第39話 セレスSIDE
いきなりこちらにギルマスと受付嬢が駆け寄ってきた。
「大変な事が起こったんだ、セレス様」
「不味い事が起きました、ハァハァセレス様」
久々に冒険者ギルドに顔を出したらこれだ。
面倒くさい事にならないと良いな…
ギルマスと受付嬢が息せききらして走ってくるなんて絶対に面倒事だ。
「一体どうしたと言うんだ、そんな息せききらして…」
「セレス様、元勇者ゼクトが帝国の城に攻めこみました」
ゼクトの奴、まさか血迷ったのか?
「それで?」
「王城が半壊して、帝国に大きな被害が…」
「それで死人は出たのか?」
「それは不思議と出ていないらしいです」
それなら、ゼクトは血迷ったりしていないな。
「それなら、ゼクトは多分悪い事してないな…恐らく帝国側が悪いんじゃないのか?」
「セレス様…城が半壊したんですよ!」
「あの…よく考えて見て! ゼクトはあれでも元勇者だ! 勇者が本気で戦うなら、多分、皆殺しまでは行かなくても千から万単位の死傷者が出る筈だ…それが出ないならゼクトはしっかりと手加減していた筈だよ」
四職を止めるには数の暴力で押すしかない。
恐らく一番戦闘力の低い聖女だって騎士団位壊滅に出来る筈だ。
それが死人一つ出さないで済ましたなら、ゼクトはしっかりと手加減したという事だ。
「だからって城が半壊して騎士に怪我人が出ているんですよ…幾ら何でも酷いと思いませんか?」
S級冒険者で勇者、ギルドじゃ最重要人物なのに、冒険者ギルドの職員が…ゼクトを知らないんだな。
「確かにゼクトは女癖も悪いし、性格も良くない」
「やはり何かしでかしたのではないですか?」
「だが、彼奴はそれでも勇者だ…正義の味方なんだよ!だから理由も無く、そんな事はしない」
「そうね、うちの息子は更に馬鹿で中途半端もつくけどそこ迄悪い事しないわよ!」
「ゼクトは静子さんが怖いから『本当に悪い事』はしないよ?」
「息子は確かに女癖が悪く性格こそ悪いけど、本当の悪事はしないわね」
「ゼクトは勇者だから、そんな酷い事理由も無しにはしない筈だ」
彼奴は本当に嫌な面が多い。
だが…根っこは『勇者』なんだ。
無謀だが、竜の大群に戦いを挑み、負けはしたがマモンとも戦った。
そんな彼奴だから…俺は信じる。
「まぁ、あれでも息子は勇者だからね」
「そうだね! もし暴れたならちゃんとした理由がある筈だよ」
幼馴染だからこそ解る事もある。
彼奴は理由も無しにそんな事はしない。
「それで、どうなったんだ? ゼクトが戦ったのならもう結果は出ているよな?」
「それが帝王様が『S級冒険者ゼクトとその奴隷を貶した者は牢獄送り1年とする』という触書を出したらしいです」
なんだ、そう言う事か?
「その奴隷は女なんじゃないか?」
「そうらしいです」
「それで、その触書には経緯も書いてあるんだろう…どれ、見せてくれないか?」
俺は触書を見ると、全てを理解した。
静子さんも覗き込んでいる。
「あらまぁ、あの子らしいわね」
「うんうん、ゼクトらしい!これじゃ仕方ないな!ゼクトだしな」
ギルマスが可笑しな者を見る目で見ている。
受付嬢も同じだ。
「ほら、奴隷の女の子の為にやった…それだけだよ」
「ですが、たった1人の為に城を半壊させるなど酷すぎると思いませんか?」
「そうか? だったら俺だって同じだ…もし静子さんや幼馴染が同じ目にあったら…同じ事をするかも知れない…だからゼクトは間違ってない」
「そうね、私が酷い目にあった時にセレスくんはきっと、息子と同じ事をする…そういう事ですね…そう考えたら息子は悪くありませんね」
「静子さん、貴方まで」
「それじゃギルマスに聞きます、もし貴方の家族が酷い目にあった時に貴方は剣を抜かないのかしら?」
「そうかだな、確かに抜くよ確かに…あはははっ…仕方ないな…私もきっと同じ事する」
「なら、ギルマスもゼクトを責められないですよね」
「仕方が無い…納得したよ…まぁ帝国は強い男が偉いなんて言っていたんだ、この話はもう終わりで良い…セレスにゼクトをどうにかして欲しいって指名依頼が入ったんだがギルドからキャンセルしておくよ」
「納得してくれて良かったよ、まぁ無理やりなんて話だったら逆に俺が帝国に文句言いに行くだけだ」
「それは止めてやって欲しい」
ゼクトはゼクトらしく生きているんだな…
元気そうで何より頑張れよ!
だけど…こっちの三人はまだ駄目だな。
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