時空超常奇譚其ノ五. 蟻と螽斯/運命の境界線

銀河自衛隊《ヒロカワマモル》

時空超常奇譚 其ノ五. 蟻と螽斯/運命の境界線

あり螽斯きりぎりす/運命の境界線


 地球温暖化とは、太陽から放射されたエネルギーが地球表面に届き反射した後、大気圏中の二酸化炭素やメタン、フロンなどの温室効果ガスに吸収されて大気圏中に滞留する事で、地球の気温が極端に上昇する現象を言う。

 その結果として、酷暑や台風、ハリケーンの増加等の異常気象、海面水位の上昇、極地の氷床減少、洪水や旱魃、熱帯雨林の砂漠化が進行する。更には、それらを要因として食糧問題や生物種の絶滅に至る環境変化を引き起こし、遂に人類は滅亡するとまで言われている。

 二酸化炭素を主成分とする大気による温室効果によって地表気温が400℃を超える 金星には、数十億年前まで海洋があったとも言われている。 


 地球の気温上昇は20世紀後半から特に顕著となっているが、その主な原因は人類の産業活動から排出された温室効果ガスとされており、国連のIPCC第4次報告では「地球温暖化の原因は、9割以上の確率で人為的温室効果ガスである。温室効果ガスとしては、二酸化炭素の影響が特に大きい」としている。

 但し、二酸化炭素の増加と地球の気温上昇との直接的関係を根拠を以て確定させる事は非常に難しいとも言われ、地球温暖化否定論も数多く存在する。

 2017年6月、アメリカは地球温暖化対策に関する国際的な枠組であるパリ協定からの離脱を表明し、2020年11月に正式離脱した。その後2021年2月に再加盟。

 2023年7月、国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」と述べ、各国政府関係者に更なる気候変動対策を求めている。

 同年8月最終日の31日も朝から気温が高く、東京は8時台には30℃に到達し過去最多記録の31日連続の真夏日となった。


 このところ、朝昼夜を問わず全国ネットのTVから否応なく耳に残るCMが繰り返し流されている。

未来創生教会NEAがアナタに贈る世界創生マンションプロジェクト、ガーデンシティ海浜公園。未来はアナタの手の中にある。by National Earth Associations」

 透けたレースの白いドレスを身に纏った半裸で胸もあらわな女性達が踊りながら絡み合い、妖艶な声で語り掛けている。

 そのCMは、目にした大勢を占める人々に違和感を与えると同時に、「ある考え」を持つ一部の人々の心を強く掴んでいた。ネットには様々な書き込みが踊っている。

「あんなCMは即刻やめるべきだ、子供の教育に悪い」「お姉さんがイロっぽい」

「近年にない最悪なCMだ。このCMを止めさせる署名活動をしよう」

「いや、署名なんかやってる場合じゃない」

「どうやら京大の相楽教授が決断したらしいぞ」

「それは本当なのか?」

「いよいよだな」「急がなあかん」

「仕事なんぞやってる場合やないで」

「果して買えるのか」

「買うのはかなりキツいだろう」

「オレは絶対買うぞ、何がなんでも買う」


 刺すように照りつける夏の日差しの下、海風が頬を優しく撫でる海浜公園沿いに、天空を突かんばかりの地上50階建タワーマンション550戸の建築工事がスタートした。工事現場には忙しそうに動く職人達の姿が見える。

 その建設工事現場に面した国道の反対側に、もう一つの風変りな建設現場があった。タワーマンション工事より2年早く着工したその現場では、数十台の掘削機械が休みなく動いてはいるが、一向に建物工事に着手する気配はなく広大な敷地には巨大な穴が拡大していくだけだった。

 その奇妙な建築現場の責任者である所長釜本修司と監督中嶋サトルは、工事の進捗状況を見ながらが気の抜けた声で呟いた。

「釜本所長、道路向こうのあのタワーマンションがやっと着工みたいですねぇ」

「あぁ、そうだな。随分住民の反対運動が激しかったけど、ようやく何とか落ち着いたみたいだな」

「昨日もオバハン連中が飽きもせんとデカい声で「建設反対」て叫んでましたけど、前と比べたら大した事ないですね」

「あぁ、そうだな」

「俺等も早ぅ建物着工したいですね、もう穴堀るの飽きましたわ。穴掘って土留め、穴掘って土留めの繰り返しやから」

「まぁ、そう言うなって」

「けどエエんですかねぇ、こんな妙チクリンなモン造って」

「いいんじゃないか、多分」

「ホンマにそぅなんやろか」

 中嶋は首を捻り、アイスキャンディーを頬張りながら釜本に愚痴っぽく言った。言われた釜本が諭すような口調で返す。

「そんな事言っても仕方ないさ。俺だって、いや誰だってこんなもの造った事ないだろうからな、良いとか悪いとか考えても仕方がない」

「まぁ、それはそうやと思いまっけど……」

「大丈夫。俺はマンション一筋30年、北海道でも東京でも、名古屋、大阪、福岡、沖縄でもマンションを造ってきた。コストさえ掛ければこの世の中に造れないものなんてないよ、施工図面があれば出来ない事なんかないさ。施主からは、追加工事は全てOKと言われているしな」

 東証一部に上場され世間ではスーパーゼネコン、超一流と呼ばれる建設会社に持ち込まれる事案は、ビルやマンションの民間工事、橋梁その他の公共インフラ工事だけでなく、奇抜な宗教団体の会館や一見しただけでは何だかわからないようなものまで、実に様々なものがある。

 ある日持ち込まれたその計画も相当に変わったものだった。マンションと聞かされていたにもかかわらず、建築基準法を完全に無視し敷地限界まで全て建物とする計画で、タワー型でも板状でもない。敷地ギリギリに縦約100メートル、横約500メートル、高さ約20メートルの穴を掘り、その中にミルフィーユ状に積み上げられた五層建物を造るのだが、建物にはエントランスや窓どころか一切の開口部はなく、出入り口は屋上部分に一箇所あるのみ。エレベーターも駐車場も自転車置場さえなく、あるのは建物の中にある緑地公園だけだった。そもそも、こんなものが建築基準法をどうやってクリア出来るのだろうか。

 工事現場を仕切る予定の釜本と中嶋は、その奇妙な施工図面を前に、何か割り切れないものを感じた。しかも、持ち込まれた時から内容に関係なく既に受注する事は決まっていたらしい。

 事前の打ち合わせには二人で何度となく参加した。設計打ち合わせで熱弁をふるう若い設計者に「何だか随分力が入っているな」と感じ、会議に配布された資料には「奇妙な建物だな」と内心思いながらも、施主がアメリカに本部を置く宗教法人だと説明されて「きっとそのせいに違いないな」などと勝手に解釈したりもした。その後、二人はその計画の実施設計が完了し建築確認が認可されたと聞いて驚いた。そして、まさかそのままの形で施工図面が現場に送られて来るとは流石に思ってもいなかった。

「所長、どないします?」

「どうするって言われてもなぁ、やるしかないだろ」

 施工図面と全体工程からすると、まず必要なのは現場で巨大な穴を掘る事だった。着工して以来、来る日も来る日も只管穴を掘り、土を留めるアンカーを打ち込んでいる。それ以外にやる事がない。

