19 セフィロトの呪縛

 またあの夢だ。白い女神が囚われていて。俺は救えない。救おうとするけど、手が届かない……。


「ん……」


 目覚めると、またリルが俺の上で寝ていた。いや……起きてるのか? なんかモゾモゾしてるし。嫌な気はしないが、如何せん重たい。


「おはよう」

「うん、おはよう……」


 目をはっきりと開けてリルのことを見ると、眠たそうな声で挨拶された。


「なあ……。なんで、いつも俺の上に乗ってるんだ?」

「……」


 返事がない。ただの屍のようだ。って、違うか……。


「おい、聞いてるか?」

「うん……」

「起きろー。朝だぞー」

「うん……」


 なんか上の空だな。返事が曖昧だ。


「おーきーろー」


 ちょっと強めに揺すったら、反応があってやっと起きた。


「あ、ごめん。なんだか心地よくて……」

「まあいいけどさ。それより退いてくれる?」

「うん、わかった」


 リルはコクリと頷くと、俺の上から退いた。そのまま俺らは起きて下の階へ向かう。朝食の時間だ。今日のメニューはパンとサラダだった。


「いただきます!」

「はい、召し上がれ」


 この世界の料理も結構美味しい。日本食には敵わないけど、流石はお母さん。職業が料理人なだけはある。そんなことを思いつつ、ありがたく朝食を平らげる。


 食事が終わると俺はリルを連れて家を出て森へ向かった。今日から冒険者になるための準備をするのだ。


 森の中を慎重に進む。リルは胸を張りながら前を向いて歩いてはいるが、その手に持つ短剣は小刻みに震えていた。ちなみにその短剣は俺がお父さんにもらったものだ。俺は魔法で戦うので今はリルに貸しているのだ。


 しばらく歩いていると、早速魔物が現れた。草の茂みから現れたのは一体のスライムだ。青いゼリー状の身体を持つモンスターである。俺は戦い慣れているけど、リルはまだ慣れない。リルはスライムに対峙すると、剣を抜き構えた。そして、えいっと振り下ろす。しかし、ぴょんと跳ねてスライムに避けられてしまった。


「むー! これでもくらえ!」


 慌てて今度は剣を突き刺すが、リルのその攻撃はやはり当たらない。


「えいっ!」


 その後もリルは何度かぴょんぴょん跳ねるスライム目がけて攻撃するが、全く当たらなかった。


「ふぅ……。疲れてきたよ……」


 リルは息切れしている。体力が底を突いたみたいだ。仕方ない。ここは俺が手本を見せてやろう。


「よし、じゃあ次は俺に任せてくれ」


 俺はリルに向かって右手を出す。


「はい、どうぞ」とリルは俺に剣を渡した。俺はそのままスライムに向かって走り出す。そして、スライム目がけて一突きした。すると、見事にスライムの核にヒットする。


「ほら、こうやるんだよ」

「すごいね。私にもできるかな?」

「大丈夫だよ。やってみなよ」


 それからしばらく練習したら、リルもスライムを一突きできるようになった。その後も二人でスライムを倒しながら森を進んだ。


「あれは何だろう?」


 奥へ進むと洞窟があった。中に入ってみると広い空間が広がっている。そこにはゴブリンが数体いた。緑色の肌をして腰布だけを身に着けている。数は四体いる。


「どうしよう……。戦う?」

「そうだなぁ。まあ、いいんじゃないか? 俺が戦い方を見せてあげるよ」


 俺は特に危険はないと判断した。だから、戦ってみることにする。まずは、俺から仕掛けた。一体のゴブリン目がけて駆け出し、短剣を抜いて斬りかかる。容易に一体目のゴブリンを倒した。二匹目が襲いかかってくる。それをかわすと、腹に蹴りを叩き込んで距離を稼いでから魔法ライトニング・スフィアを使った。雷の槍を喰らったゴブリンは消し炭になって消えた。あと二匹残っている。一体は斧を振り回してきた。危ないので避ける。その隙に、背後に回り込んで蹴り飛ばした。そのまま雷魔法でとどめを刺す。


「よし。あと一体。リル、やってみるか?」

「え! 私?」


 俺はリルに向かって鞘に入れ直した短剣を投げた。リルはそれを危うげにキャッチしたが、必死に首を横に振っている。


「うーん。どうしたものか……」


 リルの職業は農婦となっているが、明らかにライオットの隠蔽がされているはずだ。そのせいでレベルの上昇もステータスの上昇もステータス画面に反映されないのだと思うし、実際は国がその存在を隠すほどに優れた職業なのではないかと俺は推測していたりする。つまり、今のリルならゴブリン一匹程度、屁でもないはずなのだ。


「ステータスが分かればなぁ……。あ、そういえば!」


 俺、全鑑定あるやん。なら話は早い。俺は雷魔法で残りの一体のゴブリンを倒すと、リルに詰め寄った。恐らく洞窟の奥に他にもゴブリンはいるだろうし、今はリルのステータスを把握することが先だ。


「リル。自分の本当の職業を知りたいか?」

「え、本当の職業? 私は農婦だって……」

「いいや、違うんだ。いいからステータス見せて」

「うん……」



【名 前】リル・フォゼット

【種 族】ヒト

【性 別】メス

【年 齢】9歳

【職 業】農婦

【レベル】7

【体 力】21/21

【魔 力】21/21

【攻撃力】7

【防御力】7

【知 力】7

【精神力】7

【俊敏性】7

【幸 運】7

《スキル》

『種まき』

《魔法》

 なし

《その他》

 なし



 やはりリルはレベルが上がっていなかった。あれだけスライムを倒したというのにも関わらずだ。これはやはりおかしい。


「ほら。農婦でしょう?」


 リルは確かめるように俺に告げる。その表情はどこか自嘲しているかのようだった。


「あぁ。だが、あれだけスライムを倒してもレベルが一つも上がらないのは変だ」

「それは……」

「なぁ、俺の鑑定魔法で見てもいいか?」

「え、えぇ。いいわ」

「よし。全鑑定!」


 俺はリルに全鑑定を行使した。そしてその異様なステータスに唖然とするのだった。



【名 前】リル・ラ・サンタリア

【種 族】ヒト

【性 別】メス

【年 齢】9歳

【職 業】なし

【レベル】11

【体 力】33/33

【魔 力】33/33

【攻撃力】11

【防御力】11

【知 力】11

【精神力】11

【俊敏性】11

【幸 運】11

《スキル》

 なし

《魔法》

 なし

《その他》

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【セフィロトの呪縛】



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