第10話 お呼ばれワンピースの「お呼ばれ」という響き、イマイチ好きじゃないがち

 その日の終業後、LIN〇を開くと大量の通知が届いていた。

 一つ目の通知は、実家の母からだった。


「A倉小学校の同窓会の葉書が来たけれど、どうする?」

「捨てといてくれれば大丈夫だよー! また今度の土日のどちらか、遊びに行くね」


 以上!


 二つ目は、この間集まった高校同期グループ。――その中身を確認して、私は驚いた。というのも、ついにメンバーの中の一人が結婚したというのだ。実は私の中高時代の友人はつい最近まで誰も結婚しておらず、自分がどういうわけかトップバッターとなってしまっていたのだ。


「おめでとう! 末永くお幸せに!!!」


 コメントと共にスタンプを送る。こういうのは、これくらいシンプルな方がいい――これは、自分が「祝われる側」を体験してみて思ったことだった。一般的に、言葉を増やせば増やすほど、「失礼リスク」というものは上がる。まあ、私たちのように、それなりに仲の良い友人同士ならそこまで神経質になりすぎる必要はないのだけれど。

 例えば、相手の素性を根掘り葉掘り聞きだすのはぶしつけだ。子どもの頃からの大切な友人が、どのような相手と結婚したかということにはもちろん興味がある。しかし、それは相手がのろけてくれるまで待つのが、スマートな応対だと思っている。

 あと、「びっくりした」と返すのははNGだな、と思っている。言外に「あんたが結婚できるなんて意外」という意味合いを含むと勘違いされたら嫌だ。

 更に、これは自分が先に結婚している側だからこそ気を付けなければならないと思っていることなのだが、余計なアドバイスも不要である。正直、結婚の早い遅いに価値はないと思っているのだけれど、やはり「早く結婚すれば早く結婚するほど良い」「遅く結婚するのは売れ残り」という概念を持っている人間がいるのも事実。そうすると、こちらがうっかり「先に結婚した私だから言うけど……」みたいなことを言ってしまうと、上から目線アドバイザーだと認定されてしまう危険性がある。


 細かすぎるだろうか。まあ、細かすぎるんだろうな。――しかし、これらのうち、どれかひとつならまだしも、複数組み合わさってしまうと、本当に不愉快な思いをすることがあるのだ。

 こんなに嬉しいお知らせがあった日に、自分の不愉快な思い出を呼び起こすのはやめておくけれど。そんなことより、ついにあの「お呼ばれワンピース」とやらを探さないといけないときが来たのか? ちょっとワクワクする。正直、自分のウェディングドレスは「でも全部白じゃん」といった気持ちになってしまって、イマイチ心が乗らなかった(贅沢)のだが、お呼ばれワンピースはまた別だ。大切な友人の式をそれなりに彩りつつも、友人の花嫁姿を際立たせるような、なんかそういう特別な一枚を選び抜いてみせる。俄然、やる気が出てきた。

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