「何やらモグラになって穴掘ってるみたいや、これはモグラプロジェクトやな」

 中嶋はそう言って笑った。図面を見れば見る程にこの奇妙な建物、この計画は不思議に思えてくる。いや建物と呼べるのかどうかも良くわからない、こんなものは見た事も聞いた事もない。

 掘り進めるモグラの穴は道路反対側50階建タワーマンション工事敷地の三倍にも及ぶ大きさで、その穴を掘り終えて地中に建物を建築する。更に計画地の隣には同じような二つの別の工事が繋がる事になっていおり、最終的にはモグラプロジェクト及び全ての建物を含めた計画施設は地中に埋め立てられ、地上はコンクリートで覆われた上で広大な緑の公園になる予定となっている。

 計画自体が常識ではとても計り知れないのだが、建設後に再び地上を公園に戻す計画であるとは言え、そもそも公有地であった海浜公園の一部が売却される事など常識ではあり得ない。


 いきなり道路反対側タワーマンションの工事現場前から住民の叫び声が聞こえて来た。下火になったと思われた反対近隣住民達のシュプレヒコールが祭りの神輿のように周辺に木霊こだましている。

「50階建タワーマンションの建設反対」「絶対反対」「反対」「反対」「反対」

「タワーマンション建設絶対反対」「マンション建設、絶対絶対に反対」「反対」

「我々の生存権を奪う50階建タワーマンションなんぞ建てたら、地獄に堕ちるぞ」

「我々の日照権を奪う50階建タワーマションは、向かいの海浜公園マンションを見習って5階建にしろ」「そうやぞ、末代まで呪ったるからな」

 50階建タワーマンションは、いつ終わるとも知れない程に住民運動の集中砲火を浴びている。タワーマンションの計画地に隣接する住民達がヒステリックに叫び捲る声が周辺に響き渡っている。

 その一方で、モグラプロジェクトである向かいの海浜公園マンションには、不思議にも住民反対運動が起こる気配もない。計画建物を地中化する事や最終形を新公園にする事がその理由なのかどうかは不明だ。

 住民に罵倒され続けるタワーマンションを施工するゼネコンの下請け業者達は、「見習え言われてもな、無理やんか」「何で俺等ばっか言われんねん」「そんなん俺等のせいやないやん」と愚痴を零し、悔し紛れにモグラプロジェクトを「あんなん『棺桶マンション』や」と揶揄した。

 それを耳にした釜本と中嶋は、特に腹を立てる事もなく「あいつ等、上手い事言いよんな」「棺桶とは言い得て妙だ」と笑い合った。


 建設工事は進み、50階建タワーマンションと棺桶マンションと陰口を叩かれている「NEAガーデンシティ海浜公園」のマンション販売が同時期に始まった。道路の向こう側、50階建タワーマンション販売センターに長蛇の列が続いている。

 モデルルームに翻る紅白ののぼりを見ながら鼻息の荒い中嶋が釜本に言った。

「所長知ってまっか?隣のあのタワーマンション、やたら人が来とる割には売れ行きが今一つで、初月販売率が4割で200戸くらいしか売れてへんらしいすよ。2LDK60㎡台中心で平均価格が1億円、坪単価550万円は幾ら何でも高過ぎますわ。そんなん売れる訳ないですよ」

「まぁそうだが、見方を変えれば200戸も売れたって事だぞ」

「あっそうや、金持ちなんて幾らでもいるって事なんやなぁ」

「そういう事だな」

「そう言えば忘れてました。何でも200戸の戸の内、1億5000万円の最上階の部屋がが最初に売れて、その他に売れたんは全部1億円超えの部屋らしいんですよ。金持ちは階数と値段で買う価値があるかないかを決めるらしいですわ。それに、奴等買うまでにエラい悩むし、あれやこれや煩いらしいですよ」

「色々良く知っているな」  

「モデルルームの姉ちゃん達がグチってましたわ。俺なんか5階建の賃貸マンション住まいやから、悩む事なんかないですけどね」と中嶋が投げやりに言う。

「金なんか持っていればいるだけ悩みも多いって事なんじゃないかな」

 中嶋は嘆息した。

「贅沢な悩みやなぁ。金持ちに知り合いがおらんから良うわかりまへんけど、モデルルームやら現場に頭の狂った上目線の横柄な奴等がしょっちゅう来るらしいし。これも聞いた話ですけど、タワーマンションの上の方に住んどる頭の狂った奴等は下の階の奴等がエレベーターに乗り込んで来ると舌打ちするらしいですよ。何様やねん」

「へぇ、舌打ちはないよな」

 中嶋は思い出したように釜本に訊いた。

「そう言う釜本所長かて結構な金持ちやないですか?堂島の150㎡のタワーマション買ぅうて住んどるんやから」

「いや田舎の親の遺産があるだけだ。女房の実家は東京世田谷の金持ちだがな」

「そう言えば所長、堂島のマンションを売りに出しとるってホンマですか。俺等監督連中の間でエラい噂になってまっせ。自慢のベンツも売ったらしいし、まさか人事部に東京転勤とか言われてるんちゃいますの?」

「いや、そんな事は言われていない。住民同士で色々あって住み心地が良くなくて、買い換え先を今探しているところだ」


 数週間前、釜本が夜遅く帰宅すると妻が感情的に叫び捲った。このところ、そんな事が続いている。

『もぅ嫌だわ。アナタがどうしてもついて来いと言うから我慢してこんな見ず知らずの所まで来たけど、私も誠も限界。一日も早く東京に帰りたいのよ』

 転勤で東京世田谷区成城学園から神戸市内へ妻と息子を連れて引っ越してから三年が経ったが、慣れない環境に妻は日に日に精神的バランスを崩していた。

『まぁそう言うなよ、俺だって頑張っているんだから』

『そんな悠長な事を言っている状況じゃないの。私ね、上階の奥さんに凄い事を言われたわ。このマンションは、住んでいる階数の高い順にエレベーターを使うキマリになっているんですって。それだけじゃないわ、誠がこのマンションで何て呼ばれているか教えて上げましょうか。10階だから「10番目の奴隷」よ。このマンションの最上階30階の家のバカな子が王様なんですって、ふざけるなって言いたいわ。私の事だけじゃなく、大切な誠までがこんな辛い目に遭っているのよ。それなのにアナタはそんな事も知らないで、毎日夜中に酔っ払って帰って来る。もう駄目、限界だわ』

 そんな夜の出来事を思い出し、釜本は胸のつかえに「ふぅ」と溜め息を吐いた。


 翌朝、現場の見廻りをしている釜本に中嶋が、鳩がマメ鉄砲を喰らったような顔で息を切らして駆け寄って来た。驚きが隠せない。

「所長、このマンションの販売価格知ってまっか?」

「あぁ、さっき聞いたよ」

 異様にテンションの高い中嶋とは逆に、釜本はそれ程の興味を示していない。道路向いのタワーマンションの価格は驚く程に高いものではあったが、発表されたこの棺桶マンションの価格はそれを遥かに超えて飛んでもなく篦棒べらぼうな価格に設定されていた。とても正気の沙汰とは思えない販売価格とその販売状況に、中嶋は唯々驚くしかない。

