第32話 俺の居場所が無い街④
こうして一人になって考えてみると…俺は一体何がしたかったのか。
つい考えてしまう。
『勇者』は全てを手に入れる切符。
そう言われていた。
お金、女、地位すべてが手に入る。
そう周りは言っていた…セレス以外はな。
だが、セレスだけが『究極の貧乏くじ』なりたいとは思わない。
俺なら全力で逃げたくなるよ。
そう言っていた。
確かに『成功への切符』どんな願いも叶う。
それは嘘ではない。だが、それは勝った場合だ!
勝って、勝って勝ち続けた末に手に入るだけだ。
途中で負けたら、全ての権利どころか命も無くなる。
冷静になれば…こんなくだらない職業は無い。
セレスの言う『貧乏くじ』の意味が良く解った。
そもそも、似たような活躍をすればS級冒険者でチヤホヤされ金に不自由しない。
別に『勇者』である必要も無い。
『馬鹿だった』『幼かった』いま考えればそれに尽きる。
もっとしっかり考えていれば…違った結果があったのかも知れない。
俺はこれからどうするべきか?
どうすれば良いのか?
まだ結論は出せない。
朝になりシュートおじさんの店を見に行った。
「シュートおじさん、お久しぶりです」
「おおっゼクトくんじゃないか? 随分大変だったようだね」
事の重大さから、俺の失態を知らない人間等、この世の中には居ないのかも知れない。
シュートおじさんはマリアの父親で雑貨店を経営している。
しかし、随分とまた小綺麗な店になっているな。
前は薄汚れたお店だったのに。
「驚いただろう? いやぁ~僕がセレスくんに昔読み書きを教えたり、本を貸してあげていただろう? そのお礼だってこういうお店のヒントやレイアウトまで全部書いて送ってくれたんだよ!なんでも『コンビニ』って言うんだ。24時間うちは閉まらないお店なんだよ」
「セレスが!」
「ああっ義理堅いよね。しかもその改装資金まで送金してくれてね。全くマリアじゃなくてまるでセレスが僕の子供みたいだよ」
マリア…此処に戻っても多分辛いぞ。
セレスは此処でも関わっているのかよ!
本当に彼奴はジムナ村が好きなんだな。
俺はこの村に生まれたからセレスに助けて貰えたのかも知れない。
「あらっゼクトちゃん! あなたこの村に帰ってきていたの?セレスちゃんは居ないの?」
ミサキさんだ。
マリアの母親で背が少し高くて胸が大きい。
マリアも俺もこの人が少し、いやかなり苦手だ。
今の様子を見れば解かるだろう?『セレスちゃん』なんだから。
マリアより先にセレスの事を聞いてくる位、セレスが好きなんだぜ。
ババアの癖に。
確かに綺麗だけどBBAなんだから気持ち悪い。
だけど、今ならそれも良く解る。
お手伝いをしっかり自分から率先して行い。
『ミサキさんって凄く美人で綺麗ですね』を連呼。
子供の癖に花束や芋や料理をして赤い顔で
『作ったんで食べて下さい!』
これで可愛がらないババアは居ないよな?
しかも旦那には『綺麗な奥さん貰って良いな~人生勝組ですね』だ。
そうだ…
「セレスなら俺の母さんと結婚して幸せそうでしたよ! あとマリアはそこに預けてきました」
「嘘、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが、セレスちゃんが…静子と結婚!そんなぁ~あり得ない!ちっ先を越されたわ!」
顔が青くなって壊れたみたいで怖いな。
「シュートおじさん、あれ大丈夫か?それにいいのか?」
「相変わらずだなミサキは、まぁ昔からセレスくんが好きだから良いんじゃないか? もうミサキも良い歳だし、母親としての務めも終わりだ。好きにしても良い年齢だ。セレスくんが夜這いでもかけてきたら、そのまま譲っても良い位だ。あのこはほらな」
セレスのババコンは、結構有名みたいだな。
知らないのは俺達だけだったのか?
女は子育てが終わり30歳位になると『女』として見られなくなる。
その後は大体が昔過ごした愛情があるから旦那と過ごす者が多いが、もし他に好きな人が出来たら別れても問題はない。
その為30歳位の女性には夜這いを掛けても問題はない。
勿論しきたりに則っての話。
乱暴な話ではなく、家に入り込み枕元で女性が起きるまで正座。
女性がそれに気がつき受け入れる場合はそのまま布団へと誘う。
受け入れない場合は女性も座って断る。
男性は断られたら、ごねないで帰る。
そういうルールだ。
多分、セレスが母さんじゃなくミサキさんを選んだら、そのままシュートおじさんは譲ったんだろうな…
話を逸らそう。
「しかしこのお店綺麗で大きくなったなぁ~」
この店も変わったものだ、小さな雑貨だった筈が、昔の広さの10倍位ある…しかも従業員も見ただけで6人居る。
「ああっ、さっきセレスくんが教えてくれた『コンビニ』タイプのお店が大当たりしたんだ。最近は観光客がや人口が増えたから24時間営業にして人を雇ってみたんだ、経営が上手くいってね、街で4店舗経営しているんだよ」
そう言えばこの店の半分位の大きさの店が宿屋の隣りにもあったな。
セレスはいったい、何者なんだ…
ライバル視していた俺が馬鹿みたいだ。
この街は皆が幸せそうだ…見た感じ他の街みたいにスラムも無く、全ての人が幸せそうに暮らしている。
セレスが何者か解った気がした。
彼奴はきっと『寂しんぼ』なんだ。
小さい頃『1人だったから』きっと自分の周りにいる人間が困るのが嫌なんだろう。
だから、自分の事以上に『自分の周りの人間』を心配しているんだ。
俺は勇者だったから、同じ事が出来るかと言えば出来たかも知れない。
だが、それは自分の全てを『故郷』や『自分の大切な存在』に使っての事だ。
セレスは、自分の事では全く贅沢をしない。
まるで故郷や妻や幼馴染に『全てを捧げている』としか思えない。
そんな人間と同じ土台で争って勝てるわけが無い。
幼馴染の三人とは別れて良かったんだ…
彼奴らと結婚したら『献身的に尽くすセレス』と一生比べられるんだぜ。
きっと、すぐに破綻する。
あんな奴にどんな愛妻家だって敵わないだろう。
『敵わないな』 こんな性格の悪い、俺の為に教会や王に怒り…追放した後も…恐ろしいマモン相手に戦ってくれた。
きっと俺も彼奴の大切な者の1人なんだろうな。
だから、此処迄の我儘を許してくれたんだ。
此処はもう俺の知っている故郷じゃない。
此処は優しい故郷だ、勇者を辞めた俺にも優しい。
友達のセレスも俺に優しい。
だが、此処やセレスの傍に居たら『きっと俺は駄目になる』
出て行くしかないな。
俺は父さんや街の人達に挨拶をして街を立ち去った。
『帝国』にでも行ってみるか…
魔王と戦わない俺には時間も自由もある。
これはセレスがくれた物だ。
ゆっくりやりたい事を探せば良いんだ。
※ これで第一部が終わった感じです。
次回セレスSIDEの話を書いて、第二部がスタートします。
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