が悪くなったと言っても、ヤクザが簡単にマシンガンなんて、手に入れられるわけないじゃないですか?」

「だからこそ、だ。裏で手引きしてる奴がいる」


「だとしたら、恐ろしいですね。平和な日本はどこに行ったんでしょうね」

 感慨深く、呟く関水に対し、意外な一言を発したのが、「狂った」性癖を持つ、中国人だった。


「今年は、2045年。これが何を意味するか、わかる?」

 彼女は、蠣崎ではなく、関水に聞いていた。


「わかりませんけど」

 不服そうに言葉を濁す彼女に、日本人ではないが、「日本史」に詳しいシャンユエは、背筋が凍りつくような、笑みを浮かべて答えていた。


「太平洋戦争の終戦から100年」

「あっ」


 どうやら、言われて初めて気づいたらしい、関水が声を詰まらせた。


 もっとも、蠣崎自身は、そのことにもちろん、気づいていた。


(終戦から100年。この国で、何かが動き出している)

 彼自身、この終戦から100年の節目を狙って、会社を立ち上げた経緯があるし、同時に100年近くも「平和」を謳歌してきた、この国だ。


 そろそろ「恒久的な平和」を信じる国民に、「鉄槌」という名の衝撃を与え、再び国民を「戦い」に巻き込もうとする。


 そんなことを考える連中が現れても、不思議ではないと思っていた。


 「平和な日本」など、もはや幻想に過ぎない、近未来の日本。裏でうごめく男たちは、確実に存在していると思われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る