「所長、この棺桶マンションは全戸2LDK60㎡の2億円で、即日完売したらしいやないですか。あのタワーマンションが60㎡台で平均価格1億円、このマンション60㎡で価格2億円やから坪1100万円、無茶苦茶なタワーマンションの2倍ですよ。それで即日完売やなんて、どないなっとるんやろか?」

「凄いよな」

「けど、モデルルームはどこに造ったんやろ、販売センターはどこなんやろか?」

「いや、モデルルームも販売センターもなし、直販売だけで30分で完売したそうだ。その後も購入を希望する客からの電話が施主に殺到しているらしい」

「えっ、そんなの凄過ぎですやん。このマンション全部で1520戸もあんのに……」

「金持ちなんて、どこにでも幾らでもいるって事さ」

 このマンションと全く同じものが日本だけではなく、世界100ヶ国で建築、販売され、合計10棟15200戸が一瞬で完売したのだという。誰が買っているのか検討もつかない。


 言葉を失っている中嶋の携帯電話が鳴った。中嶋は「はぁ、誰が?」と不機嫌そうな声を出した。電話らの相手は事務のおばちゃんで、「現場事務所に誰かが来訪して「責任者を出せ」と言っている」らしい事を告げていた。現場所員が出払っているのだろう、事務のおばちゃんのSOSを求める悲壮な声が電話の向こうから聞こえてくる。仕方なく、釜本と中嶋は現場事務所に戻る事にした。

 

 現場事務所前の道路に白い外国製の高級大型乗用車が周りを威圧するように停車している。ゲートを潜り現場事務所に入って行く釜本と中嶋に、運転手が人の良さそうな顔でちょこんと頭を下げた。二人はそれが誰なのかは知らなかったが吊られて頭を下げた。

 二人が事務所に入ると、息の詰まるような何か異様な匂いがした。高いのか安いのかはわからないキツい香水が鼻を突く。どこかで見たようなそうでないような顔の中年女が目を吊り上げ、何かを威嚇する態度で脚を組みながら応接用ソファーに座っている。

 白いタイトスカートに黒の網タイツ、ラメ入りの白いピンヒール、真っ赤な口紅だけが目立つ素顔の見えない厚化粧と長いストレートの茶色い髪、無意味に開けた胸元、それ等全てが発する嫌な気配に鼻白む。

「あなたが責任者?」

 挨拶もなく、いきなり居丈高な言葉が投げられた。理由は不明だがマウントを取ろうとする胸くそ悪い意思が手に取るようにわかる。

「現場所長の釜本です。何か御用ですか?」

「そんなの当たり前でしょう、用がなければこの私がこんな小汚い所に来る訳ないじゃないの。そんな事もわからないの、アナタ馬鹿なの?」

 今にも胸ぐらを掴んで来そうな傲慢な女の言葉に、釜本は表情を変える事もなく淡々と応対した。腰深に座り、組んだ足を落ち着きなく揺らすその姿はクレーマーか反社に近い。出来る事なら会話もしたくない。

「嫌なら来なけりゃええやんか、クソババ」

 中嶋が小声で放ったツッコミを頭から踏み潰し、応対する釜本の冷静な態度など歯牙にも掛けず力任せに蹴散らしながら、無法者のように厚化粧の中年女が土足で踏み込んで来る。

「私は有名経営コンサルタントの代表取締役でTVにも出ているから、アナタ達でも知っているでしょうけどね」

「知らんわ、ボケ」

 中嶋の更なるツッコミなど屁とも思わず捻り潰す勢いの中年女は、左手で髪を掻き上げ机の上に名刺を投げつけた。

 見るからに喧嘩腰である事は明らかではあるものの、喧嘩を売られる覚えはまるでない。喧嘩腰で事務所にやって来るのは大概の場合建設反対の近隣住民か、金銭目的の輩と相場は決まっているのだが、どうやらこの中年女はそうではないらしい。


「一度しか言わないから良く聞きなさい。京都大学の相楽教授が決断したの、という事は私も買わなければならないの。私はそういう高いレベルの人間で、アナタ達のようなクズの一般庶民とは違うの。だから、アナタ達二人はこのマンションを買った1520人の中で転売したいという1人を見つけて私に連絡をしなさい。そうしたら、即金で100万円、いえ1000万円の手数料を支払ってあげる。幾ら馬鹿なアナタ達でもそれくらい理解出来るでしょ?」


 随分と身勝手な話だ。内容は至極簡単で、「このマンションを購入しようとしたが買えなかったから何とかしろ」という事、唯それだけなのだ。

 かつて、釜本が新入社員だった1990年頃のバブル期にも、極端に人気のある分譲マンションでは金に飽かせて「抽選なしで買えるようにしろ」と建築現場に乗り込んで来る者達が大勢いた。それだけ購入意欲が高いと考えれば、関係者としては有難い話なのだが、流石に今時そんなやり方は通用しない。

 人参をぶら下げれば、どんな馬でも言う通りに走るとでも思っているのだろうか。一方的で高飛車で高慢、横柄で押し付けがましい態度は否が応でも鼻につく。勝手に「こんな小汚い所」まで来て、タラタラと持論を自慢げに展開する中年女の稚拙で利己的な理屈など、二人は理解出来ないというよりも理解する気になれない。 

 釜本は事務的な口調で、中年女に応えた。

「当マンションは既に完売しておりまして、事業主からは「顧客の転売は自由だが事務所での斡旋及び販売行為はしないように」と言われております」

「だから、何度も同じ事を言わせないでよ。アナタ達は転売の情報を私に連絡すればそれでいいのよ、わかっ・」

「申し訳ありませんが、現場事務所では販売に関連する行為は一切出来ませんのでお引き取りください」

「あなた、本当に頭が悪いわね。1000万円をアナタに払うと言っているの・」

「これ以上のお話は意味がないかと思われます。この会話はカメラで録画しております。もし必要であれば、後日データをお渡し出来ますので申し付けてください」

 釜本は躊躇する事なく中年女の言葉を遮り言葉を返した。怒りに目を剥く中年女は舌打ちしながら即座に立ち上がり、釜本に敵意溢れる視線を投げつつ、ドアを蹴飛ばして現場事務所を出て行った。

 後味の悪さに、悔しそうに拳を握り締める中嶋を釜本が慰めた。

「中嶋、気にするな」

「そ、そんなん、大丈夫ですよ、俺は大人やし、心が広いから、あ、あんな厚塗りオバンの戯れ言なんか、戯れ言なんか、気になんか、してヘんし……」

 中嶋は、顔を引き吊らせ、悔し涙を浮かべて現場へ出て行った。釜本も同じようにわだかまる気持ちを抑えながらデスクへと戻った。


 建設現場事務所ではこんな事は珍しくない。日照権を叫ぶ建設反対の近隣住民だけでなく、近所の暇な爺ちゃん婆ちゃんが茶飲み話にやって来る事もあるし、建設機材や自動販売機やレンタル品の設置依頼、不動産屋の市場調査、おしぼりその他の押し売り、ヤクザの脅し、酔っ払いや不審者、新聞や保険や宗教の勧誘までありとあらゆる相手をしなければならない。全てに本気で相手をしていたらキリがない。

