第31話 俺の居場所が無い街③

第27話 俺の居場所が無い街③


俺は父さんの家を出る事にした。


お腹が大きいと言うのに、夜の営みは激しく、あんあんギシギシしているし、獣人は声が大きいから何かと気まずい。


すこしは声を押さえるなり自重して貰いたい。


俺の部屋の隣で父さんと俺より若いチワの声が一晩中しているんだ…これじゃ眠れねーよ。


チワは親父の嫁、言ってしまえば義母だ…幾ら可愛くても対象外だが。


そんな事は理解している。


だが、やられて見れば解る。幾ら対象外の相手でもこうも見せつけられると…なんだかな。


今の俺は昔のセレスと同じだ。


年上が好きなセレスにはマリア達3人は多分対象外だろう。


それでも四六時中イチャつくのを見せつけられたら気分は良くないよな。


まして…自分が一人の状態なら尚更だ。


「父さん、俺、今日の夜から宿屋にいくよ」


「あははっ、なんだか悪いな」


「ごめんなさい…その私声が大きくて」


二人とも顔を赤くして言われてもな。


「気にしなくて良いよ!親子とはいえ、新婚なんだから、俺が配慮するべきだった。悪いな」


顔を赤らめる二人を見ると何だか不思議な思いがこみ上げてくる。


ついでに母さんとセレスの事も思い出した『夫婦』という事はセレスも、やっている筈だ。


恋愛には色々な形がある、そんなのは解っている。


まして、セクトール父さんは昔から女癖が悪いから普通におき得る話だった。


だが、自分の両親両方が自分と同じ年位の相手とやっている…『気持ち悪い』そう思うのは仕方ないだろう。


特にセレスは俺と一緒に悪さして母さんにゲンコツを食らったり、更に言うなら赤ん坊の時には、おしめまで替えて貰った事すらある筈だ。


二人で笑っている時にお似合いだと思ったけどよ、いざ父さんとチワのを聞いて、母さんとセレスを想像したら、気持ち悪くなった。


だってよ、二人の間に子供が生まれたら、俺の弟か妹なんだぜ。


俺と同い年の親友と母親の子…考えるだけで気持ち悪い。


だが、セレスには借りばかりだ。


これは頑張って慣れるしかないな。


◆◆◆


「冒険者ギルド、ジムナ村支部へようこそ!」


なんでカイトおじさん(メルの父親)がギルドに居るんだ?


「カイトおじさん、何やっているんですか?」


「ああっゼクトか? 久しぶりだな! 勇者辞めたんだってな」


「まぁ色々あって…」


「はははっ、知っているぞ、そんな暗い顔するな、これから頑張れば良いんだ」


「ありがとうございます、それでカイトおじさんはギルドで何をしているんですか?」


刷り込みって怖いな、勇者にまでなった俺がつい敬語になってしまったよ。


「儂はこのギルドのギルマスだぞ!凄いだろう?最も冒険者が30名も登録していない弱小田舎ギルドだがな!ちゃんと組合に登録のある正式ギルドだ!」


冒険者ギルドの登録は難しい筈だ。


新しいギルドの新設等貴族でも後ろに居ない限り出来ない筈だ。


「また、何で冒険者ギルドをやろうなんて思ったんですか? 冒険者の経験すら無いのに」


「そりゃぁ、お前、将来セレスがこの村に戻って来た時を考えたらギルド位あった方が良いだろう? 村長からも勧められたんだよ」


「確かにそうだけど…良くギルド申請通りましたね」


「申請理由に『セレスの為』と書いたら普通なら1年待ちの申請が1週間で降りたんだぜ!しかもこの建物もすげー事に無料で作ってくれたんだぜ」


そりゃギルドも気の毒だな。


セレスは俺の作った勇者パーティのメンバーで英雄だ。


英雄セレスの街にセレスの為にギルドを作りたい。


そんな事言われたら、圧力があちこちから掛かるから『すぐにやる』以外無いよな。


「確かに…そりゃすぐに動いてくれるな」


「お客さんがきたの?」


「ああっ、ゼクト坊が帰ってきたんだよ!ゼクトだよ」


「ゼクトさん、久しぶり! 懐かしいわね。そういえば、勇者を辞めたんだって?それで今、メルはどうしているのかしら?」


「勇者パーティを解散した時にセレスの所に預けてきました! セレスが俺の母さんと結婚していましたし、かなり揉めましたが、その方が良いと思って」


嘘ではないよな。


かなり揉めたが置いてきたのは事実だ。


「それで、今日はどう言ったご用件ですか? ゼクト様」


先程と違いカイトがギルマスらしい顔つきに変わった。


「いや、今日は?特にない、ただ久々の里帰りだから、あちこち見て回っているんだ! しかし、随分変わったな!」


「そうか、魔族との停戦からこっち、この辺りじゃゴブリン位しか狩るものはいねーな、今じゃ冒険者と言う名のなんでも屋だ」


言われて見れば壁に貼ってある依頼書は、虫の駆除の手伝いや猪退治…猟師や農民の仕事ばかりだ。


「こんなので食えるのか?」


「この辺りは物価も安いし、普通に暮らせる…お前だってこの村出身なら解るだろう? それこそ銀貨5枚(約5万円)あれば生活は出来るんだぞ…都会に行って忘れたか?」


確かに食うに困らない位、米や作物をくれたり、助け合いの精神が強いから、そりゃそうだな。


「確かにそうだ」


「大きく稼ぐとなれば無理だが、戦いに疲れてのんびり暮らすには良い街だと思うぞ、S級のお前からしたら物足りないかも知れんが、熊や猪を狩って月に金貨3枚の生活…それも悪くねーぞ」


「そうですね、考えて見ます」


「ああっ疲れたろうから、暫くは息抜きしながら生活したらよい」


「そうですね…暫くブラブラしながらゆっくり考えて見ます」


「そうしろ、そうしろ…困った事があれば相談に乗るからな」


俺は手をヒラヒラさせながらギルドから立ち去った。


随分、故郷も変わったもんだ…今じゃ小さいながらも宿屋もある。


俺は酒場でエールを飲んだ後、宿屋に向かった。


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