第3話 クワっす

 「これにします!!」

 「へ?」


 小屋に積まれていた訓練用の武器の数々、その中から俺が選んだのはクワ。

 そう、農具である。


 「ショーワル様?差し出がましい事とは存じますが、それはクワと言って田畑を耕す際に使用する農具にございます」

 「はい!!」

 「???」


 ミレナには理解できないか……このレベルの話は……

 俺がクワを選んだのにはちゃんとした理由がある。


 そもそも、ルーンファンタジーの世界では手に持てるものは大体武器として扱える。

 そして武器にはそれぞれ該当するスキルレベルが存在し、その武器を使えば使うほどスキルレベルが上昇、ステータス等にボーナスが入るシステムとなっている。


 では何故クワなのか?答えは単純である。

 ルーンファンタジーでは農具を武器として扱える事は前述の通りだが、それとは別に農家スキルと言うものも存在する。

 農家スキルそのものは特に特殊な技能が身につくとかは無いのだが、単純なステータスアップの恩恵があるのだ。


 つまりクワを振るえば武器としてのクワのスキルレベル、農家のスキルレベルを同時にあげることが出来るので成長が早いのだ。


 俺がこのゲームを最初からプレイする際はまずクワを使ってこのスキルレベルを上げ、ステータスが充分に上がったら比較的強い敵に挑んで経験値を荒稼ぎしていた。


 それにクワのスキルレベルが上がればステータスだけではなく土属性のスキルレベルも上がるので将来魔法を使うようになった際にはちょっとアドが取れるおまけ付きだ。


 「よいしょっと」


 とは言え、まだ6歳になったばかりの我が身ではボロいクワを振り回すのも一苦労しそうだ。


 ひとまずクワを担いで訓練場の隅に移動、試しに地面に振り下ろしてみる。


 「うぉっ」


 踏み固められているのであろう地面は簡単には耕されてはくれず、反動でひっくり返りそうになってしまった。


 「ご無事ですか?」

 「あ、ありがとうございます」


 不安そうに抱き止めてくれるミレナさんにお礼を言いつつ再度チャレンジ。

 今度は先程の反省を踏まえ、しっかりと腰を下ろし重心を安定させて振り下ろす。


 すると、サクッと言う音と共にクワの先端が地面に突き刺さった。


 「やった!!」


 2度目のチャレンジにしては上出来ではないか?


 「ショーワル様?」

 「あ、ミレナさんは自分のお仕事に戻っても大丈夫ですよ?見ててもつまらないでしょうし」

 「いえ、私はショーワル様のお世話を任されておりますので」


 マジか、俺としては成長が感じられて楽しいがミレナさん的にはいきなりクワを振り回し始めたガキを眺め続けなければならないのか。


 「ショーワル様は騎士を目指しておられるのですよね?」

 「はい!!」

 「何故、クワを?」

 「えぇっと……そう!!今の俺には基礎体力が足りません、そんな俺がいきなり剣を振ろうとしても逆に剣に振り回されてしまうのが関の山です。父上にはそんなみっともない所をお見せしたくないのです。だからまずはクワで身体を鍛えるのです」


 自分で言っておいてアレだが何ともまぁそれっぽい事をスラスラと喋るものだ。

 これはショーワル自身の才能か何かなんだろうか。


 「なるほど」


 感心したようにミレナさんが頷く。


 え?マジで今ので納得してくれたの?

 俺はそれで良いんだけど……大丈夫かな?この子、悪い大人に騙されやすそうでちょっと不安だな。

 まぁミレナさんもストーリーから逆算すれば12歳ぐらいだもんな。


 俺はミレナさんの事も守れるよう、ミレナさんに擦り寄る悪い大人を耕してやるイメージでクワを振るい続けた。


 クワを振るい始めてから30分程。

 流石に始めて武器?を振るったせいなのかそろそろ腕がパンパンになり始めていた。

 次で最後にしようかな?と気合を入れてクワを振り下ろす。


 「おっ?」


 その一振りは今までと違い、スッと地面に突き刺さった。

 それと同時に体が少し軽くなったのを感じる。


 「やった!!」


 そう、これがきっとスキルアップと言うやつだ。

 クワがスムーズに地面に刺さったのもスキルレベルが上がったおかげだろう。

 ステータスアップの恩恵もあり、次はもっと上手くクワを振るえる気がする。


 おいおい、この調子で行けば俺は世界一の農家に……いや、目的を履き違えるな。

 とりあえず今日はゲームとほぼ同じシステムで強くなれる事が確認できたのだ。

 それだけでも大きな収穫だろう。


 「ミレナさん!!見ました?うまくクワを振るえました!!」

 「はい、しかとこの目に焼き付けております。さぁ、そろそろ朝食の時間です。旦那様は少なくとも数日間は書類に埋もれているでしょうが……一度汗を流してお身体をキレイにしてはいかがでしょうか?」

 「そうします!!ありがとうございます!!ミレナさん!!」

 「ふふっ、では行きましょうか」

 「はいっ!!」


 そうして俺はミレナさんに連れられ風呂に入り朝食を摂った。

 パンにスープ、サラダにゆで卵と言う簡単なメニューだが、運動後、そして育ち盛りも相まっておかわりをしてしまった。


 食事の作法とかは大丈夫だよな?

 ミレナさんはにこやかにおかわりを持ってきてくれたが……これに関してはいつかこっそりミレナさんに教わる事にしよう。


 そうそう、他にもミレナさんには教わりたい事があったのだ。

 俺はおかわりをペロリと平らげると、ミレナさんの静止を無視してお片付けを手伝い、ミレナさんを見上げて口を開いた。


 「ミレナさん!!俺に勉強を教えて下さい!!」


 元教員としてはちょっとどうなの?と言う感じだがそもそも俺、この世界の文字も知らないし……聞くは一時の恥だ。


 フレイを救うためなら何時でも恥を忍ぼうじゃないか。

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