 あのヒステリックに喚く中年女にしても、そんな輩と何ら変わるところなどない。己の欲を満足させたいのだろうが、真面まともに話の内容を理解する気にさえならない。

 唯、釜本は何故か中年女が言っていた「その名前」だけが頭に残った。

「京都大学の相楽教授、だったかな?」

 釜本は仕事の合間に暇を見つけてインターネットサイトに「京都大学相楽教授」と打ち込みクリックした。


 サイトがヒットした途端、釜本は目を見張った。

 インターネット上に「相楽教授と吉村教授」や「核戦争勃発か?」の文字が勢い良く躍っている、何やら胡散臭い。

「気象学の世界的な権威である京都大学自然科学研究所相楽名誉教授は、近々天使と悪魔の最終戦争が勃発する事を予言した」

「核戦争の勃発か、我々人間は生き残る事が出来るのだろうか?」

「人類は滅亡するのだろうか?」

 インターネット上には「天使と悪魔」「核戦争」や「世界の危機」「人類滅亡」そして「予言」の文字がこれでもかと溢れている。どうやら、相楽教授は京都大学の名誉教授で気象学の世界的な権威らしい。 

 釜本は、気象学権威の大学教授が何故核戦争や人類滅亡を予言するのだろうか、と首を傾げた後で、サイト画面の下の文字を見て驚いた。そこには、どのサイトにもNEAの文字がある。NEAとは棺桶マンションの事業主でもある宗教法人だ。

「これはマンション販売の為のヤラセなのか?」と猜疑心を膨らませ、別のサイト「悪魔の予言」をクリックした。二人のパネリストの老人が座り、その背景には「日本気象学会シンポジウム・気象学が世界を担う/温暖化阻止を目指して」の文字が見える。必ずしもNEAがスポンサーではないようだ。

 動画が始まった。

 パネリストは他の動画と同様の二人の老人だったが、釜本はその動画に登場した老人のテンションの高さに驚いた。ディスカッションと言いつつも、二人の老人は本気でバトルしている。その人物が京都大学の相楽教授と東京大学の吉村教授である事がフリップでわかる。

 まずは、吉村教授がまるで尋問でもするように挑戦的に白髪の老人相楽教授に迫った。

「相楽先生は、雑誌のインタビューで「近々この世界が核戦争で滅亡する」と言っておられるようですが、気象学の権威と謳われたアナタがそんな荒唐無稽な発言をされるのは如何なものかと思いますよ。大体ですね、何を根拠に核戦争やら第三次大戦が勃発すると言うんですか、実に嘆かわしい」

 言われた相楽教授は、腹立ち気味に返す。

「いや、ワシは核戦争が起きるなんぞとは言ぅておらん」

「アナタの無責任な言質の所為で我々関係者は大変に迷惑しているのです。それに特定の宗教法人と関係があるというのは本当なのですか?」

 演出なのか、随分と過激だ。一方的な問い掛けを老人はきっぱりと否定した。

「喧しい。ワシは核戦争やら第三次大戦だなんぞとは一言たりとも発言してないと言ぅとるやろ」

 相楽教授が吉村教授の男の舌長に辟易している様子が見て取れる。

「アナタが・」

 更に執拗に問い質そうとする吉村教授の言葉を、相楽教授が断ち切った。

「黙れ。ここに集う皆も知っている通りやけど、天の啓示たる各惑星の温暖化は、現在の全てのバランスが我々の考えている方向性、即ち地球温暖化が人類の所業を主因とするとは異なるところにある事を教えている。

 相楽教授は滔々とうとうと続けた。

「バランスとは天使と悪魔が戦っているようなものやけど、我々が天使と思てる温暖化阻止がホンマに地球バランスを維持する事になるのかどうかを確実に判断するのは大変に難しい。けど、そうは言うてもこれは人類の文明が滅亡しかねへん大問題やから、諸君は各々の研究の中で少しでも多く「アレ」の判断材料を見つけてもらいたい。そして、一刻も早く国家レベルでその対応策を考えて実行せなならん。今後、我々の想像を絶する状況が世界中で起こったとしても、それは序章に過ぎん。我々の智慧など遠く及ばん終章が必ずやって来るんや」

 白髪の外見からは想像出来ないパワフルな物言いに強い意志が感じられる相楽教授は、力強くそして諭すように言い終わると、中指を立てた。

「それから言ぅとくけどな、相手が宗教法人やろが何やろが、ワシの研究に賛同する者には全面的に協力する、それがワシのポリシーや。文句があるんやったら相手になったるから、いつでもかかって来い!」

 画面の向こう側で吐き捨てるように言い切った白髪の老人は、不満げに椅子を蹴飛ばして席を立った。

 動画終了と同時に「これは何だ?」と釜本の思考回路は一瞬停止した。ネットを賑わす予言のようなその言葉は、釜本の思考の内側に張り付いて離れなかった。


 真夏の昼下がり、酷暑は建設工事現場にとって特に辛い時間だ。

「御免下さいな。ここがNEAマンションの建築現場事務所で宜しいか?」

 現場事務所の入り口で男の声がした。所員は全員現場に出払い、オバちゃんはまた出掛けているらしく誰かが応対している気配はない。急いで釜本が出ると、ドアを開けた玄関に品の良さそうな白髪の老人が立っていた。

「いらっしゃいませ、どちら様・」と応えた釜本は、来客のその顔に「はて、どこかで見たような」と感じた。

 老人が遠慮がちに言った。

「申し訳ないんやけど、この現場の責任者の方はおられるやろか、ワシは京都から来た相楽と言う者です」

 老人の「相楽」の言葉に釜本はインターネットの件を思い出した。

「私がこの建設現場所長の釜本です。もしかして、アナタは京都大学の相楽教授ですか?」

「そうやけど、良ぅ知ってますな」

 釜本は「こちらへどうぞ」と老人を応接ソファーに誘い、冷たいペットボトルの麦茶を出して世間話のように「実は・」と切り出した。

 白髪の老人の親しみある顔と語り口調の所為なのか、それともネットで見た顔だからなのかはわからなかったが、老人は何故か何かを話したくなるような不思議な雰囲気を持っていた。

 釜本は「突然このマンションの購入希望者が来て相楽教授の名を告げた事やその後でインターネットで確認した」と一連の状況を説明した。

「ほぅでしたか、最近では宗教法人NEAを「相楽教」などと言う人達もおってね、教祖と呼ばれてますわ」

 老人はケラケラと笑いながら、最近の若者の不甲斐なさや本当の意味で活用されていない女性の能力の高さなどの持論を語り、釜本は東京から家族で転勤した事が良かったのかどうかを悩んでいるとプライベートな思いの丈までを話し、一頻り世間話に興じた後、釜本は老人に「ところで、今日はどんな御用件ですか?」と訊ねた。

 相楽は、釜本の質問に奥歯にものが挟まったように何やら答え難そうに言った。

「それなんやけどな、実はな、ワシはやらなければならん事があってな。それで今日ここに来たんやけど……」

「やらなければならない事とは?」

 意を決した老人が言った。

「あのな、このマンションの工事中の建物内部を見せてもらう事は出来へんやろか?」

 釜本は考える事もなく、きっぱりと断りを告げた。

「施主から「購入者からの内見の要望は全て断るように」と強く言われていますので、購入者であろうと関係者であろうと、それが例え大学教授であろっても、それは絶対に無理です」

