桜花と旋律

霧這

マスクを涕泗(ていし)で濡らす

 また咲いてくれると思っていた。退孤守こもり飽きて半年ぶりに散歩してみる。小さな虫が飛散するみたいに目舞めまいに、マスクで更に苦しくなり動悸がする。誰だよ、御釈迦様ヅラで「外出れば気分転換になりますよ。」って言った奴。富んだ嘘っぱちだな。

 ヒイヒイ吸い笛の息をずっしりと吐き、老いたみたいに、気分が転換するどころか循環さえしていない散歩を、強引に決めたのは今年も桜を見たいからで。無論、春夏秋冬の「春」じゃない方の、春の桜な訳で。

 然し、目にしては如何だろうか。切り株じゃないか。

 病葉に侵されたのか老衰か存じないが、十月桜と同時に自分の邂逅わくらばの春も流行病に殺められた気がした。

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桜花と旋律 霧這 @Sachi8hyA9sya7

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