17 消えた家族の行方

 俺は村長の家から帰り、家に着くと直ぐにドアを開けて、家中に声を張ってリルに呼びかけた。


「ただいま。リルいる?」


 すると、家の二階から音がした。そして、階段を急いで駆け下りる足音が続いた。


「遅い! 心配したんだから!」


 そう言いながら、リルが玄関へと駆けつけて文句を言う。顔をよく見ると頬の当たりが湿っていて、目も仄かに赤い。もしかして、泣いていたのだろうか。


「ごめんな、色々あって」

「もう……でも無事でよかった」


 そう呟くと、リルは俺の元まで歩み寄って、体を抱きしめた。咄嗟のことに驚いたが、俺は彼女を抱き返しながら「ごめん」と謝った。


 それから夕飯を食べて、寝る時間になった。だけど、この家にはリルの部屋がないので仕方なくリルは俺と一緒の部屋で寝ることになった。


「おやすみ……」

「ああ、おやすみ」


 新月の今日は窓からの月光もなく、部屋はすっかり暗い。真っ暗闇の闇夜の中、俺とリルは眠りにつく。最初はリルと一緒だと気になって眠ることができないのではと心配だったが、疲れていたせいか意外とすぐに眠れた。


 次の日になり、目を覚ますと部屋には誰もいなかった。てっきりリルは先に起きて朝食の準備をしているのかと思い、特に気にせずにリビングへ向かう。しかしそこにもリルはいなかった。というかお父さんもお母さもんだ。トイレにでもいっているのか? そう思いつつ、とりあえず朝食を食べるためにテーブルに向かう。すると机の上に手紙があった。どうせリルからの置き手紙だろうと思って開いてみると、それはなんと、ライオットからの手紙だった。内容はこうだ。


『フォゼット家で待つ。ライオット・リードロット』


 なんだよこれ。家族がいないのはライオットの仕業か? ならこれは罠なのだろうか。だが、目的が例えば殺すことだとしたら、俺が生きているのは何故だ? 


 ライオット程の力があるのなら、俺の寝込みを襲えばいとも簡単に殺せたはずだ。なら殺すことが目的ではないことになる。わからない……。


「行くしかなさそうか……」


 フォゼット家は記憶にあるので、転移できる。魔力は既に回復しているし、俺一人ならワープできるだろう。俺はキッチンにあったりんごを一つ食べて腹ごしらえすると、覚悟を決めた。


「空間移動!」


 景色が変わる。白、黒、青、赤、緑、黄色……。それらが段々と形になっていく。気づくと俺はフォゼット家のリビングで立っていた。


「やはり転移魔法が使えるのだな。まぁ、座り給え」


 目の前にはライオットがいた。ライオットはリビングのテーブルに肘を付けて椅子に座りながら、こちらを凝視してくる。


「俺の親やリルをどこにやった!」

「そのことか。案ずるな。それより一つ、質問に答えてもらおう」

「質問?」

「あぁ……。お前は人類の味方か? それとも人類の敵か?」

「え?」


 ライオットの表情は部屋が薄暗いせいでよく読み取れない。だが、いつにもましてピリついた空気を纏っているように思えた。質問への答えはもちろん決まっている。


「俺は人類の味方ですよ」

「本当だな? その言葉信じるぞ」

「はい。神に誓います」

「そうか。ならいい。では、お前には話しておくか……」

「話ですか?」

「あぁ。実は魔王軍が動き出している。まだ実害は少ないがな」


 ライオットの口から出た単語に俺は驚きを隠せなかった。魔王軍……。そんな話聞いたことない。魔王はかつて存在したという伝説があるが、今もなおいるだなんて。ライオットは俺の反応を一つ見ると、頷いてから話の続きをした。


「しかも、その勢力は今までとは比べ物にならないほど巨大だ。それこそ勇者と同等クラスの実力を持つ魔族も確認されていると聞く」

「そんなぁ……」

「私は奴らと戦うために永年研鑽してきた。だが、私一人ではどうしようもない。私が分身できればいいのだか、そのような便利な魔法は残念ながら存在しない。なので信頼の置ける精鋭を集めているんだ。そして、ある理由で王女リルが魔族に狙われていてな。この町で身を隠していたんだが、そんな中、お前が現れたというわけだ」

「そうなんですね……」

「お前の職業、能力に私は可能性を感じるのだ。もし、私と共に人類のために戦ってくれるなら、どうかこの手を取ってくれ」


 ライオットはそう言って俺に右手を差し出した。俺は逡巡する。ライオットは他でもない、俺の記憶を書き換えた存在だ。訳ありみたいだが、リルのことをあの町に閉じ込めていたのは揺るがない事実だ。


 俺は敵意こそないが、二度も騙されたライオットのことはとても警戒している。だが、そんな俺の心境を察したのか、ライオットは頭を下げた。


「記憶を書き換えたこと、本当にすまないと思っている。まだあの段階では、お前が魔族側の可能性があったからな」


 謝るライオットが意外だった。


「どうか、この手をとってくれ」


 俺は心に決めて、ライオットの手を握り返した。その手は皮が厚く、硬いが優しさを感じられた。


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