「何とかならへんやろか、どうしても無理やろか?」

「無理です」

 当然の事として釜本の返事は変わらない。

「それはそうなんやろけど、そこを何とか・」

「無理です。絶対に無理です、何があろうと無理です」

「ほぅか……」

 諦めきれない様子で懇願する老人は釜本の言葉に肩を落とした。

「が・」

「?」

 老人の落胆を他所に、釜本は何かを遠回しに語り出した。理解が宙を舞う老人は首を傾げるしかない。

「ある日、私は京都大学の相楽教授から内見を切望されたが、現場責任者として当然の如く即座にキッパリとお断りした。そして相楽教授は帰られた」

「?」

 首を傾げたまま、老人は要領を得ない。

「ここからは独り言です。「さぁて、これから工事状況の確認をする為に建物内へ入らなければならないな。関係者以外の内見は絶対に無理だが、偶々たまたま私の後ろから誰かがついて来たとしても、それは私にはわからない」かも知れない」

「なる程」


 釜本は進捗状況の確認の為、無言のまま工事現場に入った。その後を誰かがついて来ているのか或いはいないのか釜本には想像も出来ない。 

 という事で、ヘルメット姿の二人の男が工事用エレベーターに乗って最下層階で降りると、片方の男が状況を説明、ではなく独り言を呟いた。

「ここがマンション中央部、共用スペースとなります」


「あれは何や?」

 最上階の共用廊下から工事作業を見渡していた中嶋は、見知らぬ男を連れて最下層を歩く釜本の姿を見つけ、怪訝な顔をした。


 建物内部はタワーマンションを横にしたような広大な形状で、その空間を貫くように伸びる直径2m程の柱数百本が眩しい現場照明の光に反射して、ギリシャ神殿を彷彿とさせる雰囲気を醸し出している。

「ほぅ、これが内部ですか。思ったよりも遥かに広い、どうやら彼等は本気らしい」

 老人も独り言を呟きながら、ヘルメットのつばひさしにして工事用ライトの眩しい光を避け、内部空間を確認しながら満足げな顔で釜本の後について歩いた。

 現場事務所に戻って一息付いた相楽は、上機嫌で釜本に礼を言った。

「釜本君、今日の事はホンマに感謝します。直接NEAに言えば、この建物の内部を見学するんは可能なんやけど、それでは意味がないんですわ。ワシはこの建物を素で見なければならんかった、それが見れたのは君のお陰です」

 そう言って、相楽は満悦顔で笑った。そんな相楽に釜本は疑問を投げた。

「相楽先生、教えていただきたい事があるのですが」

「感謝序でに、ワシの知っとる事やったら何でも教えますよ。尤も、聞かん方が良かったと思う事もあるかも知れんけど」

「相楽先生が今言われた「この建物内部を見なければならんかった」というのはどういう意味ですか?」

 相楽は釜本の質問に一瞬戸惑いを見せた後、頷きながら話し始めた。

「一言で説明するのは中々難しい質問なんやけど、ワシは『彼等の覚悟』が本当なのかどうかを見に来たんです。但し、見れたら何でもエエというもんやない。厚化粧をした偽物やのぅて、本物をワシの目で見なければ信用出来んのです」

 相楽の説明は釜本には何一つ理解出来ない。釜本は根本的な疑問をぶつけた。

「相楽先生、そもそもこの建物は何なのですか?」

「この建物は、彼等の本気というか覚悟を具現化したものです」

「彼等とは誰ですか、覚悟とは何ですか?」

「話せば長ごぅなりますけど、元々NEAはワシが創設したんですよ」

「えっ、京都大学の教授が宗教法人を?」

 唐突に始まった話の成り行きに、ついて行くのがやっとだ。

「いやいや、ワシが一般的な意味で宗教法人を立ち上げる意味はあませんよ。ワシは気象学者やから、それもかれこれ50年以上も『気象学における地球環境の将来的変化』についての研究を続けています」

 相楽の話が続いていく。何が始まるのか、釜本は既に身を乗り出している。

「今から3年程前の事なんやけど、NYで開催された世界気象学シンポジウムに出席した際に、強く興味を惹かれる発表をした米国グループがあったんです。ワシの研究と方向性が似ていたその民間気象研究グループは、研究の基本的な進め方が変わっていて、グループメンバーが所属する『神の御言葉を受け未来を見通す神の子の教団』から得られる神の啓示によって導き出された結果を検証していました」

「神の啓示?」

 耳を疑う言葉に釜本は唖然とした。老人は更に続ける。

「まずは、気象学として到底相容あいいれんと思われる神の啓示であっても、吸収出来るもんは何でも取り入れる先進的な考え方に感動した。とは言っても、如何いかんせんワシは無神論者の気象学者やから、神の啓示は流石に眉唾もんやと思っていた。ところが、実際に会って彼等の「神からのビジョン」というのを聞いて仰天したんですわ。何故なら、それはワシが50年以上の時間を費やして研究してきた内容と非常に似通っていたからです。その時は腰が抜けそうになりました」

「神の啓示、ビジョン?」

「彼等が神のビジョンから想定する未来予測はワシの研究の方向性と大きくは違わんかったから、ワシも彼等のビジョンを研究に取り入れて相違点からの検証を行う事にしたんです。そやけど、どう考えても京都とNYは遠すぎるのと他にも面倒臭い事があって、色々と考えた末に彼等と共にNYを拠点とする新しい研究集団を創る事にした。それが宗教法人になったという訳です。今はNEA日本支部もありますけど、ワシが教祖として活動する事はありません」

「神のビジョンと相楽先生の研究内容が同じ……でも何故宗教法人なのですか?」

「それは簡単な事です。ワシ等の研究や主張や教団への賛同に対して個人や企業から沢山の寄付を頂戴するんやけど、それ等を賛同者の意に添って使うには非課税とせざるを得なかったのです。勿論ワシ個人を含めたNEA関係者がそこから報酬を得る事はありません」

「宗教団体関係者が報酬を得る事はないのですか?」

「ありません。ワシを含めて教団関係者は全員例外なく別に仕事を持っているので、その必要はないんです。現在このプロジェクトは世界100ヶ国で遂行されていますけど、そこからも1円たりとも利益を出す事も関係者が利益を得る事もない。それどころか、彼等は今まで捻出して来た全ての教団の資金と資産だけやのぅて、教団関係者の個人的資産も全てこのプロジェクトに注ぎ込んでいます。このプロジェクトには金が掛かります。公有地を手に入れるのに議員を買収したり、反対運動が起きんよう周辺住民に事前に金を配ったりせなならん。おっと、これは秘密やったな」

「利益を出さず、全ての資金を注ぎ込む。それは何故ですか?」

「ワシ等の主張は唯一つ「温暖化を止めるな!」です」

「えっ?」

 釜本は驚いた。今や世界の常識となった『地球温暖化の阻止』を平然と否定し、世界の流れに逆行する神のビジョンとやらに世界的気象学の権威が本気で賛同している。これは一体どういう事なのだろう。利益の出ない事業に全資金を注ぎ込むなどという事が現実にあるのだろうか。全く理解が出来ない。

