20 冒険者登録

「じゃあ、帰ろうか」

「うん!」


 リルに全鑑定を使ってから、ゴブリンの洞窟を制覇し、今に至る。別に、収集品があるわけでもないけど、リルは少しずつ剣に慣れているし、体の動かし方も知ってきている。だが、懸念があるとすれば、彼女のステータスだった。


 うーん。セフィロトの呪縛か……。明らかに怪しい。きっと職業がないのはそのせいなのだろう。だけど、一週間後には冒険者登録がある。どうにかならないものか……。


「ねぇ、リル」

「なに?」


 俺はなんとなく声をかけた。振り返るリル。だけど、かけるべき言葉も見つからなくて……。


「いや、なんでもない。行こう!」

「うん……。変なの」





 それから一週間が経った。その間リルと森でスライムやゴブリン相手に戦闘を重ねたものの、リルは一向にスキルも魔法も覚えなかった。俺の職業が異例のツリーマスターであるが故に他の人と違うから比較対象にはならないが、村長の話ではある一定のレベルや条件を満たすとスキルや魔法を覚えるらしい。だが、リルがスキルや魔法を取得するような兆候は一向に現れなかった。


「あ、あのさ。リル……」

「ん? どうしたの?」

「その……えっと……」


 村長の家の前で立ち止まる俺ら。なんだか言い出しづらい。そんな空気の中、リルは不思議そうに首を傾げた。


「ふぅ……」


 深呼吸してみる。そして意を決して口を開いた。


「あのさ。今日登録が終わったら、話がある」


 俺は隠し事が得意ではない。それは十二分にわかっている。それに性分でもない。だから、リルに本当のことを話しておこうと思う。リルが信じなくてもいい。話しておきたかった。


「うん。いいよ」


 リルは快く受け入れてくれた。


「ありがとう」


 俺らは村長の家に入る。すると、そこにはすでに何人かの人が待っていた。


「やぁ! ハンスくん、そしてリルちゃん」


 出迎えたのはセシア村長だった。セシア村長はペコリとお辞儀する俺たちを歓迎してくれた。


「では早速ですが、こちらへ来てください」


 そのまま俺とリルは村長宅の一室に案内される。そこにはセシルもいた。そして、知らない人が二人いた。恐らくギルドから来た人達だろう。制服のようなものを着ている。


 セシルが俺の隣に立つリルにやけに視線を送っているが、二人は初対面だったはず。どうしたのだろうか。俺が不思議に思っていると、早速冒険者登録が始まった。


「私は王都中央ギルドから来ました、サイス・ルールと言います。よろしくお願いします」

「同じく中央ギルドから来ました、ギル・リッターです。よろしくお願いしまーす」


 先に挨拶した女性の方は長い黒髪に黒縁眼鏡、ピシッとした制服の着こなしと言い、とても真面目そうな印象だった。対してギルと名乗った男は茶髪でチャラそう。服もよれよれだし。


 そんなことを俺が思っていると、セシア村長が微笑みながら語る。


「サイスは私の旧友でね。それに中央ギルドは王族派だから、二人は信頼できると私が保証しよう」

「セシア村長がそう仰るなら……」


 サイスさんは良いとして、ギルって人本当に大丈夫なのか? とも思ったが、今はセシア村長を信じるとしよう。


「俺はハンス・ハイルナー」

「私はリル。よろしく」

「うんうん。私はセシア・ヴィレ・ミミール。この村の村長をしている。リルちゃんとは初めてだね。よろしく。そして、この子が……」

「私、セシア……。よろしく」


 父に促されて、セシアは頑張って自己紹介したみたいだ。俺とリルはよろしくと頷いて応えた。


「では、早速冒険者登録を始めましょう。先ずは皆さんのステータスを記録させてください」


 サイスさんが手拍子を一つすると、早速冒険者登録が始まった。やはりステータスは確認されるよな……。俺は少し心配になる。何故なら俺もリルも普通のステータスではないからだ。


「あ、見せるのは表向きのステータスで大丈夫ですよ」


 心配する俺のことを思ってか、サイスさんはそういった。ふむふむ。つまりは隠蔽していても結構ということだろう。


「いいんですか?」

「ええ。そもそもこの冒険者登録自体、形式的なものですし」


 えー。それギルドの人が言っちゃうのかよ。大丈夫なのか? 特にギルとか口滑らしたりしないのか? まぁ、なるようになるか。


 俺は職業が大魔導士である偽りのステータスを見せた。そして、リルの職業は俺が隠蔽した僧侶である。セシアは偽りなしの勇者だ。俺たちのステータスを見て、サイスさんが首を傾げている。


「うーん。大魔導士はまだいいとして、僧侶ですか……」

「そうっすね。僧侶は勇者パーティーには弱いっすね」


 ん? 何の話だろうか。


「リードロット先生曰く、ハンスくん、相当強いらしいじゃないっすか。なら大賢者とまでは行かなくてもSランクの賢者でいいんじゃないっすか?」

「ええ。それもそうね」

「それに、リルちゃんの方は聖女とか」

「私もそれくらいが相応しいと思うわ。なら決まりね」


 なにやらサイスさんとギルの間で何かが決まったようだ。


「ハンスくん。あなたは今日から賢者として表向きは振る舞ってください。そしてリルちゃんは聖女ね。ギル。お願い」

「おーけーっすよー」


 なんと、腑抜けた掛け声とともに、ギルは俺とリルに全隠蔽をかけたようだった。意外とやるやつなのだろうか。リルはというとキョトンとしている。


「では、次に三人のパーティー名を決めなくてはなりませんね」

「パーティー名か……。後から変更ってできるんですか?」

「えぇ。できないこともないですが、する方はまず居ないですね。せっかく築き上げた知名度、ネームバリューをゼロからとまでは行かなくても、やり直すことになりますから」

「そうですか……。セシル、リル。何か案ある?」


 俺が尋ねると、セシルもリルも首を左右に振った。どうしたものだろうか。


 先ずは俺たちの特徴を挙げてみよう。職業は勇者、賢者、聖女の三人となっている。そして、異例の若さでの冒険者登録。新人、ルーキー。三つ星ルーキーズとか……いや、これはないな。それにパーティーメンバー増えるかもしれないし、いつまでも新人ではないから。三人という人数を名前に入れる必要もないか。


 勇者、賢者、聖女ともにSランク……。エスランカーズだと露骨だしなぁ。エス……エスターズ。ダサいか。実際、俺の職業はランクないし、リルに関しては職業がない。


「チーム名、今は仮に決めておいて、後から変えたかったら変えてもいいですか」

「ええ、構いませんよ」


 俺の提案にサイスさんは頷いてくれた。と言っても一つチーム名は考えていたものがある。白髪のリルに銀髪のセシル。そこから取って……。


「では、『白銀』でお願いします」







 村長宅から出て俺とリルは帰途についていた。辺りが暗くなる中しばらく歩くと、リルがやはり尋ねてきた。


「それで、話って?」


 俺はリルに頷きかけると神妙に話し始める。


「リルが何故スキルも魔法も習得しないかについてだ」

「やっぱりなにかあるのね」

「あぁ……」

「それで、どうなの?」

「リルはな……。呪われているらしい」

「そうなの……」


 リルの顔に影が差す。それは単に日が暮れかけているからだけではないだろう。


「それでだな。冒険者として旅する中で、その呪いを解く方法を探そうと思うんだ」


 リルは返答せず、ただ頷くだけだった。俺は西方の地平線に沈み行く朱い夕陽を眺めながら、彼女を縛る呪詛をいつか必ず解こうと心に決めるのだった。

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