「NEAの最終目的は、このマンションプロジェクトを成功させる事であって、それ以外には何もありません」

 何をどう考えても理屈は通らない。

「事業であるにも拘わらず、利益は出ない?」

 相楽が平然と繰り返す。

「そうです。何故なら、利益を出しても意味がない」

「意味がないとは、どういう意味ですか。やっぱり『アレ』が起こるからですか?」

「そう、間違いなく「アレ」は来ますよ」

「「アレが来る」?」

「ん、『アレが起こる』?」

 二人は顔を見合った。二人の会話に確実にズレがある。

「釜本君の『アレが起こる』というのは、おそらくは核戦争やら第三次世界大戦の事を言うてるんやろと思いますけど、そんなもんが起こる可能性は限りなくゼロに近い。その代わりにもっともっと恐ろしい「アレが来る」。それは、間違いなくそれ程遠くない未来に来ます」

「相楽先生が主張される「アレ」は、核戦争や第三次世界大戦、そしてその結果としての人類滅亡ではないのですか?」

「違います、そんなもんは妄想に過ぎまへんな」

「では、地球温暖化による気温上昇のスパイラルからの人類滅亡ですか?」

「違う、違う。確かに、現在の地球温暖化が原因となって地球平均気温が上昇する事で更に温室効果ガスの放出を一層促進し、増々温暖化が加速するというスパイラルに陥る可能性はありますよ。それは、きっと我々の想像を凌駕する程の激しいものになると思います。しかし……」

 相楽が口籠もった。

「核戦争でも第三次世界大戦でもなく地球温暖化のスパイラルでもない、他に何があるのですか?」

 釜本の疑問に相楽は確然と答えた。

「あります。地球温暖化はスパイラルします。けど、それだけでは終わらんのです。本来はその対策を国家的、世界的レベルで早急に実施せなならんのやけど、多分それは難しい。従って、我々研究者が詳細で確実な研究結果を出来る限り早期に発信しなければならない、という事なんです。現実的には、大変残念な事ながら我々の成果は世界的な評価を得るまでには至っていない」

「地球温暖化はスパイラルするが終わらない。では……」

「だからこそ、彼等はこの世界的マンションプロジェクトに本気で取り組んだんです。今日は、その意思がホンマなのかどうかをワシのこの目で見たい、いや見なければならん、そう思ってここに来たんです。彼等の決意が果たしてどの程度のものなのかは、この建物の内部を見たら間違いなくわかるやろと思ぅたんです。今日これを見て、それがホンマやと確信しました。今は、決して本意ではないけどワシ自身もこの流れに乗る以外にないと考えています」

「相楽先生、「アレ」とは何なのですか?」

「「アレ」を説明するのはエラく難しい。正体は十中八九見当はついてるけど、ワシは研究者やからエエ加減に言い切る事は出来ない。今言えるのは、「アレは」世界的に相当な影響があるやろうて事くらいです」

 確信のある裏付けを以て言い続ける老人の話には、不思議な説得力がある。核戦争でも第三次世界大戦でも地球温暖化のスパイラルでもなく、必ずや何かが来るのだ。何かを理解出来ないまま、釜本が唐突に相楽に訊いた。

「相楽先生、一つだけ教えてください。俺は、俺はどうしたら良いのでしょうか?」

「ちょっと待ってください、釜本君。間違ごぅたらあきまへんよ。ワシは教祖やないし、君の人生を背負う覚悟もない、NEAも一緒です。ワシはアレが絶対に来ると思てるんやけど、ワシが言ぅてる事が絶対かどうかは神のみぞ知る事です」

 釜本は、まるで教祖に縋る信者のように言ってしまった自分が恥ずかしかった。

「あぁ、確かにそうですよね……」

「先程君が「相楽が判断したと宣う輩が来た」と言ぅたけど、ワシは一個人の信念として判断する事はあっても、他人に対して判断すべきやと言ぅた事は一度もありません。何故なら、そもそもそれは個人が判断するべきやかです」

「個人の判断……」

「もしワシが判断した結果アレが来なかったとしたら、「世紀末が来るぞ」とうそぶくインチキ宗教の教祖と何ら変わりまへん。ワシは教祖ではないから、何があっても他人に対して判断する事も責任をとる事もないんです」

 相楽は釜本の目を見ながら、諭すように続けた。

「釜本君、君に対しても同じです。必ず「アレ」は来る、しかしワシが君にそれを保証する事はないし、況してや君に家族がいるんやったら、何をどないするかは君と家族が決める事やと思います。仮に君が決断しても家族がついて来てくれるかどうかはわからんし、それどころか「アホか」て言われて全く相手にされんかも知れまへん。それでも君が判断するんやったら、君は家族にやるべき事をやらなければならんと思います。もし「アレ」の詳細が知りたいんやったら、いつでも京都大学の自然科学研究所に来てください」


 相楽が帰った後、現場から戻った中嶋が釜本に訊ねた。

「所長、さっき現場で一緒にいたのは事業主ですか?」

「さぁ、知らんな」

「所長の後ろに爺さんがおったやないですか」

「ん?多分、背後霊だろ」

「はぁ?」


 翌日、所員の出払った現場事務所の電話が鳴った。買い物か早い昼食にでも行ったのだろう、またオバちゃんがいない。

 仕方なく電話に出た釜本は、思わず見知らぬ相手の用件に耳をそばだてた。

「えっ、本当ですか?」


 工事は着々と工程をこなし、モグラプロジェクトの全貌が見えていた。中嶋が隣に繋がる別工事現場を指差した。

「所長いつも不思議に思ってるんやけど、隣のあれは何ですか?」

「あれは公共スペースと付属のシステムプラントだと聞いている」

「システムプラント?」

「あぁ、確か食糧プラントとか言っていたな。その隣が公共スペースで建物内部に広い公園が出来るらしい。更にその隣が発電プラントで、全てをこのマンションと接続する事になるそうだ」

「けど、完成後にこのマンションもそれも全部埋めてしまうんですよね?人は住まんのやろか?」

「いや、1520世帯が住むと聞いている」

「隣の現場との合同打ち合わせはせぇへんのですか?」

「事業主の意向でやらないらしい」

 中嶋サトルは頭を抱えて唸った。中嶋は工事が進めばきっとこのプロジェクト全貌が見えて来るに違いないと思っていたが、建物の完成が近づいても所長釜本の説明を聞いてさえ、その正体は靄が掛かったままだ。

 棺桶マンションを含む全体プロジェクトの内部には、居住用マンションスペースだけでなく、公園や循環システムその他の設備が連動している。居住者を想定している以上当然とは言え、驚くべきは全プロジェクトは完成後に地中深く埋め立てられて、上部が緑地公園になる計画となっているのだ。

 とても現実とは思えない、そんな建物に人が居住する事など可能なのか。正気の沙汰とは思えない。余りにも理解不能だ。

 中嶋は「この建物が完成しても地下なのに、やっぱり上棟と言うんかな?」などと、どうでも良い事をふと思った。

「所長、自分で造っとって言うのも変やけど、この建物は一体何ですかね。埋めてまって死んでもぅたら、モグラマンションやなくてホンマの「棺桶マンション」になりまっせ。こんなんが何で建築確認おりたんやろか?」

「お前が参加しなかった会議で、事業主が延々とこのプロジェクト全体を説明していたが、内容は良くわからなかったな。多分、完結型の地下都市のようなもので建築確認を取得しているんじゃないか?」

「完結型地下都市て何ですか?」

「確か1991年頃に、バイオスフィア2という名の実験プロジェクトがアメリカにあった。数人の男女と持ち込んだ動植物を完全に隔離した人工生態系の中で生活させたんだ」

「何の為にそんな事をしたんでっか?」

「それは、近未来に人類が月面や火星に移住する時のシミュレーションだったと言われている。このマンションはそれと同じなのかも知れないな」

 釜本の説明に納得出来ない中嶋は、「何故、宗教法人がこんなところで近未来の実験をしているのか?」「実験にしては多過ぎないか?」と続けざまに訊いた。

 釜本は、この土地が元々公共公園の敷地の一部で、『周辺に計画建物の日影を掛けない事』『建物完成後、元の公園以上の大きさの公園を整備する事』『50年後に現状回復の上で土地を返還する事』の三項目が入札の条件だった事を説明した。

「条件付とは言っても、交通便が良くてこんなデカい土地は匆々そうそう手には入らない。日本全国のあっちこっちへ声掛けてやっと買えた土地なんだとも言っていたな。しかも、それを世界的な規模でだ」

「世界100ヶ国ですよね?」

「いや、正確には日本その他世界48ヶ国、計100ヶ所なんだそうだ」

「へぇ、こんなもの良ぅ造ろうなんて思いましたよね。やっぱり実験なんやろか。ここの事業主の日本NEAて、CMで『神の使い』とか言ぅてる胡散臭い宗教法人でしたよね。本部はニューヨークやったかな?」

「まぁそうだが、俺達は事業主を選ぶ事は出来ないし、必ずしも宗教法人が駄目とは言えないしな」

 中嶋は、「それはそうやけど……」と呟き、消化不良の顔で遠くに見える別現場を見つめていた。そんな中嶋に釜本は不意に不思議な事を問い掛けた。

「中嶋よ、俺達はありなのかな、それとも螽斯きりぎりすなのかな?」

 突然そんな質問を投げられた中嶋には、釜本の意図がわからない。

「わかりまへんけど、イソップ童話のアリとキリギリスて話やったら、俺はどう考えてもアリですよ。取りあえず、女房子供を食わせなあかんから毎日々齷齪あくせく働いとる。そやから間違いなくアリですわ」

 釜本はいつになく哲学的な論理を展開した。

「でも、蟻と螽斯が同じ格好してたら、どうやって誰が判定するんだろうな?」

「さぁ、どないするんやろか?」

「螽斯だって毎日遊んでいるなんて自覚はなかったかも知れないし、蟻のように一生懸命に働いているつもりで、気がついたら自分自身が螽斯だったなんて事だってあるんじゃないかな。イソップの話で冬が来て凍死するのは螽斯だが、現実社会で凍死するのは本当に螽斯なのかな。蟻じゃないと言い切れる人間なんていないんじゃないかな?」

「所長、どないしたんですか。何やら哲学的な悩みでもあるんですか?」

「いや、ふっとそう思っただけだよ」

「まぁ、確かに世の中の金持ちは遊んどっても金持ちやし、貧乏人はいくら働いても貧乏人かも知れまへんけど、この前現場に来たオバハンみたいなキリギリスは、やっぱ野垂れ死んでほしいですね。アリが凍死する話は嫌やなぁ」

 中嶋が心情を吐露したタイミングで釜本の携帯電話が鳴った。哲学的な議論を中断して発信先を確認した釜本は、ばつが悪そうに何かを話しながら外に出て行った。

「あぁどうも、えっ、5ですか、それは。3なら・」

 中嶋は、先週末から釜本にかなりしつこい電話が掛かって来ているのを見ていた。電話の内容は検討もつかなかったが、数字を言い合っている様子から、きっと買い替え先のマンションの件だろうと想像した。


 三ヶ月後、全プロジェクトが完成し、NEAガーデンシティ海浜公園1520戸の入居が始まった。引っ切りなしに満員のバスが到着する。その中から、購入者と思しき人々の群れが出て来て、そしてマンションの入り口となっている広大な公園の中央の穴に消えていく。中嶋は所長代行として、公園前に移設した現場事務所から入居する人々を見ていた。

「所長は今日も休みなん?」

「インフルエンザらしいですよ」

 所長釜本は三日前から休んでいた。


 TVで見た芸能人や政治家、有名企業の社長やら見た事のある人々が次々と現場事務所前を通り過ぎて行く。不思議な事に、通常の引っ越し用のトラックなどは一台もなく、入居者達はボストンバッグかキャリーバッグ程度の荷物を持った旅行者のような姿だった。

 入居者を見ている内にあの螽斯きりぎりす女の顔が浮かんだ。あの後で金に飽かせて思惑通りになったのだろうか。中嶋は目を凝らして通り過ぎる人々の中に女を探したが、それらしい姿を見つける事は出来なかった。

 プロジェクトは、その日の内に1520世帯4930人の購入者全ての入居を終了した。明日から入り口をコンクリートで塞ぎ、全ての建物の地中へと埋設する事になっている。


 中嶋は工事の最終段階になっても『棺桶マンション』が本当は何なのかを理解出来ずにいた。ずっと持ち続けている何か割り切れないものの答えは、遂に見つける事は出来なかった。もっとも、それがわかったところで何がどう変わる訳ではないのだが。

「俺は逆立ちしてもキリギリスにはなれんわな」

 そう独り言を呟いた次の瞬間、中嶋は自分の目を疑い「あっ」と叫んだ。

 エントランスに入って行く入居者達の中に、釜本とその家族の姿が見えた。他人の空似ではない、確かにそれは釜本だ。狐に摘まれたまま呆然とする中嶋は、三日前の釜本の言葉を思い出した。


「なぁ中嶋よ、俺自身がありなのか螽斯きりぎりすなのか良くわからないが、自分の家族を螽斯にする事は出来ないよな」

 中嶋は、釜本の言葉に「それはそうだ」と頷いたが、だからと言って釜本の真意を理解する事もどんな言葉を返せば良いのもわからなかった。

 そして今、その釜本が棺桶と揶揄される奇妙なマンションに入って行き、明日には地中に埋められてしまうのだ。混乱する思考の中で、中嶋は釜本の後ろ姿が見えなくなるまでじっと見送るしかなかった。

 中嶋の見つめる先、入居者の列の手前に見た事もない『不思議な白い線』が見えた。その白い線こそが、蟻と螽斯、金持ちと貧乏人、運を持つ者と持たざる者を厳格に隔てる残酷な運命の境界線に違いなかった。

 穴に消えて行く人々を見つめながら中嶋は思った。例えその運命の境界線が見えたとしても、自分が向こう側に立つ事はないだろうと。理由はわからない、金持ちかどうかではなく、きっと運命とはそういうものなのだ。

 中嶋は、いつまでもその場にじっと立ち尽くすしかなかった。

 この日、日本から4930人、世界中で51523人がが奇妙な箱の中へ消え去っていった。そして、それはニュースになる事もなく、早々に人々の記憶からも消えていくに違いなかった。


 ある年の夏、米国カリフォルニア州デスバレーで観測史上最高気温73°を観測し、中東ドバイ、サウジアラビアのメッカでは年間の平均気温が50°を超えた。

 また、南極では過去に記録された過去最高気温20.75°を遥かに凌ぐ温度30.55°が観測された。

 東京23区の最高気温も、観測史上初めて45°を超えた。気象庁は、25°を超える夏日、30°を超える真夏日、35°以上の猛暑日に続き、40°以上の日の呼び名を、日本気象協会が便宜的に使用していた「酷暑日」、最低気温30°以上の夜を「超熱帯夜」として正式に決定した。既に40°を超える酷暑日も珍しいものではなくなっている。

 マスコミは、相変わらず「原因は地球温暖化」と叫び続けた。地球温暖化を助長し続ける化石燃料消費という人類の愚かな所業への反対運動は一段と激化し、「エコこそが地球を変える」といった類のフレーズが世界を席巻した。

「温暖化で人類滅亡は間違いない」

「人類のエゴが地球を破壊しているのだ」

「だから、エコがエゴに勝たなければならない」

「エコに反対する者は人にあらず」

「エコで地球を、人を守ろう」

 人々は世界中の街のあちらこちらでエコを叫び、エコに反対する者は例外なく非難され迫害された。エコは世界的な一大産業となりエコの文字の付いていない電化製品は売り物にならなかった。

 世界中に凄まじいエコの嵐が吹き荒れた頃、次第に「アレ」が忍び寄る足音が聞こえていた。実は、世界中の自然科学の専門家達は、地球温暖化など大して気にもしていなかった。

 かつて、世界的気象学の権威である京都大学名誉教授相楽が声高に叫んだ温暖化の次に来る「アレ」こそ、温暖化とは比べものにならない程に専門家達を本気で震え上がらせていたのだった。

「吉村教授、「アレ」は本当に来るんでしょうか?」

「ここまでは相楽教授の予言通りだが、「アレ」が現実となるのか、それとも都市伝説の法螺話で終わるのかは誰にもわからない。相楽教授も行方不明のままだし」

「神様、どうか法螺話であってください」

「どうしたんだ、神様に祈るなんて随分と信心深くなったじゃないか?」

「違いますよぅ。ボクにも色々と都合ってものがあるんです。もしも「アレ」が現実に来ちゃったら、全然意味がないんですよぅ」

 最近極端に金回りの良くなった助手が、涙ながらに言った。


 次の年の夏、人々を驚かす事態が起きた。それは余りにも唐突だった。40°を超える酷暑が特に珍しくもなくなっていた夏の東京23区で、35°を超える猛暑日が一日もなかったのだ。

 その次の年、更にその次の年、その次の年の夏もまた、東京都内では35°どころか真夏日の30°を超える事さえない日々が続いた。

 突然の冷夏の連続に人々は喝采を送った。人々の多くは、これで十数年間続いた酷暑の連続と地球温暖化が齎す悲劇的未来への進行が中断する事を連想し、徹夜明けの休日のようにまったりとした安堵と歓迎を表して喜んだ。

「ニュースの時間です。昨年、今年と大変な冷夏で、過ごしやすい日々が続いています。こんがりお肌好きの夏女子にはちょっと残念ですが、きっと来年にはあの暑い夏が戻って来ますよ。恋の季節がやって来ます」

「そうです。早くあの暑い夏が来てくれないかなと思うのは、絶対私だけではないですよね」

 テレビ画面の中で二人の女子アナが何の根拠もない薄っぺらいコメントをしたその日、8月の東京に雪が散らついた。そしてその一週間後、今度は三日三晩大雪が降り続き、真夏の東京日比谷公園で1メートルの積雪を記録した。

 夏の雪が決してあり得ない訳ではない。2016年に、年間を通して酷暑の続く中東サウジアラビアで雪が降った事もあった。だが、「唯の冷夏だ」「そんな年もあるさ」と高を括っていた人々も、1メートルの積雪には流石に驚き、得体の知れない何かを感じざるを得なかった。

「神の御言葉が私に降りた。これは天変地異の前触れだ。神の遣いたる私に従いなさい」

「人々よ、私の言葉を聞きなさい。神の使いである私に平伏せば全ては良い方向に進む、神は私にそう言われた」

 街には怪しい俄か神の遣い達が溢れ返り、我こそはと神の啓示を告げた。

 だが、次の年もその次の年も暑い筈の夏は戻っては来なかった。人々の感覚から夏は暑いという常識が崩壊し掛けていたその年、東京の夏の最高気温は何と1°を下回り、更に翌年の冬は平均マイナス10°を記録した。

 南極では、1983年7月に観測された地球上の最低気温マイナス89.2℃、2010年8月の氷原の地表面温度マイナス93.2℃の記録を超えて、ロシア・ボストーク基地で平均気温マイナス112°を記録、アムンゼン・スコット基地では平均気温マイナス105°となった。地球の大地は凍りつき、ブリザードの風が世界中の街を極寒の世界に変えた。日を追うごとに地球全体の気温は確実に低下していった。

 最早、疑う余地はなかった。人間の思いや都合など押し潰したまま、有無を言わさずに地球上に存在する全てを凍てつく氷の世界に引き摺り込む「アレ」、即ち『氷河期』が到来したのだ。

 急激に地球が温暖化した時、人類は己の力を過信した。そもそも世界中の人々が自らの所業と叫んだ地球温暖化は人の力が引き起こしたものではなかった。地球が温暖化したと同時に、火星も金星も太陽系の全ての惑星が温暖化していた。そして今度は全ての惑星が寒冷化した。それ等全ての要因は太陽面の活動によるものだった。人類の所業如きで惑星が温暖化などする筈はなかったのだ。

 そして、人々は世界中の100ヶ所で建設され完売し、何故かわからないままで地中に消えたあの「棺桶マンション」の正体が『シェルター』である事を漸く知ったのだった。

 そして人々は気づいた。シェルターに残された自分達こそ冬の寒さに凍えて野垂れ死ぬ運命の螽斯きりぎりすである事に。


 イソップ寓話では蟻は懸命に働き螽斯は遊んでいた。その当然の結果として、蟻は救われ螽斯は寒空に野垂れ死んだ。だが、蟻は本当に働き螽斯は本当に働いていなかったのだろうか。

 いや違う。それは単なる価値観の違いでしかない。何故なら、働いていようが遊んでいようが、金持ちの螽斯ははなから救われるだろうし、大企業の傘の中で温々として働かない蟻もきっと救われるだろう。その一方で、弱小企業で一生懸命に働く蟻やどんなに必死に働いても派遣社員のままの蟻は凍え死ぬに違いない。


 成功者は、馬鹿の一つ覚えのように必ずこう言う。

「実直に、誠実に、地道に、愚直に生きていくならば、必ず素晴らしい未来が待っている。何故なら、神様は必ず正直者を見ていてくださるのだから」と。

 だが、残念ながら世の中は必ずしも正直者が救われるとは限らないし、後悔が先に立つ事もない。


「あぁぁぁ。棺桶マンション、転売するんじゃなかったぁぁぁ!」


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時空超常奇譚其ノ五. 蟻と螽斯/運命の境界線 銀河自衛隊《ヒロカワマモル》 @m195603100

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